第2話 師匠と呼ばせていただきたい
目が覚めた。混濁した意識は一つの可能性を示唆していた。そう、いわゆる夢のお告げである。俺は必死に夢の内容を思い出そうとしていた。しかし残念な事に、シュットナバ・デューマスキ・アナットバハこと俺は記憶力がとても悪いのだ。この自分に与えられた名前だって完全に覚えていやしない。だから時々間違える。あれ、シュミット・デュアルスキー・アーメットハマーだったかな。
俺は、夢の内容を思い出そうとした。つまり打ちひしがれる俺の前に美少女が現れて癒してくれた。そうだ。その夢に間違いない。うおおおおお!
気が付くと俺は駆け出していた。足は葦のように軽く、胸は弾んで期待でいっぱいだった。さっそくカフェーに行くと花壇の見える素敵な席に着いた。
「いらっあしゃあい」
婆さんのウェイトレスが出てきたから、俺は店から駆け出して逃げた。おかしい。何かが違う。何が原因で上手く行かないんだろうか。いつの間にか足取りは重くなり、俺は道の端でうずくまり休んだ。
「若いの。どうした。病気か」
地べたに座っている俺に対して一人の中年男性が声をかけてきた。薄い毛髪、無精ひげだらけの口元。見事な乱杭歯。そしてでっぷり太った三段腹からはくたびれた中年男性のおっさん以外の要素は何もなかった。
「いやね。人生に疲れたんですよ」
俺は柄にもない言葉を口にした。するとオッサンは何を思ったのか声を立てて笑い始めた。
「なんだい。人が真剣に話しているのに」
「大方、彼女いない歴=年齢なんですって悩みだろう。どうだ図星だろう」
「ど、どうしてそれを・・・・・・」
そうなのだ。俺がなぜ冒険者を目指しているかというと、ズバリモテるためだった。だが、俺には何の才能もない。絵も描けない、音楽もできない、勉強も運動も駄目、外国の言葉すら話せやしない。そんな俺でもなれそうな物といったら冒険者ぐらいしかない。
「お前の噂は聞いている。陸ナマコに連敗中だってな」
「ああ、またそんな嫌なことを……」
「陸ナマコに勝ちたいか」
「うん」
気が付くと俺はオッサンに抱きかかえられていた。タバコと酢の混じった臭いが鳥肌だった。
「俺が良い先生を紹介してやろう」
「本当ですか、ありがとうございます」
「紹介料2000Gだ」
俺はありったけの金を部屋からかき集めて、おっさんに会うとすべて渡した。
俺は涙を流して何度もおっさんに礼をのべた。
「君に幸あれ」
その言葉を残しておっさんは俺の前から消えた。そして二度と姿を現さなかった。
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