第3話 稼ぐのも楽じゃない

 なけなしの金を失った俺は、もう絶対に人なんか信じるかって気持ちになった。猫をいっぱい詰めた袋を蹴り飛ばしたい気分だった。そして俺は自宅の壁にキックをかましたら上の棚から大きな桶が落ちてきて足の上に落ちる。アナットバハ一生の不覚。

「痛ぇーうぉふぉあ」

 俺は痛めた足を抱えて近所の病院に行った。大げさかもしれないが、人一倍心配性なんだ。もし足の指の骨が折れているところを陸ナマコに襲われたら・・・・・・。


「心配ない。ただの打ち身だよ」

 医者にそう告げられて安心するが、診療代を持っていないことに気づいた。どうしようか。


「診察料は1300Gと」

「すいません。持ち合わせがないのでツケにしてもらえませんか」

「君ねぇ」

 医者に事情を話して少し待ってもらう事にした。仕方ない、また鉱石堀りで稼ぐか。といっても俺は別にこの仕事が得意とかそういう事ではない。人と話すのが苦手で、これといった能力のない俺は穴掘りぐらいしかない。


 張り紙を見て応募しようとすると、今回は募集が足りているのかないらしい。困ってしまった。他の求人を見てもとてもやれそうにない仕事ばかりだった。俺は給仕も料理も物売りもできない。でもえり好みはしてられない。だがしかし、たいてい不向きだとわかった仕事では痛い目にばかり合ってきた。目をつぶって応募して、あとは野となれ山となれだ。


 面接をなんとかパスした俺は、給仕係に採用されたが、皿を落としたりテーブルを間違えたりしてるうちにすぐに首になってしまった。ちくしょう、いつもこれだ。


 また求人を探す。今度は家を売る仕事だった。とてつもなく難易度が高い。果たしてこんな高いものを売ることはできるのだろうか。現場に行くと、こぎれいな住宅が建っていて、たくさんの金持ちが物色しに来ていた。俺は、昨晩徹夜で叩きこんだセールス文句を並べ立てて、なんとか売り込もうとしたが。なかなか契約してくれない。

「この建物は地震があっても大丈夫なのか」

気難しそうな中年男性が顎をすくって聞いてきた。俺は出来る限りの笑顔で一言告げた。

「大丈夫です。このマンメード工法で建てられた家はびくともしません」

 

 直後に地面から激しく揺さぶられ、俺たちはすぐにへたり込んだ。直後、男性の足元の床が抜けて、彼は足をくじいてしまった。


「このいかさま野郎。お前のいう事は金輪際信用しない」

 男性は怒って出ていき、俺はまた首になってしまった。ツキのない事ではずば抜けて、他に並ぶものがいない。もうこれで物売り関係はこりごりだった。でも、運送系は過去にやってみて馬が逃走したり、馬車の車輪が外れて転がったり散々だった。背に腹には代えられないので、前の会社とは別の運送屋に申し込んだ。


「この荷物を隣町にまで届けてもらいたい」

「はい。わかりました」

 といって地図をもらったのだが、これがまったくわかりづらい地図で俺は上にしたり下にしたり、はたまたひっくり返してみたりしたのだが現地点すら見当がつかなかった。雇い主の所へ行き地図の交換を申し出た。


「これわからないんですが」

「馬鹿者め。それは裏だ。表は反対側だ」

 よくみると地図を透かして見ていた。これでは先が思いやられる。一抹の不安を抱きつつ俺は馬に鞭を当てた。


ヒヒヒヒーン。馬は尻に火が付いたかのように駆け出した。荷台と俺を残して。荷台を馬に括り付けるのを忘れた俺は、雇い主に叱られてとぼとぼと自宅に戻ったんだ。


 もう寝よう。そして翌日仕事を探そう。明日はきっといいことがあるさ。

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