第2話
郊外に位置しており、ベッドタウンとしての役割を担っている。
駅前やその向こう側は良く開発されており、高層マンションが立ち並んでいる。若者や核家族の世帯が多い。
それに引き換え、俺の住んでいる辺りは昔からある一軒家が中心で、田園地帯や自然も数多く残されており、高齢化がとても進んでいる。
そのように新旧で領域が分かたれているのだが、俺達の通う高校はちょうど境目辺りにあった。
俺と楓香は校門前で茉莉と別れると、一つ目の目的地に向かい歩いていた。
昔、二人で行ったことのある場所を順に巡っていく予定だ。
「にしても、楓香は随分と変わったな。驚いた」
「でしょ? 頑張りました。褒めて」
「偉い偉い」
「むふー」
俺はぞんざいに褒めたが、楓香はそれでも満足そうだった。
コロコロと表情を変える彼女を見ていると、俺は感慨深く思ってしまう。
なぜなら、昔の楓香はいつも暗く強張った顔をしていたから。とても笑顔を作る心の余裕なんてない様子だったから。
その為、見た目はもちろんのこととして、それ以上に内面の違いに俺は驚嘆していた。
十分ほど歩くと、俺達は一つ目の目的地に到着した。
俺と楓香の家のちょうど中間の位置にあった、小さな公園。今はほんの僅かな遊具を除けば、ただの平地だ。
「昔は滑り台とかブランコがあったのに、なくなっちゃったんだ」
「何年か前にな。最近はどこもそんな感じだ」
「ちょっと寂しいな、一緒に遊んだ物がなくなってるのは」
「でも、ほら。あのベンチはまだあるぞ」
「ほんとだ。塗り直してもいないんだ」
当時は赤色だったベンチは、すっかりペンキが剥げてほとんど木材の色となっていた。
俺達は二人でそこに座る。ふと見上げた空は綺麗な夕焼けとなっていた。
「懐かしい。あの頃の私はいつもここに座ってた。日が暮れるまでずっと。家にいたくなかったから。でも、蓮ちゃんが声を掛けてくれて、そこから私の世界は広がっていったんだよ」
楓香は慈しむような表情で語った。
この場所にいると、彼女と遊んでいた頃の記憶が自ずと呼び起こされていく。
「鬼ごっこ、かくれんぼ、キャッチボールにあとはこの辺りの探検とか。色々なことをしたな。うちの妹も呼んだりして」
「したした! どれもほとんどしたことなかったから新鮮だったなぁ」
「結構、ムキになってたな。顔は仏頂面だったが」
「自分の負けず嫌いを知ったのはあの時だね」
しばらくそんな思い出話をした後、次は商店街へと向かった。
「え、あのコロッケ屋さん閉めちゃったの!?」
楓香はシャッターが閉じた店の前で愕然とする。
「ああ、俺らが中学の時かな、店主の爺さんが身体を壊したんだ。それでもう無理だってなって、他県の息子さん夫婦と一緒に住むことにしたらしい」
「戻ってきたら食べるの楽しみにしてたのに、残念……でもまあ、あのおじいさんが今も元気ならそれでいいかな」
俺は商店街を奥まで一望するが、まだ夕方だというのに半分くらいは閉めたままだった。
「こうして見ると、シャッターの下りている店が増えたな。俺も最近は駅前まで出ることの方が多い」
「向こうにはショッピングモールもあるしねー。しかし、時間の流れは残酷だ、うう」
俺と楓香はどことなく寂れた雰囲気を漂わせる道を歩いていく。
やがて、商店街を抜けると、そこには緩やかに湾曲した軽い傾斜の上り坂が伸びていた。
その先は神社に通じている。
白樹神社。茉莉の家だ。
彼女は先んじて戻ってきて、家の手伝いをしていることだろう。
言っていた通りに境内の掃除をしているなら遭遇しそうだ。
「……神社も行っていい?」
楓香は遠慮気味に聞いてきた。
それはきっと、過去に起因している。俺と楓香が体験した不思議な出来事に。
「構わない。行こう」
俺達は石の階段を上っていく。百段余りの階段の先には朱色の鳥居が見えた。
それほど大きい神社ではないので、鳥居を抜けると参道脇には手水舎や社務所があり、参道の先にはすぐに拝殿と本殿がある。
本殿の脇にはこじんまりとした佇まいの白樹宅。
ちなみに神社の周りは森林地帯となっている。
「うーん、良い空気。ここは変わらないなー」
楓香は石段を上りきると、町の側を向いて両手を大きく伸ばし深呼吸していた。
涼やかな風が頬を撫でる。ここからは町並みが一望できた。とても眺めが良いので、たまに来たくなる場所だ。
俺達は手水舎で身を
白樹町。
それは今でこそ随分と広い領域を指す呼称となったが、元々はこの神社を中心とした一帯を白樹村として呼んでいた。
そして、その「白樹」という名前は神社の祭神である白樹様から来ている。
この辺りに住んでいて白樹様について知らない者はまずいない。
