第3話 輪廻を外れた者


音無…不老不死の少年

時乃…年齢不詳の少年



いつもの公園

快晴……とは程遠い曇天の空を見上げる

雨が降ってきそうな日、独特の匂いがこちらまで流れてくる

平日の昼間は暇だ。

いつもなら適当に時間を潰すが雨が降るかも知れない

そう思うとなかなかこの場を動けない。

家に帰るのもありか、そう思いベンチから重たい腰をあげようとして

目の前の足に気がつく。


10歳くらいの年頃の少年。

栗色の跳ねた髪がどことなく子犬を連想させる

無邪気な笑みを浮かべる口元とそれに少し似合わない知的要素のメガネが特徴的だった


あぁ、古くからの知り合いだ


「やぁ、君まだアレとつるんでるのかい?」


年端もいかない少年から出てきた言葉とは思えないほど

辛辣で失礼、それに妙な貫禄を持った声色。

実際僕より長生きなんだろうけど。


「アレって?」

「わかりきったことを…いつも隣にいる彼女さ」

「君は華のこと嫌いなんだっけ」

「いいや、嫌いじゃないさ、好感は高い方だ。」

「ふーん」

「聞いておいて興味なさげにするの悪い癖だぜ」

「お説教しにきたわけ?」

「まぁそんなところさ」


げっと口から自然に漏れ出た

年寄りの説教は古今東西いつでも長い。

目の間に立っていた少年のような老人は僕の隣に腰掛ける

これで僕はもう立ち上がるのに少々体力を要することになった。

知り合いが横にいて会話をしている中急に帰る、なんているだろうか

答えはもちろん否。

少なくとも僕には難しい要求だ


「それで、短い説教がいいな」

「そう嫌そうな顔するなよ少年。かわいい顔が台無しだぜ」


どの口がいうのやら

今度は言葉を飲み込み変わりに深いため息を吐き出してやった

わざとらしく。

その様子に琥珀色の瞳が小さく光ったような気がした


ポタリと、上から水が落ちてくる

そして、次の瞬間にはザァーだ。

バケツをひっくり返したような豪雨。

でも、多分長くは続かない雨だろう。

しかしこれでもう本当に帰る気は失せてしまった


コホンとわざとらしく咳き込んで話を促す


「時乃、僕暇じゃないんだけど」

「ヒマそうにしてただろ。まぁ聞いていけよ」

「っけ…」

「質問に答えてくれよ。まだツルんでるのか?」

「うるさいな。悪い?」

「あぁ、悪いとも」


流れ出た言葉は先ほどの会話と同じように

スルっと耳を通り抜けていった。


「なんで悪いのさ」

「お前いつまで彼女の魂を縛るつもりだい?そろそろやめたらどうだ?」

「…関係ないだろ」

「多いにあるとも」

「なんで」

「友人だからね、君と彼女の」


メガネ越しにじっと見上げてくる琥珀の瞳は嫌な迫力が有って目を逸らせない

いや気持ちになる

罪悪感を刺激する言葉は嫌いだ。


「…うるさいな……確かに友人だけど踏み込んで欲しくない」

「…またそれかい?せめてどうして彼女にこだわるか理由くらい教えてくれたっていいだろう」

「……」

「…音無」


小さな子供を嗜める大人のような口調

実際これに弱いのだ。


「…約束、したんだ」

「約束…?どんな」

「それは言えない。あいつに思い出してもらわないといけないことだ」

「…約束を果たすまでは一緒にいるつもりなのか?」

「悪い?」

「……」

「……」


目が合う

今度は逸らせないんじゃない

逸らさないんだ。


数秒の沈黙


先に沈黙を破ったのは時乃だ

彼ははぁと深いそれはそれは深いため息を一つ吐き出した


「わかった。君がそうしたいならもう言わない。」

「わかってくれて嬉しいよ親友」

「都合がいい時ばかりその呼び方するのやめなよ。親友」

「…ちぇ」

「ハハ、まぁ、それじゃぁね。」


気が付くと降り注いでた雨は消えていた

ほんの短い通り雨だった。

空を見上げると雲の切れ間から光が漏れている

ふと、視線を時乃に戻せばもう姿はそこにはなかった。


「神出鬼没かよ…」


深い、深いため息を吐き出して

深呼吸をした。


雨のち晴れ。


少し友人に会いたくなる天気だった

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