木漏れ日話6


寒さが少しなりをひそめてきた3月

ショッピングモールの片隅で頭を悩ませている。


「三倍返しってなんだよ…」


ホワイトデー

それはバレンタインで女子からどんな意味からであろうと

「チョコレート」をもらった勝利者にのみ与えられるイベント

素通りしていく人もいれば立ち止まって僕と同じように頭を抱えている人も少なくはない。


色々と見て回る

何が恥ずかしいってたまに通り過ぎていく女性たちの暖かい視線

「あ、あの子お返し買うんだ~初々しいね~」みたいな視線が

とにかく恥ずかしくてたまらない

居心地がめちゃくちゃ悪い


が、


適当に選んでもいられない相手だから困っている。

華は可愛いものなら基本好きだし

甘いものも好物だ。


はぁとため息が自然に漏れ出る

三倍返しってなんだよ…

金額だったら雑に高いモノ買えばいいんだろうけど

多分そういう意味じゃない

気持ちの問題だとでも言うなら僕の気持ちの重たさに勝てるわけもないと思うんだけど。三倍って何。三倍ってマジで何!?


だいぶ参ってきた。

数度目のため息。


一度コーナーを離れて気分転換にショッピングモールを歩く


バレンタインデーほどじゃないが

ホワイトデーもそこそこなイベントだ。


歩いているとちらほらとそういう文字が見える。


「あ、こんなところにこんなのあったんだ…」


一人でつぶやく

奥の方に新しくできたのか雑貨店がある。

可愛らしい。

女子がたくさん居て入りにくい…が、足を進めて店に入る


どうしてドアもないいつでもどこからでも入ってという

オープンな店でも女子がたくさんいるとこんなに入りにくいのだろうか

謎である


と、いっても誰も僕を見ているわけでもないので安心して雑貨店内を見て回る

可愛らしいティーカップとポット、ティースプーン

くまのぬいぐるみ。ポーチなど小物から食器系まで女子の好みそうなもので溢れかえっている。ちょっと胃袋が重たくなった。可愛いで溢れている…


ふと、視線を逸らすと置いてある一つの商品を見つける


───あぁ、これがいい。


気が付けば手に取って会計を済ませていた。

ラッピングまでご丁寧に凝って頂いた。

店員さからの「プレゼント用ですか?」の暖かい視線と笑顔があんなにも恥ずかしい

もう絶対来年からは適当にすませよう…


そう思いながら足早に逃げるように店から出ていったのだった。



────────────────────────


お昼いつもの公園で音無くんを待つ

3/14日ホワイトデー


三倍返し!なんて言ってみたけど実際くれるものが

飴玉一個でもありがとうの言葉だけでも十分過ぎる。


気持ちを三倍なんて言ったら私は潰れてしまう

あの人の気持ちはでかい…というか深いのだ。

覗き込んでも底は見えない

暗くて重たいのに不思議に嫌じゃない


ベンチに座って目を閉じる。

とくんとくんと一定な心臓の音

風が耳を通り過ぎる音

葉が揺れてカサカサと声をあげる。


太陽の木漏れ日が当たって心地よい。

風が吹けばまだ少し寒いと思うがこんな日は散歩日和である。


心地よい音だ。


足音が聞こえる。

一定、いつも通り。

ちょっと緊張してるのは今回は私の方

なるほど、確かにもらう側になるとちょっとそわそわする。

気分は誕生日を迎えた子供だ。


目を開ける


それと同時に音無くんの姿が見える


「あれ、早いじゃん。今日は雨?」

「楽しみで早く来ちゃった」

「遠足前の子供?」


事実なので何も言えぬ

文句が返せないのでばっと両手を出した


「風情がないね」

「うるさいなぁ…」


軽く笑う音無くんはハイハイと小さく私をたしなめながら

バックから箱を取り出してぽんと置いた

軽い、あんまり大きくない


「開けてもいい?」

「どうぞ」


綺麗にラッピングされている

リボンをほどいて、丁寧に包んでいる紙を外していく


「わ…綺麗…」


箱を開けるとそこに入っていたのはオルゴールだった。

オルゴールの箱を開けると小さく音が鳴る

箱の内側には海と人魚が描かれている


「…えへへ、嬉しい」

「知ってる」

「知られてた」


オルゴールの曲は穏やかで綺麗だ

音が空に向かって伸びていく


「…~♪」


同じように小さく歌う。

音無くんは何も言わずに隣に座ってくれている。

私が歌うのを満足するまで、止めないようだ。



三倍以上の物をもらってしまった。

今日のお出かけは、私の奢りでもいいかもしれない。


空に伸びていく音に思いを込めながら歌ったのだった。


あぁ、綺麗だ。

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