雨の日
雨の音が聞こえる。ポツリポツリと小さな水滴が窓を叩く音が聞こえてくる。
はて、雨がふってきたのか?と窓に視線を向けると次の瞬間には本格的に降り注いできた。
どんよりとした暗い天気だが私のテンションが少し上がってきた。晴れも好きだ清々しい青空や冷たい風や暖かい風、日差しに白い雲、太陽の光全てを余すことなく受けきれるから。だが、同じくらい雨も好きだ。
少しだけ黒い空、地面に落ちてくる水の音。
布団の中で聞くと子守唄のようで心地が良い。
なんだか眠たくなるような音がするのだ。
でも、今日は違う、外に出る。リュックの中にタオルと着替えを詰め込む。
赤いパーカーとスカートに着替えて軽くご飯を食べて髪を一つに結んだ。
そして、そのまま玄関に手をかける。
こういう時に馬鹿みたいなことをするのが好きだ。
傘もささずに散歩をする。鼻歌でも歌いながら。軽い足取りで。
外は土砂降り、音も大きい。外を歩いている人は少ないし、いても傘をさしている。案外人は周りなんてどうでもいい。興味がないから多少おかしなめで見られるがその程度だ。冷たい雨が顔にあたる、髪を濡らす。
服の色が変わってきて重たくなってくる。風邪をひかないために一応着替えは用意してあるので問題なし!
濡れて気持ち悪くなる靴の感触。
雨の匂い。音、冷たさ。季節を感じる。
水たまりをわざと踏んでいく。ぱしゃんと音が鳴る
いつもの道を通って路地裏へと進む。屋根が多いおかげで路地裏は少しだけ水がマシだ。それでもたまにピシャンと落ちてきて少し驚く。
音が響く中、足を進めて公園に行く。
一本桜はもう随分と老いてきた。それでも貫禄と生命の強さを感じることができるからまだまだ現役なのだろう
…人影が見える。雨のせいで上手く見えないけどこの音は間違えない。ダダダと走っていく。
バシャバシャと地面が濡れているせいで盛大に音が出る。
傘をさして桜の木を見上げていた人影にそのままだーっと抱きつく。聴き慣れた音と姿。そして、素っ頓狂な声が聞こえた。
「うおぉ!?」
「えへへ、はろー」
「なんだ…華………華さん?」
「はい」
「馬鹿?なんで?傘は?ずぶ濡れもいいところじゃん…子犬だってこんな雨の中散歩行きたがらないけど?」
「犬っころの散歩の好きさを舐めているのか?」
「その犬と同等に扱われたいの??まぁいいや。なにやってんの…」
腕を掴まれ引っ張られる。ストンと音無くんの傘の中に入る
狭い近い。少しだけ体温が上がったような気がする。
心臓がうるさくなった。ふれあいそうな距離。
「濡れるよ?」
「いいよ別に。華びしょびしょだし。タオルとかある?」
「ある。着替えも」
「準備万端ってことはもう濡れる気で散歩してたね?」
「てへ」
「可愛くないよ」
「は?」
「怒りたいのはこっちだよ。風邪ひいても知らないからね」
怒ったような硬い口調というよりかは呆れているようだ。やれやれと首を横に振る音無くんを見上げる。
音が少しだけ強いのはそのせいなのか。
心配された嬉しさに少しだけ頬が緩む。髪から雫が落ちて頬を伝っていく冷たい感触が心地よい。
今、体温が多分2度くらい上がった気分。今すぐ雨に打たれたいが、すごく怒られるので自重してやめておくことにする。
雨の日は不思議だ。いつもとは違うもの、違う景色
音と匂い、人々も違う。楽しい。
でも、やっぱり変わらないものが目の前にある実感。
「音無くんは変わらないね~」
「身長も伸びて力も強くなって働いてるんですけど」
「音が」
「華にしかわからないやつじゃんソレ」
「うん、えへへ、好きな音なんだ~」
「……」
「照れてるね」
「黙って拭け」
照れ隠しが雑なようで私のリュックから取り出したタオルで雑に私の顔を拭う。少し痛いけどなんだか楽しくなってやっぱり音無くんはどこでも音無くんで可愛くてかっこよくて最高の人物なんだなぁ、と改めて実感した。
小さくて些細な変わらないこと。私はそれが一番好きだ。
響く小さな雨の音。傘にあたる雫の音が小さくなった
傘の中は私と音無くんの音しか聞こえないような感覚になる
まるで、秘密基地みたいでドキドキする。
「あ」
「ん?」
音無くんが空を見上げながら傘を斜めにしてたたみ始めた。
本当に音が聞こえなかったようだ。雨は住んで止んでいる。
つられて空を見上げると曇天の隙間から太陽の木漏れ日が差し込んでいるのが見える、暖かな光
そして、7色の虹が差し掛かる
「きれいだね」
「ラッキーだね」
「…ずぶ濡れのわんちゃんはまだ説教がありますけど?」
「え」
「冗談。でも風邪引くから家まで送っていくよ」
「また雨が降りそうだなぁ」
「喧嘩売ってんの?」
「照れ隠しだよぉ!」
本当のことを冗談のように言ってみるとジトっとした目で見られてしまった。おかしくってわらってしまう。
でも、送ってくれるというのであればお言葉に甘える他ない。
手をつないでみる。驚いたように見られたが、解く気はないようだ。嬉しくなる。駆け出して喜びを表現したくなるのを抑えて歩き出す。
冷たくなっていたはずの体がジンと暖かくなってくる。
冷えていたはずの指先はもう、何故か暖かった。
雨の日の二人
──────────────────────────────いつもの二人
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