カフェで休憩
アパレルショップを出た俺たちは、少し休憩がしたいという俺の希望でカフェに来ている。そこで各々好きなドリンクを頼み、みんなで席を囲んでいる。俺の両隣にはなぜか朱音と片倉が座っていた。
「どうしてこの席順なんだ」
俺は正面に仲良さげにしている小春と雪音に尋ねる。俺に尋ねられた二人はそろって顔を見合わせている。何を問われているかわからない、と言った具合だ。
「和樹君は嫌なの?」
俺の隣の朱音が少し悲しそうにそう聞いてくる。俺は「グッ」と言葉を詰まらせた。
「いや、そんなことはないよ」
俺にはそう答えるしか選択肢がなかった。それを見ている片倉はなぜかニコニコしているし。俺は黙ってコーヒーを口に運ぶ。休憩がしたかったが休まる気があんまりない。
「そう言えば片倉先輩! 質問してもいいですか?」
そこに小春が元気に話題を振る。こういう時には助かるな。
「何かしら?」
「先輩はどうして転校してきたんですか? 珍しいと思いまして」
「特に面白い話もなく、親の転勤ですよ」
片倉はニコニコと小春の質問に答える。そんな片倉の返事を俺や朱音は初めて聞く内容のため、「へぇ」となって聞いていた。
「いや、先輩と朱音先輩」
そこに小春が呆れたように声をかけてくる。
「なんだ?」
「なーに?」
俺と朱音がそろって首を傾げた。
「なんで片倉先輩と一緒のクラスなのにはじめて聞いたみたいなリアクションとってるんですか!?」
小春のツッコミが炸裂する。俺と朱音は顔を見合わせた。
「なぜって初めて聞いたからだが?」
「そうだよねぇ」
「そう言えば二人は聞いてきませんでしたね」
俺と朱音の答えに片倉が笑ってそう言った。
「えぇ。普通転校生とか来るとみんな質問に行きません?」
小春は困惑してそう言った。
「もちろんみんな片倉を囲んで質問攻めにしていたぞ」
俺はそう答える。それに対して朱音もうんうんと頷いている。
「そうですね。皆さん積極的に私の周りに来ましたね」
片倉も思い出したのか少し疲れたようにそう言った。
「ですよね! で、先輩たちは行ったんですか?」
小春の質問に俺と朱音はまたも顔を見合わせる。そしてそろって答えた。
「「行ってない」」
「なんでっ!?」
ガタッと立ち上がる小春にカフェの店内にいる人からの視線が集まる。小春は周りの視線に気づき「あっ」と声を上げると、静かに座った。それに苦笑しながら俺は答えた。
「なんでって俺は興味がなかったからだな」
「それは酷いですね」
俺の答えに小春はバッサリと切り捨てに来る。
「でも、和樹君は疲れてないか心配はしていたんだよ」
そこに朱音が謎のフォロー(?)を入れた。そんなことは言わなくていいんだよ。
「まあ、先輩はどうせそんなことだろうと思ってましたよ。私の扱いも酷いですし」
朱音のフォローも空しく、小春はそんなことを言う。
「じゃあ、片倉先輩はどうして先輩と会話するようになったんですか? 絶対先輩から行かないですよね?」
「そうですね。席が隣なんです」
片倉はそう答える。が、そうなるようにしたのは片倉自身だったはずだ。俺はそれを思い出して、疑問に思った。
「そう言えば最初、俺を狙い撃ちにしなかったか?」
「それは私に一番興味がなさそうな人を選んだだけですよ」
「そんな理由かよ」
俺はため息をついて、コーヒーを啜る。隣で朱音も「へぇー」と、つぶやいていた。片倉は続けて説明する。
「そのあと放課後に二人で話したんですよ?」
「え、それは黒岩先輩から?」
「いや、俺は寝てただけだ」
小春の質問にそう返した俺は嫌そうに話す。午後の授業を丸っと寝ていたら放課後になっていたことを。
「なんというか、先輩」
小春の呆れた視線が痛い。
「なんだよ?」
「あほですね」
オブラートなど知りませんと言わんばかりに突き刺さる言葉。小春に言われたくない言葉ナンバーワンである。微妙な表情の俺を無視して小春は質問の続きに戻る。
「それで寝ていた先輩を片倉先輩が起こしたんですか?」
「いいえ。私が教室に戻った時にちょうど起きたんですよ」
片倉はあの時のことを思い出したのか少し笑っていた。片倉に迫られて俺も少し焦った話だからこれ以上はもういいだろう。
「まあ、そのあとに朱音も来たし、それから話すようになったんだよ。もういいだろ?」
俺は説明を引き継いでそう言った。それに疑問を覚えたのか、小春は何かすっきりしていないような表情だ。
「和樹兄さん。何か隠している?」
そこに雪音が言葉をぶっ刺した。なんでこのタイミングで聞くんだよ。わざとか、わざとなのか?
「え、先輩。何を隠しているんですか?」
小春は雪音の言葉を聞いて、興味深々で聞いてくる。
「片倉に少しからかわれただけだ」
俺はいやいや、顔をしかめてそう言った。その本人である片倉はニコニコと笑っているし、ちゃんと話をしたのであろう朱音も少し笑っている。
「あ、絶対何かありましたね」
小春が確信を持ったようにそう言った。俺は話の流れを断ち切ろうと立ち上がった。
「ほら、もういい時間だから帰るぞ」
「あー、逃げないでくださいよ! 片倉先輩、今度教えてくださいね!」
「はい、いいですよ」
「よくねぇよ」
俺たちはそんなことを言い合いながら帰り支度を始めるのだった。
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