Second revenge Ⅱ
「正解だ!」
そんな声が聞こえた気がする。
そして、それと同時に光り輝く青い剣が目の前に現れた。
僕は直感的にそれを取る。
すると、急速に水が引き始めた。
「はあ……はあ……」
「苦しかった〜」
ホントだよ。
水が全て床にある排水口に吸い込まれると、扉が開いた。
「勇者よ、カームソードをうまく使うのだよ」
これがカームソードか……。
「よかったね、佐藤!」
「うん……」
「早く外に出よっ!」
――――――――――――――――――――
「佐藤君、無事カームソードを手に入れたみたいだね」
戻ってきたんだ、ヒュイさん。
「大変だったんですよ!」
「な、シャロール!」
「うん!」
「そうかそうか」
「それじゃあ、この後はせっかく海に来たんだから、遊んでくるといい」
「わーい!」
シャロールは砂浜に向かって、走っていった。
「佐藤君はその前に着替えてきなさい」
ヒュイさんから着替えを渡された。
改めて自分の服を見ると、ビショビショになっている。
そりゃあ、あんなことしたからね。
――――――――――――――――――――
「こんなんでいいのか?」
「うん、早くして!」
砂浜に寝転がるシャロールを砂で埋めていく。
「もっと泳いだり……」
「私、あんまり好きじゃない!」
僕もそうだが……。
「波打ち際で水かけあったり……」
「お風呂でできるじゃん」
お風呂で……。
「こんなに砂があるのはここだけだよ!」
そうだけど……。
「もっとあるじゃん。お城作ったり……」
「お城は見飽きたの!」
そういえば、ケスカロールにはお城があったな。
「だからって……」
「私、これやってみたかったの!」
……笑顔のシャロールを見ると何も言えない。
しかし、黙っているのも気まずいな。
どうしようかと思っていたときだった。
「今日の試練ってさ」
シャロールから話しかけてきた。
「うん」
「お父さんがクイズ出してたの、知ってた?」
「え!」
言われてみれば、あの声はヒュイさんっぽかった。
不自然に仕事に行ったのも怪しかったな。
「私、知ってたんだ」
「そうだったのか」
「じゃあ、僕を誘惑してきたのもヒュイさんが……」
「あれは私が考えたの」
「シャロールが?」
「カームソードは平穏な心の持ち主しか手に入れることができないってお父さんが言ってたから……」
あの危機的状況で冷静になることがカームソードの条件だったのか。
「私があんなこと言ったら、佐藤は焦っちゃうと思ったのになぁ……」
「そんなことなかった……?」
いいや。
「焦ったよ、とっても」
「でも、僕はシャロールをどうしても守りたかったから……おっと!」
「動いたら、崩れちゃうぞ」
「ごめん……」
真っ昼間からパラソルもささずにこんなことしてるからかシャロールの顔は赤くなっている。
「日焼けした?」
「違う!」
「早くやってよ!」
……シャロールを怒らせてしまった。
――――――――――――――――――――
さて、次は何の話をしようかな……。
「昨日さ……」
「うん」
「あの……あれ……」
「なに?」
「キス……?」
「う、うん!」
「僕さ、したことないからさ……」
「……」
「下手……だったかな?」
「……」
「……」
シャロールの返事を待つ。
「私……されたことない……」
小さな声でシャロールがそう言った。
「お互いわからないってことか……」
「でも、でもね!」
なんだろう。
「なんか……きゅーってなった」
「とっても幸せな気分」
そうだったのか。
実は……。
「僕も幸せだった」
「じゃあ、大成功じゃん!」
「そうかもな」
再びお互いに沈黙してしまった。
――――――――――――――――――――
「僕……シャロールに出会えて本当によかったと思ってる」
ついこんな言葉が出てきた。
「急にどうしたの?」
「僕に……希望を与えてくれてありがとう」
あれ、おかしいな。
感謝してるのに、涙が出てきた。
「どうして泣いてるの?」
「わからない……」
「私がいるから!」
シャロールがせっかく埋めた砂から出てくる。
「泣かないで!」
シャロールは僕の顔を両手で挟んで、見つめる。
その瞳は真剣で、どことなく潤んでいるようにも見える。
僕はなんとも言えない空気に耐えかねて目をつぶった。
すると、額に柔らかくて温かいものが触れる。
「昨日のお返しだよ♪」
僕の目の前でまぶしい笑顔を見せる彼女を見ていると、涙がとめどなくあふれるくる。
「シャロール……シャロール……!」
「なんでまた泣いちゃうの!?」
「嫌だったの!?」
「嬉しいからだよ〜!」
手が砂まみれで涙が拭けないので、砂浜に斑点ができていく。
――――――――――――――――――――
「明日はケスカロールに戻る、それでいいかな?」
夕食後、ヒュイさんが僕に向かってこう尋ねた。
「はい」
「頑張ってくるんだよ」
「はい……!」
「私も頑張る!」
いつものようにシャロールが元気に返事をした。
「ありがとう」
「伝説では三体の魔王幹部を倒した勇者は魔王との最終決戦を迎えるそうだ」
魔王との……。
「けっして油断しないようにね」
「……」
最終決戦。
「それが終わったらどうなるんですか?」
「それがわからないんだよ」
「え?」
「勇者は魔王を倒した」
「そこまでしか伝説に残っていない」
魔王を倒したからといって、世界が平和になるわけではないのか?
