番外編 綴り伝える

なんとなく筆を手にとった

何気ないことだった、きっかけはもう覚えていない

そのくらい何気ないこと

今日は天気が良かった。朝の占いが1番だった

ラッキーポイントが何か始めてみよう

という大変アバウトなものだったからとりあえず筆を執ってみた


物語を書いてみよう


なんでもいい

例えば、御伽噺の王子様が呪われたお姫様の呪いを解いて幸せに暮らす在り来りな物語。僕は一流の悲劇よりも三流の喜劇が好きだ。

シェイクスピアとは仲良くなれないタイプの人間だと思っている


シャーペンをトントンと机の上で数度叩いて頭をひねる

何を書いてみようか

いっそ現実離れしてるのに、ちょっと現実っぽくて不思議で

もしかしたらあり得るような物語にしてみようか。


「……まぁ、いいか」


頭をひねるも思いつかなかった

じゃぁ、もう日記のように前世のことでも書いてみよう

思い出せる限りのことを。


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生まれは平民で平均的で取り柄もなかった少年が

ある日、神様の気まぐれで運命に出会うまで不老不死になってしまった。

両親にそのことを打ち明けた、心優しい母親と家族思いで暖かい父親は僕を受け入れてくれたが、両親が老いる中僕だけ取り残されてずっとこの姿だった。


村は小さく偏見の視線が痛かったから親孝行できないまま、家を出た

できる限りの金品を置いて、食料をとって最後にできるだけのことをした


深夜に家の戸を開けた。


…そこには、新しい靴とその時代には高級で喉から手が出るほど欲しいだろう甘味が包まれていた。本当に優しい両親に恵まれた。


そこからはもう、旅をする毎日だ。

日本列島の上から下を何度も行き来した

その度に景色は変わり、新しくも古くもなっていった。

変わる景色の中、僕だけは取り残されてひとり変わらな姿だった。


若いってだけで案外仕事はある。

僕はその頃、星野家というまぁ、いいところの使いっぱしりだった

給金はいい、金に困らない

そしてなにより、僕のような摩訶不思議な生物に対しての心得があった。

星野の家は神に愛され、巫女が生まれる

巫女は人の音を聞いて、そのものの悩みを浄化するとかなんとかいう胡散臭い話があった。信じていないわけじゃない。

だって、彼女はまさにそうだった。


黒い髪が天の川みたいで綺麗だった。

人懐っこくて、素直で明るくて元気。僕にとっては陽だまりのような暖かい娘

年もそんなに離れていないからお目付け役だったりもした。

でも、まぁ手がつけられないほどイタズラ娘だった、今と変わらずに。


今も変わらないというのはまぁ、彼女は輪廻転生を繰り返し

毎回僕と友人になってくれた。

だから、何度も彼女の死を見送ってきた。


─────────────────────────────────────


案外日記のような物語のような、ソレを書くのに夢中になっていたらしい

ピロンという電子的な音に心臓がはねた


「びっくりした…なんだ…?」


心臓を軽く押さえながらベッドの上に放ってあるスマフォに手をかける

アプリを開いてメッセージを軽く読む

いつも唐突に来るもんだから困る

いや、事前に何日の何時にメッセージ入れるからみてね!と言われる方が嫌だし大体いつも唐突なのでもう気にしてはいられないが…


メッセージを見てつい、頬が緩む


「今日はなにして遊ぼうか!」


変わらない人懐っこさと明るさ


世界は何度も変わっていく

景色も、町並みも、人だって変わっていく

僕も、変わっていった

それでも、お前は変わらないでいてくれるんだね。



「今日は、僕と海に行くなんてどう?」

「いいね!浜辺で追いかけっこでもする!?」

「じゃぁ、お前から鬼な」

「言っておくけど私はそこそこ体力あるよ貧弱くん!」

「言ってろ。先にギブしたほうがコンビニで飯おごりな」

「よし!任せて!じゃぁ一時間後に!」

「いつもの公園な」



アプリを閉じる

僕は変わらない自分があんなにも嫌いだった

変わっていくものの中で変わらない僕は不気味でどうしようもなく気味の悪いものだと思っていたから。


でも、変わらないでいいものだってある

いつもそれを僕に教えてくれるのは

やっぱり、変わらない笑みをくれる君だった。


シャーペンを机の上に置いた

紙は適当に置いたまま


続きのページはまだまだ白紙が続いている。


でも、帰ったらきちんと完成させてみよう。

















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