木漏れ日話5
赤とハートマークが散りばめられる季節になった
大型ショッピングモールは今激戦区である
いや戦いではないがある意味戦いだ。
女の子が異性に贈り物をする日の一週間前
そう、チョコレート企業にうまいこと手のひらで転がされるとわかっていても
作らずには、買わずにはいられない…!
バレンタインデー!
ショッピングモールの一階の食品売り場の近くは
2月になると赤一色。
ショーケースに並んだブランドの可愛らしいチョコレート
包装や箱が可愛らしくてついつい意味なく眺めてしまう。
手作りと既製品どっちがいいのか
多くは手作りを答えるけどわたし的には既製品派。
手作りは感情が詰まっていて可愛らしいと思う。
が、やはり見た目も味も大事にしたい。
大切な人に贈るものであるならば尚更。
知名度が高くて高すぎるチョコレートは多分受け取らないだろうなぁと思いながら某有名店の高いチョコレートを通り過ぎる。
シンプルで可愛らしく、それでいて安すぎず高すぎない。
難しい塩梅だ。
むむむと頭を悩ませながら何度も何度も同じコーナーをぐるぐると回る
カゴの中身は未だ空っぽである。
時計の針が過ぎていく
一つのチョコレートをカゴに詰め込んだ。
我ながら引きずり過ぎかもしれないが
一番しっくりくる。
スタンダードに四角い箱
ベースカラーが青で月と星が散りばめられたシンプルなデザイン
白いリボンが可愛らしく巻かれている
月とか星空とか海とか
そういうのが好き。
前世を引きずりすぎなのだろうか
いやしかし音無くんも嫌いじゃない。
中身はスタンダードに可愛らしい小粒のチョコレートが
12個入っている。
値段もまぁ…。まぁまぁ、だ。
普段食べている板チョコからすれば十倍くらいだろうけど
バレンタインデーという特別な日をプラスするならまぁ普通
妥当だといえる値段だ。
あと、一応ほかの友人用に手作りの用品を買っていく
クッキーにガトーショコラ
無難な選択。
材料をぽいぽいとかごに詰め込んで
ラッピング用のシンプルな箱と透明な袋を選んでいれる
そのまま会計のレジへGOー!
────────────────────────
2/14 浮き足立つ
バレンタインデー
甘いものが普段好きなのかと言われると僕はまぁ普通
コーヒーと一緒に飲むなら好きだ。
いつもの公園で待ち合わせ
時間10分前。
いつも通り僕が先だ。
華は大体ピッタリにくる。
逆にすごいと思う。
若干落ち着きがないことが自覚できる。
いつもはしない時間の確認をしてしまった。
意識している。
チョコレートは絶対にもらえる確信がある
だが、そういう意味のチョコレートじゃないともわかっている。
こんな感覚は久しぶりかもしれない。
少し楽しくて恥ずかしいむず痒くなるような感覚になる。
タッタッタと足音が聞こえる
心臓が跳ねた
違和感のないくらいの深い呼吸を二度
いつもの道に目を向ける。
白いセーターに赤いマフラー
随分暖かそうな格好だ。
「わーー!ごめん!1分遅刻!」
「判定がシビアだね。」
「許してくれる?」
「いいよ別に」
「変な音してるね~~」
「…うるさいな」
バレた。
大変ニヤニヤしている
悔しさと恥ずかしさが混じり合って居心地が悪い
目が合わせられない
視線を適当な方向に向ける
「持ってきてますよチョコ」
「…知ってるよそんなこと」
「だよね~!でもほら!イベントは前は楽しめなかったら結構不思議な感じ」
「わかる」
「だからって緊張しなくてもいいのに~ウブだね」
「叩くよ」
「チョコですどうぞ…」
「苦しゅうない」
差し出されたチョコを受け取る
…悔しい、あぁくそ…
嬉しい。
嬉しいですよ。あーあーあー
…視線を華に向ける
「いつまでニヤついてんの」
「いやぁ?べっつに~??」
「…」
「ホワイトデーが楽しみだなぁ~~って~!」
くすくすと意地の悪い笑みを浮かべながら
跳ねるように僕の周りをぐるぐると回る
頭をガシっと掴んで動きを止める
「おい」
「ウス、サーセン」
ため息をひとつ吐き出す。
「…覚悟しておけよホワイトデー」
「え、もしかしてやばいのくる?」
「今日はどこ行きたい?」
「え、ねえ?ホワイトデーやばい?」
「いつもの喫茶店でいいか」
「あ、あの??音無さ~~ん??」
華の言葉を無視しながら腕を引っ張って
歩いていく。
なんて甘ったるい気持ちだろうか
早くコーヒーが飲みたい。
後ろでブツブツ言っていたが華も諦めたのか
隣までテテっと来た
なのでゆっくり歩く。
「今日はどっちの奢り?」
「じゃんけんだろ」
「…ふふーん、今日は負けないよ」
「どーだかな」
…まぁ今日は負けてやってもいいかな、なんて
そう思うくらいには気分がいい。
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