第4話

※※※※

 今日は日曜日で、部活はない。だけど僕は坂上の後ろを歩いている。坂上の後ろを歩くのは十日ぶりだ。

 どこかソワソワした様子の坂上が一軒の店の前で、足を止めた。ショーウィンドウに張り付いて、何かを熱心に見つめている。恍惚とした表情は、もはや目に映っている商品に恋しているようにも見える。

 やがて意を決したように、店内に吸い込まれていった。

 丁寧に梱包された商品を大事そうにかかえて、坂上がスキップしているような、楽し気な足取りで歩いていく。

 上手くいった。坂上は素直な奴だから、案外早く種が芽吹いたな、と僕はクスクス笑いが抑えられず、手で顔を覆って隠した。

 あいつは見かけによらず臆病だから、追いかけるのが大変だった。通学路の途中の学校の壁に秘密の隠し扉がなければ、あいつよりも先に着替えて、体育館で素知らぬ顔をするのは難しかっただろう。

 なぜ僕が隠し扉の存在を知っているのかと言えば……。

 紅学園の創始者は、ジャック・R・カーター。略されているミドルネームはリッパ―だ。つまり、ジャック・ザ・リッパー、切り裂きジャックの遺伝子を運ぶ者。

 僕は彼の子孫なのだ。

 坂上が出てきた店の前を通り過ぎながら、チラリとショーウィンドウを覗く。沢山の包丁が飾ってある。そこにぽっかりと空いた空白の場所を見つけると、たまらずゲラゲラ笑いだしてしまった。色素の薄い目から、涙がにじむ。

 ジャック・梨羽(リッパー)・カーター家の血が騒ぐ。

 さあ、観に行こう、これから起こる惨劇を。ボクが運んだ種の萌芽を……。

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霧の朝には気を付けて 和來 花果(かずき かのか) @Akizuki-Ichika

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