第5話 夢に見るほどの愛


華⇒輪廻転生を繰り返す少女

音無⇒不老不死の少年



手紙を見つけたから一週間経った

あのあとひどい頭痛で倒れていたらしい、気がついたら家のベッドで寝ていた私に

母はそう言った。


あのあと少しのお説教と、それを盛大に上回る心配と看病を受け取った


その日から毎晩夢を見ていた

夢…というよりは前の記憶を辿っていたという方が正しいのかもしれない

私の知らない音無くんを私が見ている。


例えば夜空を見に、家を抜け出したこと

例えば二人で旅行に行ったこと


なんてことない他愛のない日常を繰り返し見ていた


音無くんとはこの一週間連絡を取っていない。

でも、そろそろ会いに行かなければいけない気がする。


本家の倉庫にあった✖の箱に入った手紙を欲しいと頼むと

本家の遣いの人は首をかしげながら譲ってくれた。


手紙を見る

掠れて文字はほとんど読めない

だが、あの時は確かに読めていた。


前の私の記憶が手紙によって叩き起されたのだろうか

今の私にはないが、この手紙に懐かしさを覚える


茶色く変色した古い紙を撫でて、封筒にしまいバックに詰めた


音無くんに会いに行こう。


天気は快晴。

雲一つない青空

絶好のお出かけ日和だが足は重たい。


家からあの一本桜の公園までは10分

10分でこの気持ちの整理をつけなければならない。


さぁ、どうしたものか



───────────────────────────


10分なんて歩いてたらほんの数秒と変わりはしない

瞬く間に公園にたどり着いた


木の下のベンチにいつものように腰掛けている

私に気が付くと軽く手を挙げておいでと、手招きをされた。


「やっほ」

「久しぶりだね」

「一週間ぶりだよ」

「久しぶりじゃない?」

「確かにね」


いつも通りの軽いやりとりの挨拶

言われる前に隣に腰掛ける

木製のベンチが少し揺れた。


「ねぇ音無くん。これ見覚えある?」


前置きなんていらない

単刀直入、封筒を差し出す

音無くんは首をかしげると差し出された封筒を手に取って

ゆっくりと封を開け、手紙に触れてて取り出した


取り出された茶色く変色した古い紙を見る。


「…うわ、なつかし…」

「本家で見つけたんだ」

「あぁ…通りで…それでこれ見つけてどうしたわけ?」


手紙を随分懐かしそうに見つめたあとに封筒にいれて

返された。


「…あのね、全部思い出したよ」


数秒の沈黙

だが、私の耳には聞こえた

息を呑む音

歪んだ音が悲鳴を上げた

───歓喜の悲鳴を。


言葉を出す前に肩を掴まれる

「思い出したの?」

痛いほどに

「…うん。」

「……やっと…、やっと思い出してくれた…」


安堵の音

落ち着いた呼吸

それでも心音は高鳴っている


「…うん、だからね、先に私の気持ちを聞いて欲しいの」


肩に置かれた音無くんの手に触れる

私より少し冷たい指先が少し震える


「…なに?」


いつになく真剣だ。

お互いに。

深呼吸を一つ

自らの心音が一番うるさい。

落ち着いて。


「私ね、音無くんの友人で嬉しかった」

「私は、音無くんが疲れた時に体を支える添え木になりたい」

「私は、音無くんが暇なときに時間を潰す本になりたい」

「私は、音無くんが寒くて震えるときに体を温める暖炉の火になりたい」

「私は、ずっと一緒に笑い合って居たい」

「私は…、音無くんのこと愛してるよ」


吐き出した音は

気持ちが悪いほどに熱い音がした。

音無くんの赤い瞳と目が合う、

揺れるルビーの瞳は色々な感情が混じり合っている


「…俺も、華のことは特別に思ってる」

「…うん」

「…俺も、ずっと一緒に笑い合っていたいんだ」

「…うん」

「…愛してるよ俺も」

「そんなことずっと前から知ってるよ」

「じゃぁなんで言わせたんだよ…」

「勝手に言ったんじゃん。」


いつもの調子で笑い合う

指先の震えは止まっていた


「だからね…いいよ」

「え?」

「───音無くんのこと、殺してあげる」



木々を揺らす大きな風が吹いた

木の葉がゆらゆらと揺れ落ちる


音無くんの心臓の音は確かに今

嬉しそうに息を吐いた。

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