Sixth day

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 恥ずかしい。

 どうして昨日はああなったんだ。

 僕とシャロールは起きて、朝ご飯を食べている。

 しかし、二人ともうつむいて、目も合わせずにいる。


「あんた達、まだ仲直りしてないのね?」


「違うの……」


「何が違うんだい?」


「仲直りは……しました」


「じゃあ、何があったんだい?」


「「……」」


「はは~ん」


 キャイアさんが見透かしたような顔をした。


「ま、深くは追及しないわ」

「それより、今日は鉱石調達よ。ギルドに行ってきなさい」


――――――――――――――――――――


「現在ですと……」

「金、銀、銅、鉄……」


 うわー、聞いたことある鉱石がいっぱいだー。


「……ルビーやアメジスト、それにアルカンステラですね」


 なるほどねー。

 なんだかめちゃくちゃ鉱石の名前を羅列したな、この人。

 全部は聞き取れなかったけど、とりあえず最後がアルカン……なんて?


「なんですか? そのアルカンなんとかって?」


「ええと……」

「洞窟の中につららのように岩が生えているのをご存じですか?」


 ああ、鍾乳洞のことか?


「はい」


「それの先っぽをちょこっと採るだけで……」


「本当にそれだけでいいんですか?」


「それだけって……」


 受付のお姉さんは驚いた顔をした。


「アルカンステラはとても貴重でめったに見つからないんですよ。それに、形成されるのにもかなり時間がかかると言われているんです」


 やっぱり、鍾乳洞じゃないか?


「なので、ほんの少し採取するだけでも大金が得られるんです」


「なるほど、わかりました」


「その依頼受けます」


「え、アルカンステラを採りに行くんですか!?」


 お姉さんが大声を出したので、ギルドにいる他の冒険者が一斉にこちらを見る。


「いや、そういうわけではないです。とりあえずなにか探してみます」


 僕はみんなの注目を解くために否定する。


「そうでしたか。早とちりしてすみません」

「では、係りの者を呼んできますので」


 お姉さんは奥に行ってしまった。


「びっくりしたよ。私、佐藤がホントにアルカンステラを採りに行くのかと思っちゃった」


「これはここだけの秘密だが……」


 僕はシャロールの耳元でささやく。


「まじでアルカンステラを採りに行くぞ」


――――――――――――――――――――


「あの~、このまま行くとコモサ洞窟ですよ?」



「はい。わかってます。もしかして何か問題でもあるんですか?」


「ええと……」


 まだ若い、僕より少し年上の職員の女性は言いにくそうに顔を歪めた。


「あそこは危険なので、現在立ち入り禁止中なんですよ」


 そうだったのか。そういうことは早く言ってくれないと困る。なぜなら……。


「もう着いちゃいましたよ」


「あはは、そうですね。引き返しましょうか」


 何があははだ。ここまで来て帰るわけにはいかない。

 なによりこの洞窟にアルカンステラがあることは確実だ。


「シャロール、ちょっと……」


「え?」


 僕は手招きをして、シャロールを呼び寄せる。


「この洞窟にアルカンステラがあるのは確実なんだ。だから、この人をここで引き留めてくれないか? その間に僕が採ってくるから」


「えー! だめだよ、佐藤。そんなことしたら……」


「いいの、いいの。……それにここにいる『危険』とはもう知り合いだから」


「どういうこと?」


「早く帰りますよ? 冒険者さん」


 まずい。早くしなければ。


「お願いだ、シャロール」


 僕は頭を下げた。


「む~、そんなことしても……」


 かくなる上は……。


「これが終わったら、マッサージしてやるぞ」


「え!?」


 シャロールはそれを聞いて驚き、顔を赤くした。


「マッサージ……佐藤の……」


 呆けた顔をしているシャロールを現実に引き戻す。


「な、いいだろ?」


「う~ん、わかったよ」


「ありがとう!」


「でも、どうやって?」


 あ、それは考えていなかった。


「シャロールのスキルって『話術』だろ?」


「それで何とかしてくれ」


「えー!」


「さっきから何をこそこそ話してるんですか?」


「あ、次に行く洞窟を探してたんです」


「ほら、シャロール。続けてくれ」


「あー、あっちの山の方に行こうかなーって」


 シャロールははるか遠くの山を指さした。

 ギルド職員がそれに目を惹かれている隙に僕は洞窟に入った。


――――――――――――――――――――


 以前来たときは考えもしなかったが、どうしてここにはイビルバットのようなモンスターがいないのだろうか。

 やはりあいつを恐れて近寄らないのか?

 まあ、魔王幹部だしな、あいつ。

 でも、ノーチルさんがここに調査に来たときは姿を現さなかったんだよな。

 なぜだろう?

 あいつ、臆病なのか?

 いや~、そんな風には見えない。

 もしかして、ノーチルさんって強いの? 魔王幹部が恐れて、身を隠すくらい。

 なんておそろ……。


 ゴゴゴゴゴゴゴ。


 この地響きは……。


「我は臆病ではない。慎重だと言え」


 目の前にもやが現れる。

 前回同様そこから声が聞こえる。


「奴はあまりに強いので、今戦うべきではないのだ」


 逃げたんだな。


「で、貴様は何をしに来たのだ?」


「ええと……、アル」


「まさか、協定を破棄して我を倒そうと思っているのか?」


 目の前のもやが大きく揺れ動いた。


「い、いえ」


「ふーむ」


「貴様の思考を読んでみたが、そんなことはちっとも思っていないようだな」


「つまらない男だ」


 失礼な。


「本題に入っていいですか?」


「うむ」


「今日はこの洞窟のアルカンステラを採りに来たんです」


「ふん、そんなもの勝手に採っていけ」


 わーい。


「人間とは単純な生き物だな」


 単純で悪かったな。


「それより、そこの小娘共は何者だ?」


「え? ここには僕しか……」


「誰と話してるの、佐藤?」


「早くここから出ないと危ないですよー」


 振り返るとそこにはシャロール……とギルド職員がいる。

 なぜここに?


