第6話 溢れ話 夢の隙間に思い出を


華 …輪廻転生を繰り返す少女

音無…不老不死の少年



セミの音が夜の道に響く

今日は地元の花火大会で

多くの屋台が並んでいる。


暑い、汗で張り付くシャツをパタパタと扇いで

華を待つ。

どんなに人が多くても彼女の姿は見逃さない。


カラン、コロンと下駄のなる小さな音がする

不思議と耳に馴染む音だ。

視線を音のほうに向ける


赤い浴衣が目に入る

長く綺麗な黒い髪は高い位置で結われている。

星空を詰め込んだ瞳はいつもより少し大人っぽい

頭に刺した椿の髪飾りがよく似合っている


「お待たせ!」


華はいつもと違う衣装に身を包んでいた


「──────」


数秒反応が遅れる

が、問題ない

少し驚いたが


「よく似合ってるじゃん」

「ふふーん、知ってる!いーでしょ!」


せっかく大人っぽく着飾っているのに行動がいつも通りすぎて落ち着いた

少しだけ早まった心臓は多分アレだ。暑かったから。

よかった、人が多くて、聞かれてない。


えっへんと胸を張る目の前の少女は僕の手を取った


「早くいこ!屋台いきたーい!」

「…はいはい、屋台は逃げないって」

「うるさいなぁ…」


子供っぽく頬を膨らませて拗ねたり

かと思えば笑ったり、驚いたり表情が豊かだ


高く結われたポニーテールが揺れてる。


「あ、林檎飴!」


手をつないでいるのにすぐ走り回る

ぐんと引っ張られて仕方なくついていく

林檎飴を輝く瞳で見つめれば迷いなく華はソレを購入した

片手でそれを嬉しそうに持てば飴にかじりついている。


その様子を見ている目が合う

「あげないよ」

「とらないよ」

「安心」

「そりゃよかった」


屋台を一通り見て歩く

ラムネを二本買って、早いうちに適当な場所にシートを引いて腰掛ける


「ふあー…にしても暑いね」

「だろうね」

「ねー…」


花火大会で配られているうちわを扇ぎながら

他愛もない話をする

華の長い髪が汗で首筋に張り付く


なんとなくいけないものを見ているようで落ち着かない

ちょっと居心地が悪い。


当の本人は知らずに花火を楽しみにしている。


しばらくして花火が打ち上がる放送があたりに響く

空を見上げていると

ヒュ~っという花火の上がる音


そして少し遅れてドーン!という火薬が爆発する音が聞こえる。


夜の空に華が咲いた


「おぉー!!」

華は耳を抑えながら見ている

その様子がなんだかシュールで少し面白い

花火を見上げる星空の瞳

その瞳華が咲く瞬間が映る


「花火綺麗だねー!!!」

「…うん、綺麗だ」



───本当に

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