「佐藤、どうなっちゃうのかな?」
「元の世界に帰っちゃうの?」
元の世界……か。
「僕は……」
「考えさせてくれ」
――――――――――――――――――――
一足早く布団に入って考える。
自分が……どうしたいのか。
近い将来、決めなければならないようだ。
元の世界での大切な人……。
もうぼんやりとした記憶しか残っていない。
僕の記憶に残っているのは、ここで出会った人達ばかり。
「シャロール……」
「僕はどうしたらいいんだ?」
布団の中で、ひとりごちた。
「佐藤の好きなようにしなよ」
いつの間にか隣にはシャロールがいた。
あまりに考え事に夢中だったので、気づかなかったみたいだ。
シャロールの方に寝返りをうつ。
「好きなように?」
「……私のことなんか……忘れちゃって……」
また、昨日のようにシャロールが涙をこぼしている。
「シャロール……」
別れが……辛いんだよな。
それなのに、僕の背中を押すようなことを言ってくれて……。
「ダメだなぁ、私って」
「佐藤に心配かけちゃった」
目をこすりながら、震える声をシャロールが絞り出した。
「そんなことない!」
「そんな風に僕のことを想ってくれるシャロールのことが……僕は……」
「……佐藤?」
「僕は……」
「うん……」
「大好きだ!」
僕はいろんな感情がごちゃまぜになって、わけもわからずシャロールの胸に飛び込んだ。
すごく温かい、いつまでもここに顔をうずめていたい。
「うぅ……シャロール……」
その胸の中で、僕は泣いた。
今日だって、もういっぱい泣いたのに。
シャロールのことを想うと、いくらでも涙が溢れてくる。
僕はおかしくなってしまったんだ。
「シャロール……?」
いつものシャロールなら、僕を突き放すのに。
今日は優しく頭をなでてくれた。
「佐藤は……甘えん坊なんだから」
「私がいなくなったら……」
「どうするの……?」
声がとぎれとぎれに聞こえる。
シャロールも泣いているのか?
「そんなの考えられない」
「お前がいない世界なんて……」
僕はシャロールの背中に手を回して、きつく抱きしめる。
シャロールも僕を抱きしめる。
今日はしっぽも親しげに巻き付いてくる。
「何度だって言うぞ」
「うん」
「僕はシャロールが大好きだ」
「私も佐藤が大好き」
シャロールの愛おしい顔を……もう二度と見ることができなくなるかもしれない顔を見つめる。
「キス……しよう」
自然とこんな言葉が口から出ていた。
僕は目をつぶる。
すると、唇になにかが触れた。
けれど、どこか違う。
僕が目を開けると、唇には彼女の人差し指が添えられていた。
「ダーメ!」
シャロールはいたずらっぽくにやけている。
「え、なんで?」
「全部終わってからにしよ!」
全部……終わってから……。
「それじゃあ、おやすみ!」
そう言って、シャロールは目を閉じた。
今なら、できるかな……?
いいや、それは彼女を裏切ることになる。
僕も素直に目を閉じた。
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