「いや、独り言だよ。さ、帰ろう」


 僕はそう言ってごまかした。

 そのとき、先ほどまで僕の正面にいたもやがシャロールを取り囲んだ。


「ほう、なかなか悪くないな。この小娘」


「な、なに? これ?」


「我の手下にならんか?」


 魔王幹部……名前なんだっけ? がそう言うともやの色が赤くなった。


「あ、ああ、あああああ!」


 その赤いもやに包まれたシャロールが苦しそうに叫び声をあげた。


「シャロール!?」


 僕はシャロールに駆け寄る。

 するともやが消え去った。

 しかし、シャロールの様子がどこかおかしい。


「私は……ジェクオル様の……しもべ……」


「おい! シャロール! シャロール!」


 よく見ると、シャロールの額には謎の文様が浮かんでいる。

 これは一体……。


「おい! シャロールに何をした!」


「私は何もしてませんよ」


 職員がおびえながら、答える。

 しかし、僕が訊いているのはあいつだ。


「ククク、勇者様がさぞお怒りだ」


「答えろ!」


「なに、ちょっと隷属魔法を使ったまでだ。おもしろいだろ?」


 何がおもしろいだ。


「早く元に戻せ!」


「どうしてだ?」


「お前は僕と協定を結んでいるじゃないか!」


「そうだな……お互い不干渉だったか?」


「そうだ!」


「だが、この小娘と契約した覚えはないな」


「くそ! この悪魔!」


「クハハ!」

「その通り、我は悪魔だ」


「どうすりゃいいんだよ……」


「まあ、そう気を立てるな。お前のためを思ってこんなことをしているのだぞ?」


「どういうことだ?」


「お前とて、こんなことを望んでいるのだろう?」


 ジェクオルがそう言うと、シャロールが突然動き出した。


「シャロール? 大丈夫なのか?」


 しかし、シャロールは僕を無視して手を動かして何かを……。


「ちょっ、シャロール!?」


 シャロールが急に上着を脱いだ。

 ついシャロールのかわいい下着が目に入る。

 そして、シャロールは次にズボンへ手をかけた。

 ギルド職員もボーっとそれを眺めている。

 今まで見たことがなかったシャロールのきれいな足があらわになる。

 って、見とれている場合じゃない!


「ジェクオル! シャロールに何をした!」


「だから言ったであろう。隷属魔法を使ったと」


「解除しろ! 今すぐに!」


「お前も喜んでいるじゃないか、勇者よ」


「喜んでなんか……」


「ほら、次だぞ」


 今やシャロールは下着を身に着けるのみだ。

 しかし、操られたシャロールはそれさえも脱ごうとしている。

 このままではまずい。

 早く何とかしなくては。


 どうやって?

 あの隷属魔法を……あ、シャロールのパンツが……じゃなくて!

 隷属魔法をなくせば元に戻るはずだ。

 どうやってなくす?

 なくす……。


 そうだ!

 僕のスキルを使おう。


 あわててステータスを出す。


「ええと……シャロールにかかっている隷属魔法がなくならない!」


 フォン。

 <スキルが使用されました>


「大丈夫か? シャロー……ル!?」


 しまった、ついシャロールの姿を見てしまった。

 今見たものは忘れよう。僕はそう心に誓った。


「うう、ここは?」


 よかった。シャロールも元に戻ったようだ。


「え! なんで私裸なのー!?」


「は、早く服を着てください」


 職員がシャロールに服を渡している……のかな? 向こうは見れないからわからない。


「なんだ、つまらん」


「ジェクオル、今度シャロールに手を出したらただじゃおかないぞ」


 僕は遠くにあるもやをにらんだ。


「おお、怖い怖い。さすが勇者だ」

「興も冷めたゆえ、我は再び眠りにつくぞ」


 もやは洞窟の奥深くへ消えていった。


――――――――――――――――――――


「わー、こんなに報酬金をもらってきて!」


「たまたまいい場所を見つけたんです」


「へー、よかったわね」


「うん……」


「あら、シャロール、浮かない顔ね」


「……」


「ちょっと、いろいろあったんです」


「ほ~、またかい」


 今日はなんとも説明しづらいことがいろいろ起きた。

 さすがに全てを言うわけにはいかない、というか言いにくい。

 特にシャロールの裸を見たなんて、口が裂けても言えない。

 シャロールには包み隠さず(裸を見た以外は)魔王幹部のことも話したが納得してくれただろうか。

 あれからずっと黙っているから、何か不満なことでもあるのかな?


――――――――――――――――――――


 不穏な空気のまま、僕達は就寝のときを迎えた。

 今日は疲れた。

 なんだかこのセリフ、毎日言っている気がする。だって、毎日疲れるんだもの。

 とりあえず寝よう。


「佐藤に……見られた……うぅ……」


 夢でシャロールが泣いているような声が聞こえた。

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