木漏れ日話2


産声を挙げて生まれた日から僕は前世の記憶を持っていた

前世の僕は不老不死の呪いにより死ねない呪いにかかっていたらしい

こぼれ落ちていく砂のように記憶は磨り減っていった。


そんな僕には大切な友人がいた

鈴が転がるような凛とした声

艶やかな黒く長い髪

星空を詰め込んだような青い瞳

花が咲くように笑う女の子。


華、という少女は僕の大切な友人だった

初めて出会った日から、彼女が死んで何度転生しても

また僕と友人になっていった。


血の誓いのせいなんだろうけど

それがわかっていて彼女も僕も友人を続けていた。


最後の記憶は海の中だった。

冷たい水に包まれる

随分と寒かったことと、腕の中で冷たくなっていく体温を感じた。


触れた唇が柔らかく暖かった。

最後に食べたのが肉まんじゃなかったらなぁ

なんて、そんなくだらないことを思い、眠る最期だった。


会いたい。


偶然にも幸いなことに

生まれた街は変わらず

あの路地裏の先にある一本桜の公園も変わらないままだった。


僕が死んで20年ほど経っているのに変わりなく

だが少し寂しくなった公園。

ベンチに座り本を読む。


もう会えないかもしれない

それでも、足はここへ毎日僕を運んだ。


春、桜が綺麗に咲いた。

薄い桃色の花びらが散りベンチを染めた。

素直に綺麗だなと思った、この感想を言う相手がいないことを寂しく思った。


夏、暑い日が続いた

アイスを食べながらベンチに座る

蝉の音がうるさい、華だったらきっと僕を海とかお祭りとかに連れ回すんだろうな

そう思って少しだけおかしくなって笑ってしまった。


秋、紅葉が色づいた

綺麗な赤が絨毯のように詰まっている

歩くたびに落ちた葉をふむサクっという小さな音が耳に気持ちが良い

華だったら走り回っていたな…。


冬、雪が降った。

肉まんを食べながらベンチに座る

ケツがつめてぇ…冬は座らないことをすすめる

肉まんよりピザまんが好きだったなあいつ、なんてふと思い出す。


僕はこんなにさみしがり屋だったのか。


────────────────────────


ある朝目が覚める

気持ちの良い快晴

しかし寝すぎた。真昼間だ。


いつものように足を公園へとすすめる。


先客がいた。


艶やかな黒く長い髪は変わらない

でも、最後に見た時より大人になっている

風でゆれる髪を抑えながらゆっくりとこちらを振り返る彼女


随分、綺麗になった。


しかし、僕を見つけると何か言葉を捜すように

視線をウロウロさせながら必死に沈黙を破ろうとしている

表情が相変わらず豊かだ。


変わってしまった

でも変わっていない彼女に向けて

彼女がいつも、ボクと最初に会った時に言う失礼な言葉を僕も

彼女へのはじめまして、と共に贈ろうと思う


「……初めまして、お前、変な音がするね?」


我慢しきれずについ笑みがこぼれた

僕がそういうと彼女もぽかんとした後に


やっぱり、花が咲くように笑顔を浮かべた

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