雪音たちと登校
カフェを出た俺たちは駅に向かって歩いて行く。俺は女子チームと数歩離れて歩いている。その道中、ふと小春が三人と離れてこちらに来た。
「先輩、先輩」
「なんだよ?」
俺は胡乱な眼差しを小春に向けた。そんな俺を普通に無視した小春は言葉を続ける。
「朱音先輩と進展はないんですか?」
「何の進展だよ」
俺は小春にチョップをかましながらそう答える。ちょっと本気の涙目が入った小春が恨みがましい目で俺を見る。
「痛いじゃないですか。何するんですか、先輩」
「お前がようわからん質問をするからだ」
俺はそう言いながら小春を置いて先に行く。朱音との間には何もないんだよ。そもそも聞いてくるやつもそうそういない。
小春に対して溜息を吐きつつ俺が視線を上げると、前方にいた三人が立ち止まっていた。
「和樹君、早く行こう? て、小春ちゃんどうしたの?」
朱音がそう声をかけてきた。どうやら待たせてしまったようだ。少し小走りで三人の待つ場所に向かう。
「すまんすまん。小春のことは気にするな」
俺はそういって三人と合流する。そのあとに小春も小走りでついてきた。こうして俺たちは駅のホームに向かうと、ちょうど次の電車が来るようだ。俺たちはそれに乗って一駅進む。
電車から降りると、あたりも少し薄暗くなる時間帯であった。俺たちは固まって家に向かう。それでも朱音は近所であるし、片倉の家もそう離れていない。小春は家にはよく来るが、俺は家を知らない。まあ、知りたくもないんだが。
駅から家が一番近かったのは片倉だった。
「では、今日はありがとうございました。また明日」
片倉は礼儀正しく挨拶をして家に帰っていった。俺たちも各々声をかけて家に向かう。
「じゃあ、また明日ね」
こうして朱音も家に帰る。そして俺の家に着いた頃、ふと気づく。
「おい、お前は帰らないのか?」
俺に問われた小春が首をかしげる。そして雪音を見た。小春の視線を受けた雪音が答える。
「和樹兄さん。小春、今日泊まるよ?」
「聞いてないんだが?」
「今、言った」
俺は頭を痛くなった。別によく泊まりに来るから今更ではあるが、急に言われるのは大変やめて欲しいものである。
「雪音ちゃん、言ってなかったの?」
「言ってない」
小春の問いに雪音が答える。
「だめ、だった?」
雪音が不安そうにそう尋ねる。時々、俺に予定を言い忘れていたりするときに、雪音がよくやる仕草である。
「まあ、いいや。夕飯作るか……」
俺はすべてにツッコミを入れるのを諦めて玄関を開ける。小春のお泊りが確定した瞬間だった。いや、まあ、ほんとに問題はないのだが。
俺は先にリビングに入り、夕食の用意を三人分する。みんなで夕食を囲み、俺たちはそれぞれのすることのため別れる。雪音と小春は課題の続きをするようだ。その間に俺はシャワーだけ済ませて先に寝る。
雪音たちはどうやら遅くまで起きているつもりなのか、リビングで楽しそうにしている。いいのか? そのうち、親父たちも帰ってくるぞ。
そんなことを考えながら、俺は眠りにつくのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~^
翌日の朝。俺は独りでに起きだし、学校へ行く用意を始める。いつものように着替えを終えて、キッチンへと向かうとそこにはすでに雪音と小春がいた。
「おはよう。早いな」
俺は二人に声をかける。
「おはよう、和樹兄さん」
「おはようございます先輩!」
雪音はいつも通りに、小春は元気に挨拶を返してくれる。二人はキッチンで何かしているようだ。
「二人して何してるんだ?」
「弁当を作ってる」
俺の質問に雪音が答える。その間も雪音の手元は菜箸を動かしている。俺が作ると冷食の詰め合わせになるからな。しかし、小春は料理できたっけ? そこら辺のことを俺はよく知らない。
「小春も弁当を作っているのか?」
「もちろんです! 先輩の弁当にも私が作った料理を入れておきますよ!」
自信満々にそう言った小春の様子を見て、俺は安心する。そこまで自身があるのなら大丈夫であろう、と。
それから、弁当の残りをつまみつつ朝ごはんにして、俺たちは学校に行く準備を整える。俺は先に出ようとしたのだが、そこに小春から待ったがかかった。
「先輩、一緒に行かないんですか?」
「なんでだ? お前は雪音と行けばいいじゃないか?」
「そりゃ、雪音ちゃんとは一緒に行きますよ。そうじゃなくて、なんで先輩はナチュラルにぼっちを極めようとするんですか?」
俺が尋ねることに、小春は普通に失礼な質問で返してくる
「妹と、その友達と一緒に登校するとか意味わからんだろうが」
「そんなことないですよ?」
小春は普通に首をかしげる。俺が間違っているのか? そして小春は何か思いついたのか、ニヤニヤしながらこちらを見る。
「あ、わかりました!」
「何をだよ?」
「朱音先輩とイチャイチャしながら登校したいんですね? 二人きりで、二人きりで!」
小春はうきうきとそう言った。俺はそんな小春に笑いかけて、ゆっくりと近づく。そしてアイアンクロー。
「痛いですぅ、先輩ぃ」
割と本気で痛そうにしている。俺は掴んでいた手を放し、ため息を吐く。
「わかった、俺も待ってやるから、準備しろ」
こうして俺は、二人と一緒に登校することになるのだった。
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