妹の友達
家に帰りついた俺たちはそれぞれの部屋に向かう。雪音と小春の二人はきゃいきゃいと騒ぎながら二人で雪音の部屋に入っていった。俺はと言うと、これまた自分の部屋で、一人静かに課題を進めているところである。
「ふぅー。こんなもんかな」
俺はそう独り言ちる。シャーペンを置いて一息つく。机の上には参考書とノートが広げられていて、ノートには俺の字で数式が書き連ねられている。
一通り課題を終わらせた俺は、息抜きにコーヒーでも飲もうかと、自室から出てキッチンへと向かった。お湯を沸かしながら、ドリッパーに挽いたコーヒー豆をセットする。そしてお湯が沸くと、俺はゆっくりと丁寧にドリッパーへとお湯を回しいれる。あたりにはコーヒーの香ばしい香りが立ち上り、俺は心が落ち着くように感じた。
俺は淹れたてのコーヒーを手にリビングのソファーに腰かける。実に落ち着いていて静かないい時間である。しかし、そんな時間は長くは続かないようだった。二人分の足音が、二階からこちらに向かって近づいてくるように聞こえてくるのだ。
「あ、先輩!」
リビングにいる俺に気が付いたのか、小春は元気に近づいてきた。その後ろには雪音が静かについてきている。
「どうしたんだ?」
俺は元気に声をかけてきた小春にそう返事をした。小春は俺のそばまでテテテと駆け寄ってくると隣に腰かける。
「何してたんですか?」
小春はそう言って俺の顔を覗き込むようにして尋ねる。
「課題をしてて終わったところだ。さっきまでコーヒーを飲んで静かな時間を満喫していたところだ」
「なんで過去形なんですか?」
「お前が来たからな」
「酷い!!」
俺の言葉にショックを受けたのか、わかりやすく、そしてわざとらしく声を上げて項垂れる小春。そしてちらちらとこちらを伺うように見てくる。
「なんだよ?」
俺は半眼になり、小春を見る。俺の視線をうけた小春は「うっ」と短く呻くように声を上げた後、雪音に泣きついた。
「雪音ちゃん! お兄ちゃんが酷いよ!」
「誰がお兄ちゃんだ!!」
俺は小春の言葉にツッコミを入れた。泣きつかれた雪音本人は、小春をよしよしとなで、あやしている。実に慣れた手つきである。
「で、結局どうしたんだ?」
俺は話が進まないことにため息を吐きつつ雪音に尋ねる。雪音は少し困ったように小春を見ながら話し始めた。
「私たちも課題をやってた。そしたら急に小春が飽きたって」
「あー」
俺は雪音のその言葉だけで事情を察した。じっと座って課題をやるのに小春が飽きて騒ぎ出したのだろう。そういうやつである。落ち着きがないというかなんというか。決して勉強ができないわけではないことは俺も知っているが、それでよく成績を維持できているものである。
「じゃあ、どこかに出かけでもするのか?」
俺は小春にそう尋ねた。俺の問いを受けた小春は「うー」と少し唸って考えた後に、こちらを見る。
「なんだ?」
「先輩!! 私たちとお出かけしましょう!!」
小春は元気にそう言った。
「なんで俺も行くんだよ。二人で行けばいいだろ?」
俺は出かけたくないため、そう言って二人で行くように促す。しかし小春はにやりと笑って言葉を続けた。
「それでいいんですか先輩?」
「何がだよ」
俺は何を言い出すつもりか警戒しながら聞き返す。
「雪音ちゃんを見てください! あとついでに私も!!」
お前はついででいいのかよ。しかし俺は小春の言うとおりに視線を向ける。そして「早く続きを話せ」と言う風に小春にも目をやる。
「それで?」
「かわいいでしょう?」
何言ってんだこいつ、という目で見てやるが、小春は意にも介さない様子で饒舌に喋り続ける。
「こんな美少女二人が出かけてみてくださいよ! 絶対にナンパされますよ!! いいですか? お兄ちゃん?」
ドーン! と効果音が付きそうな勢いと共に小春がそう言い放った。俺は頭が痛くなりため息を吐きつつ小春の話をまとめる。
「つまり、ナンパされない為の虫よけに、俺について来いと?」
「そういうことです!!」
小春はドヤ顔で腰に手を当て、仁王立ちでそう言い切った。話は分かったがとりあえず、だ。
「自分で美少女言うな。お前はせいぜい残念高校生だ」
俺はそう言いながらアイアンクローをかます。
「ひゃああああ! 痛い、痛いです、先輩ぃ!!」
俺が小春を解放してやると、涙目になってこちらを睨む。傍から見ると小春のちみっこい見た目と相まって小動物が震えているようにしか見えない。俺は冷めた眼差しで小春を見る。俺の視線に徐々に耐えきれなくなったのか、小春は雪音にまたもや泣きついた。
「雪音ちゃーん!!」
「はいはい」
雪音も毎度のことなので慣れた様子で相手をする。俺はそんな二人の様子を見ながら立ち上がった。
「あ、どこ行くんです?」
「出かける準備をするんだよ。行くんだろ?」
俺がそう答えると、小春は嬉しそうに笑った。そして、
「ツンデレですね、先輩!」
と、宣う。俺はもう一度かましてやろうかと考えたが、さすがに話が進まないので、いつかお仕置きしてやろうと考えてため息を吐きつつ放置した。
「で、どこに行くんだ?」
俺は雪音にそう尋ねる。雪音は少し考えた後、こちらを見て答えた。
「ショッピングモールかな」
「わかった」
俺はそう返事をして、出かける準備をしに部屋に戻る。こうして俺たちは三人でショッピングモールに向けて出かけるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます