お出かけ

 ショッピングモールへと向かう道中、俺たちは並んで歩道を歩き、電車の駅まで向かっていた。ショッピングモールは隣の駅で一駅である。歩いて行けないわけでもないが、放課後のためそこまで時間もあるわけではなく俺たちは電車を使うことにしていた。


 駅のホームで電車を待っている間、ふとスマホを見ていた小春が顔を上げた。


「ねぇ、先輩」


「なんだ?」


「これ見てくださいよ」


 そう言って見せてきたスマホの画像。それはSNSのチャットの画面であった。そこには隠し撮りしたような写真が張られていて、教室が映し出されている。そしてその写真には片倉が映っていた。


「この人、先輩から朱音さんを寝取った転校してきた方じゃないですか?」


「確かに転校してきたのは映っている奴だが、事実と異なる言い方をするのをやめろ」


「あいたっ!」


 俺は小春にデコピンをしながらそう答える。それにしても何時撮ったのか。完全に盗撮じゃないか。


「しかし盗撮とは感心しないな」


「それは私もそう思いますけどね。でも、学校中で噂になっていましたよ。二年生のクラスにめっちゃきれいな人が転校してきたって」


 俺の言葉に同意しつつ、小春はそう言った。確かに見た目は可愛い、というか綺麗だとは思うが、朱音がなぜか俺を挟んで対抗しているのを見ると、胃が痛くなる。俺は静かなのが好きなのに俺の周りにはどうして騒がしいのが多いのだろうか。


 俺はそう思っている途中でふと気が付く。そして妹の友達である小春を見て、そう言えばこいつもうるさい奴だったと思いなおす。そして悲しみと共に残念な奴を見るような目で小春を見た。


「なんです?」


 小春はこてんと首をかしげて俺にそう尋ねる。あざとい。そして無性に腹が立ってきた。黙っていればこいつもまた、可愛い部類だろうに。


「いや、残念な奴だなと思ってな」


「失礼ですよ!?」


 俺の言葉に小春は怒ったように言い返す。俺と小春がギャーギャーと言いあっているうちに、電車がホームへと入ってくる。


「和樹兄さん、小春。電車、来たよ」


 雪音から少し困った目でそう呼びかけられる。おかしい。なぜ俺までそのような目で見られないといけないのか。


「あ、はーい。ほら先輩、行きますよ」


 小春はそんな雪音の視線を気にした様子もなく、電車に乗っていく。俺はため息を吐きながら雪音と共に小春の後を追うようにして電車に乗り込むのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 一駅だけ電車に乗り、駅から出るとそこは駅と連結しているショッピングモールだ。ここにはブランド物を売っている店や、逆に大量品を販売している店、または飲食店や本屋などいろいろな店舗が詰め込まれるように入っている。


「ひゃー、平日なのに意外と人がいますね。みんな暇なんですかね?」


 小春は駅を降りてからきょろきょろして、買い物に来たであろう客の群れに対してそう言った。お前もその内の一人だろうに。


「それで、何を見に来たんだ?」


 俺はため息を吐きつつ二人にそう尋ねた。その二人は顔を見合わせた後に答える。


「決まってない」


「ウインドウショッピングですね!」


 その言葉に俺は絶望する。薄々とはわかっていたが、いざそう言われるとすでに帰りたい気持ちでいっぱいだ。男が付き合わされて大変な女の行動の一つ、ウインドウショッピング。俺はこれから戦場に赴く覚悟で付き合わないといけないようだ。いったいいつ帰れるのやら。


「あれ、先輩。そんな悲しそうな顔してどうしたんですか?」


 俺の表情に気付いた小春は楽しそうに迫ってくる。俺はそれに対してデコピンで対抗しながら雪音に問いかける。


「それでまずはどこに行くんだ?」


「服でも見る?」


 雪音から疑問形で答えが返ってくる。俺は特に見たいものもないので「さあ、行こう。すぐ行こう。そして帰ろう」という気持ちで促した。


 そして雪音や小春についていく形でアパレルショップを目指して歩いているとき、ふと前方に見覚えのある顔を見つけた。そこには仲がよさげに歩いている二人組の女子がいる。


「あ」


 そこに雪音が気付く。その声が聞こえたのか、その前方の二人組もこちらを振り返った。そして目が合う俺たち。雪音に続いて小春も気が付いたように目を丸くしている。


「あれ、雪音ちゃんと小春ちゃん! ついでに和樹君も!」


 前方にいた二人組は、朱音と片倉だったのである。朱音はニコニコと片倉を連れてこちらに歩いてくる。つか、俺はついでかよ。


「なにしてんだ? こんなところで」


 俺は釈然としない気持ちになりながらも朱音にそう尋ねる。


「私は引っ越してきたばっかりの結花の案内だよ!」


 結花とは片倉のことだろう。いつの間にそんなに仲が良くなったのか。今日の朝までは猫のように警戒していたはずなのだが。


「奇遇ですね、黒岩さん」


 片倉も俺にそう声をかけてきた。俺は肩をすくめて答える。


「これのお守りだ」


 そう言って俺が示したのは小春である。お守りと言われた小春は不満気である。


「酷いですよ、先輩!」


 俺は小春の抗議を黙殺して朱音に尋ねる。


「いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」


「それはねー、学校で?」


 朱音は首を傾げつつ片倉に問いかける。問われた片倉も首を傾げた。


「なんでそんなに自信なさげなんだよ」


 俺は脱力してそうツッコミを入れる。


「そんなことよりどこ行くの?」


 朱音は話をぶった切ってそう聞いてきた。そんな朱音に雪音が答える。


「服、見に行くところ」


「あ、私たちと同じだね! 一緒に行こう!!」


 こうして俺たちは計らずも合流し、ともにウインドウショッピングをすることと相成ったのである。

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