四季折々

木漏れ日話


初めて会った日は運命的な出会いだと思った。

同じ場所で毎回出会う。


今回だけは本当に、運命だと思った。


音無くんと出会った成人した私の誕生日は色々話し合った

お互いの記憶や、体のこと、今までどうしていたのか。


長年の友人との再開にお酒も、話も進んだ。


「やー…会えて本当に嬉しい…」

「その話何回目?華お酒控えようか。すいませんお冷ください」


お酒でゆるくなった頭と口からぽろぽろこぼれ出る本音。

しばらくしてお冷が運ばれる

氷が大量に入った水を飲む

アルコールで火照った体に冷たい水が喉を過ぎていって心地よい。


火照りも少しマシになった気がする。


「にしても、成長したね音無くん」

「まぁ、もう23だしね」

「やっぱ年上か~~かっこよくなったね~!」

「素直に褒めてるんだろうけどちょっと煽ってるよね?」

「あ、バレた」


素直にかっこいいと思う気持ちが7割

ちょっとからかいがこもった3割がバレてしまった。


「華は…」

「今日で二十歳」

「え…おめでとう」

「ありがとう」

「仕事するの?」

「いや大学!音大で~す。音無くんは?」

「図書館で司書やってる」

「やば、すご」

「まぁ頑張ったしね…」


他愛のない話

居酒屋の安くないくせに安っぽい味のするお酒

味の濃いおかずをつまみながら本当に何でもない話をたくさんする。

懐かしさに思い浸る。


「そういえばいつ、記憶戻ったの?」

「音無くんが、お前変な音するねっていった瞬間ぶわっと」

「ついさっきじゃん!?」

「ね~」


だし巻き卵をつまんで食べる

おいしい。数度の咀嚼の後に飲み込む

音無くんを見る、珊瑚色の瞳と目が合う。


成長した音無くんはまぁ、普通にかっこいい。

前から整った顔立ちだった、まぁ童顔だったけど

今はまぁ普通にかっこよくて悔しさを感じている。


「…ジロジロ見すぎ」

「えっお互い様では…」


数十秒後口を開いたのは音無くん。

その間お互い目を逸らさなかったが

勘弁してと言わんばかりにそっと音無くんが視線を逸らした。


照れ隠しのように音無くんが残っていたウーロンハイを飲み干す。


「あっつ」

「お酒回った?」

「ん。そろそろ出る?」

「ゴチになります♪」

「容赦ないね…。先に外出て涼んでなよ」


そっと、伝票を持って立ち上がる音無くん。

立ち振る舞いが大人になったなぁと謎の感動がある

二人でお酒を飲んで語り合う、なんて前だったら絶対にできなかった。


普通の友人のようだ。

いや普通の友人なのだが。


ふと、考える。

居酒屋の扉を開けると火照った頬に少し温度の低い風が撫でる

頭がちょっとクリアになったかも。


私と音無くんの関係とは。

友人、それは間違いない。

それ以上のモノがなかったのかと言われるとどうだろうか。


愛している、愛してるとお互い気持ちを言ったこともあった。


しかしその愛しているは、男女間のソレではなかった。

もっと根本的な、魂のような。

そういう、人物としての愛だった気がする


ない頭で思考を回す。


特別意味のない自問自答を繰り返していると不意に

頭の上から声が降り注ぐ


「なに百面相してるわけ」

「ふぁ!?」

「は?」

「びっくりしたァ!!!」

「なに酔っ払ってる?」


見上げると音無くんの顔がある

前から私より大きかったけど

こんなに身長差はなかった。


「ん、家どこ?送るよ」


そういって自然に手を差し出される。

そしていつものノリでぽんと手を乗せた。

手を握る。

指がゴツゴツしてる。

硬い、後でかい


「おぉ…」


男性だ!と、しばらく手を握ったり指で撫でたりしていると

音無くんが微妙な顔になる。

やべ、触りすぎた


「音無くん的にこれセクハラっしたかね…?」

「いや馬鹿だなって」

「喧嘩か?」

「まぁまぁ」


いつもの調子のいつもの会話


でも、少し前と違う。


とくとく、と心臓が小さく声を上げた。


はて?

この音は初めて聴く音だ。


耳を澄ましても小さくてすぐに違う音にかき消されてしまった。

首をかしげていると手を引っ張られる


「ほら、帰るよ」

「あ、うん、わかった」


───自覚には、まだ少し時間がかかりそうだ。


街灯に照らされた道を歩いていく

あの日と同じ。

ただ、あの日と違うことは。


二人で一緒に家、に帰るということだ。

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