皆が羨む理想の家族
「おめでとうございます。元気な赤ちゃんですよ」
その日、新たな命が誕生した。夫婦にとっては待ちに待った瞬間だった。
抱えきれないほどの祝福に包まれ、三人は笑いの絶えない理想の家庭を築いた。
しかし、子どもが一歳になる頃、周りの人々は妙なことを噂し始める。
「ねぇ、あなた……周りの人が私たちの事、なんて噂してるか知ってる?」
「ん?噂?」
「そう、こんなこと言いたくないんだけど……この子、あまりにも私たちに似てないと思わない?」
「…………皆が噂してるってのはそのことかい?」
「うん……」
「…………お前、もしかして!!」
「違うわ!この子はあたしとあなたの子よ!それだけは間違いないわ!!」
「じゃあ、なんだってこの子は僕たちに似てないんだ!!!」
「……そんなの……わかんないわよ……」
妻は泣きだした。気まずい雰囲気が流れる。
しばし沈黙があり、重い空気の中、夫が口を開いた。
「……いや、怒鳴ったりして悪かった。実は、隠してたわけではないんだが、どうも言うタイミングがなくてここまで黙ってたんだ。すまん」
「え?なに?何を黙ってたの?」
夫は無言で免許証を妻に差し出した。その手はかすかに震えていた。
「え、これって……」
その免許証には妻の知らない男が写っていた。しかし、男の顔には愛してやまない我が子の面影があった。
「これって……」
「今まで隠しててごめん……」
またしても沈黙が二人を包む。外で子どもの笑い声がした。
それがきっかけになったのか、妻も声を震わせ喋り出した。
「……いいのよ、そんなこと、さっきはいきなり泣き出してごめんなさい。」
「そんな、謝るのは俺の……」
「違うの!!謝るのはあたしも一緒。……これ、見てくれる??」
そう言って妻は携帯電話の画面を見せた。そこに写っていたのは笑顔の女、お世辞にも美人とは言えない。しかし、それは我が子が笑った時の表情にそっくりだった。
「……騙すつもりはなかったの。けどあなたに嫌われるのが怖くて、つい……」
夫は少しの間、黙って下を向いていたが、やがて安心したような口調で喋り出した。
「……いや、いいんだ、君が責任を感じることはないよ。それに、その気持ちは俺にも痛いほどわかる。自分に自信が持てないその気持ち……打ち明けてくれてありがとう」
「……本当にごめんなさい」
それを聞いて夫はフフッと笑う。妻もそれを見てクスリと笑った。
しかしすぐに妻は真顔になり、夫にまくしたてる。
「けど、どうしましょう。このままじゃご近所中に変な噂が立って私たちここで暮らしていけなくなるわ!」
「……」
「せっかく幸せに暮らしてたのに!!」
「……わかった、僕に考えがある。君も付いてきてくれ」
そういうと夫は隣で寝ていた我が子を抱きあげ、車に乗せ、ある場所に連れていった。
そこは整形外科だった。
それからしばらく月日がたち、三人にまつわる変な噂は消え、家族は再び周りが羨む穏やかな日々を過ごしていた。
その幸せの中心にはいつも子どものはじける笑顔があった。
それは、両親の笑顔と不気味なほどにそっくりな、屈託のない笑顔だった……
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