第2話 微妙な音の違い

華 … 輪廻転生を繰り返し、前世の記憶を引き継いでいく少女

音無…不老不死で華と友人を繰り返している



音無くんはあまり私の名前を呼ばない

大体お前って呼ぶ。

嫌とかではない、私だとわかる呼び方をしているならそれでもいいと思う


目の前の少年。音無くんに目を向ける


陽が差し込む暖かいテラスでティータイム中だ

冷え込むことがあってもまだまだ暖かい日が続き

あぁ、温暖化とか大変そうだなぁと意味なく思う事がある。


「なに?ジロジロ見て」


私の視線に気がついたのか

音無くんと視線が交じり合う

その交差もすぐに解かれる

大体音無くんの方から目をそらす

自然に視線を落とすように。


「いやぁごめんごめん、そっちのケーキ美味しいかなぁ~って!」

「…食い意地ばっかり張ってるね…一口いる?」

「え、いいんですか」

「やっぱりやめたわ」

「ケチ!!」


苺のショートケーキとコーヒーのセットを頼んで

未だにケーキを食べていないくせに…

ちなみに私は抹茶のタルトもう半分食べた。


フォークで音無くんのケーキに狙いを付けるていると

ケーキが差し出される


「え、いいの?」

「一口だけね」

「お言葉に甘えて~!」


遠慮のえの文字なんて関係ないです

なぜなら差し出さしたから良いということ

本当に遠慮なしに差し出されたショートケーキにフォークを入れて

口に入れる。

柔らかいスポンジとちょっと酸っぱいいちご

そのいちごの酸っぱさを隠すように甘めに作られたクリーム


「美味しい」

「だろうね、それで」

「んぁ?」

「食べたよね?」

「今飲み込んだ」

「さっきなんで見てたの?」


真っ直ぐにこちらを見つめる


ケーキでは誤魔化されてはくれなかった

最も誤魔化せるとは思っていなかったが深く聞かれないと思っていた。

少しぬるくなったケーキセットの紅茶を一口。

テーブルの上にコトンと置いた。


音無くんの瞳は今回は逸らされなかった

逸らしたのは私のほうだ。


「ハーナー…?」

「………それ」

「え?」

「名前、の、感じが微妙に、違うっていうか…」

「……え?名前ハナでしょ?」

「華ね」

「…?」

「いや読みは一緒なんだけど微妙な発音っていうか…」


言葉にすると大変難しい

これは私だけが感じるちょっとしたズレ。小さな違和感

いつもなら別に気にしない位の小さなズレ。


ハナと音無くんは私をそう呼ぶ

間違いではない。

正しくもないだけでだ。

その音に込められた、重たさは今の私に向けられていない気がするだけ。

私はハナ、ではないのだ。


「…違う誰かのこと呼んでるのかなぁ~…って…」


多分前の私だろうか

私の記憶は曖昧だ。

思い出せることに差がありすぎるから


音無くんの顔が見れない

視線を下に向けたままなのは今度は私。

数秒の沈黙、やや長くて重たい


「…音無くん…?」


恐る恐ると、怖いものを見るような気持ちで音無くんの方を見る


「───…」


音無くんの赤い瞳と目が合う

逸らすことは多分許されない。

今やっと彼は私を見ている気がする


「あぁ…お前耳がいいもんな…ごめん、多分無意識…」

「いや…いいよ。あんまり気にしてなかったし…」

「…音関連でお前が気にしないはずないでしょ…僕のミス。ごめんね。華」


盛大なため息が音無くんからこぼれ落ちる

これは結構まじな反省だ。

珍しいものを見た、ガクンと垂れた頭を突っつくと

うざそうに払いのけられた

「なに」

「珍しい~と思って」

「失礼だよ人が反省してる時に」


拗ねたようにそっぽを向かれた

その様子がなぜか少しだけおかしくて笑ってしまった。


すっかり覚めた紅茶のおかわりをもらおう。

そして、ゆっくり話をしよう。



こんなにもいい天気なのだから。

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