昼休みの会話
「あ」
俺たちが玄関から出ると、そんな声が聞こえてきた。俺はその声の方向に視線を向ける。そこには今にもインターホンを押そうとしている朱音がいた。
「あ! 朱音先輩!」
「え、小春ちゃん?」
俺の後に続いて出てきた小春が朱音に気付いて飛びついていく。小春が昨日泊まっていたことを知らなかった朱音は驚いた反応をしていた。
「おはようございます、朱音さん」
それに続いて雪音も出てきて朱音に声をかける。
「おはよう、雪音ちゃん! 小春ちゃんは昨日泊まったんだね」
朱音が小春に引っ付かれている状態で雪音に返事を返した。
「そうです」
「私も誘ってくれてよかったのに」
雪音の返事に朱音が少し不満そうだ。それに小春が何かをたくらんだような顔をする。
「それだったら今度、雪音ちゃんが私の家にお泊りするときに岩黒先輩の家に来ればいいじゃないですか!」
「ふぇ!?」
小春のその言葉に朱音は赤面して変な声を上げる。そしてちらちらと俺の方を伺うように見てくる。
「それは何の視線だ?」
「え、えっと、それは……」
俺が尋ねるとしどろもどろになって返事ができなくなる朱音。それに対して、小春と雪音が俺と朱音を交互に見た後に「だめだこりゃ」と言わんばかりにため息を吐いた。
「まあ、いいや。早くいかないと遅刻するぞ」
俺は三人それぞれの視線を無視して、早く行こうと促す。時間がそこまでないのは本当なので、三人も渋々と従う。
片倉の家の付近を通りかかった頃、ちょうどよく片倉が道を曲がって出てきたところだった。
「おはようございます」
片倉は俺たちを見つけると微笑み挨拶をする。
「おはよう! 結花ちゃん!」
朱音が元気よく返事をして、各々挨拶を交わす。こうしてみると朱音と片倉は本当に仲が良くなったようだ。最初の頃みたいに挟まれる状況になりそうもなく何よりである。
俺はそんな安心感と共に昨日のカフェにいた面子で登校するのだった。
学校の昼休み、俺は一人で飯を食おうと席を立ちあがった時、ふと声がかけられた。
「和樹君! お昼食べよう?」
朱音が周りに聞こえるように言うので、何人かの聞こえていた人からの視線が刺さる。俺は顔をしかめながら朱音の方を向く。そこには片倉も一緒に弁当を持っていて、朱音と共に来ているのだった。
「お前らで食べればいいじゃないか」
俺が朱音にそう言った時、周囲から「断るのか!?」と言う、嫉妬や怒り、そして俺に対する漠然とした恐怖感? のようなのが混じった視線が向けられる。これ、なんて答えても変わらないんだよなぁ。
「いいじゃん。雪音ちゃんたちとも一緒にしようって朝決めたんだ!」
朱音がなおも押してくる。てか、朝に決めたんならその時話せよ。この状況で言わないでもらえたら助かるのに。
結局、俺の願いも空しく、朱音に半ば連行されるような形で、女子たちの昼食会に招かれることになるのだった。
そしてやって来た昼食会の会場は、中庭であった。普段はグループを作りがちな奴らがたむろしている空間のため、俺一人では絶対に近寄らないような空間だ。そんな場所に、俺はなぜか妹を含めた女子生徒四人に囲まれた状態でいるのである。
「そう言えば一つ聞きたいことがあるんですけど」
そんな中、ふと片倉は俺を見て疑問を発する。
「なんだ?」
俺は何かあったか? と思いながらも返事を返す。
「岩倉さんって何か怖がられていませんか?」
片倉の質問に、俺を含めてほかの面子が「ああ」と、思い出したような顔をする。今更過ぎてすっかり忘れていたような雰囲気だ。そして俺は朱音に視線をやる。俺の視線を受けた朱音が頷いて説明をはじめた」
「結花ちゃんが来る前に、というか昔からね、私が和樹君とよくいるとなぜか和樹君が絡まれることがあるんだよね。それで和樹君が返り討ちにしているうちに、噂が立っちゃって」
朱音は苦笑しながらそう言った。しかし、説明された片倉は納得したような表情を浮かべている。
「なるほど。朱音さんは可愛い方ですからね」
「ええ!? 私なんて全然だよ!?」
片倉の言葉に朱音が謙遜なのか素でそう思っているのか、慌てたように応えた。素なんだろなぁ。俺はそんな様子の朱音を見てため息を吐く。
「こいつはいつもこんな感じだからな。おかげで迷惑している」
「迷惑!?」
俺の言葉にショックを受けたように朱音が叫ぶ。今度は片倉が苦笑いしていた。
「その割には先輩たちの付き合ってるとかの噂って聞かないですよね?」
そこに小春がぶっこんで来る。
「そうなんですか? 仲がいいように見えますが」
片倉は素直に小春に聞き返している。しかも興味津々だ。それに対して朱音は少し恥ずかしそうにしている気がする。
「まあ、付き合ってないしな。よくそう言ってくるのはこれだけだ」
俺は小春を指しながらそう言った。その瞬間、何とも言えないような視線が四人分、俺に向かって刺さる。解せぬ。
「な、なんだ?」
俺は少し気圧されてしまう。そんな俺の様子に一同、呆れたような態度をとるのだった。
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