白樹様は平安時代の頃より夢を司る神様としてこの地で奉られてきたらしい。
悪いことをすれば白樹様に夢
夢攫いとは眠ったまま目覚めなくなる現象を指し、それは白樹様の力で夢を見続けているのだと言われている。
実際、過去にそのような事例がごく稀にだが報告されているらしい。
……そして、それは俺と楓香にも決して無関係の話ではない。
七年前の一件を機に俺は少し調べてみたが、どうやら白樹様は本来は中国の歴史書に記された、夢を食べるとされる
夢を食べると言えば同じく中国の
それゆえ、実はこの伯奇と混同されたのではないか、という説がある。
伯奇は
分かりやすい例としては節分の豆撒きだろう。
平安時代の中期頃、この地にも疫病が流行し、それに伴い悪夢を見てうなされる者が急増した。
その際、偶然通りがかった方相氏がおり、悪夢を食べてくれる伯奇を用いた儺儀が執り行われた。
結果、無事に疫病は収束し、人々を襲う悪夢は去ることになった。
そして、もう二度と同じようなことにならないように、人々は神社を建てて伯奇を崇め奉るようになったらしい。
ただ、この地で暮らしていたのは文字を操る貴族層ではなく、単なる農民達であった為、『ハクキ』という音のみが後世に伝えられていき、やがて『白樹』という字が当て嵌められたのだとか。
当初の伯奇には悪夢を食べて邪気を払うというような力はあったとしても、この町の白樹様のように夢を操るというような力はなかったはずだ。
それが人々の信仰によって宿った力なのかどうかは分からないが、夢攫いという現象は紛れもなく存在している。
俺と楓香がそれに巻き込まれたのは拝殿ではないので、恐らく大丈夫だろうとは思いながらも、お参りしている間は気を抜くことが出来なかった。
「やはー、さっきぶり~」
俺達が拝殿を出ると、白樹宅の側からちょうど茉莉が姿を現した。
学校の制服から巫女服に着替えている。純白の小袖に緋色の袴だ。その手には大きな箒を持っている。
「おぉ! 巫女さんだぁ! まつりん可愛い可愛い!!」
楓香は茉莉を見るや否や、ぴょんぴょんと飛び跳ねて興奮していた。まるで巫女を初めて生で見た外国人のようだ。
「ふふん~、これが新世代の巫女スタイルさ」
茉莉はクルクルと回りながら見せびらかしてきた。
しかし、パッと見は子供のような体格で茶髪なこともあり、これまでにも何度か見たが俺はいつもこう思う。
「コスプレか?」
「違わい本職じゃい!」
「痛っ、何をする!?」
「あたしの蹴りはすなわち白樹様の裁きと知り給え」
「自分とこの神様に謝れ!」
俺と茉莉がいがみ合っていると、楓香が申し訳なさそうな顔で口を挟む。
「あ、まつりん。ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」
「ん、何ぞ?」
「奥の祠を見に行かせて欲しいの」
俺と茉莉は同時に固まったが、その意味合いは微妙に違っているだろう。
茉莉は疑いの眼で楓香を見る。
「非公開の場所をなぜ知ってるし……」
「はてさて、えへへ」
楓香は
茉莉はそんな彼女の態度に「ぷっ」と破顔した。
「ま、別にいいけどさ。隠してるわけでもないしね。特に大したもんでもなく、本殿の裏側だからわざわざ紹介してないだけで」
先導する茉莉には聞こえないように、俺は楓香に小声で話しかける。
「……楓香。まさかとは思うが」
「分かってるって、大丈夫大丈夫」
彼女は能天気に頷くだけだった。俺は仕方ない、と溜め息を吐く。
俺達は本殿の裏に回った。そこには小道があり、その奥には周囲を木々に囲まれた小さな祠がある。
この場所に関しては知る人もほとんどいないだろう。管理している白樹家の人間くらいに違いない。
俺と楓香がこの場所を知ったのは単なる偶然だった。
昔は良くこの神社に来ており、ふらふらと散策していたところを見つけたのだ。
発見してからは俺達のお気に入りの場所だった。
葉のカーテンによって日差しがほとんど当たらないので夏場でも涼しかったし、この場を包む自然の豊かな香りには気分を爽快にさせてくれる
加えて、ここには神聖な空気が満ち満ちている、と。今ならそう思える。
七年前、俺と楓香はこの場に不思議な力が宿っていることを信じさせられる体験をしたのだから。
俺達が祠の前に着くや否や、楓香は両手をパンパンと叩き、願いの言葉を口にする。
「白樹様、私をお金持ちにしてください!」
「なっ!?」
俺は楓香の行動に驚愕した。
その願いこそ違えど、同じようなことをした結果、過去の出来事は起きたのだ。
この祠には確かに超自然的な力がある。だからこそ、安易に用いて良いはずはない。
「何も起きない、か」
これと言って周囲に変化はなく、楓香はボソリと呟いた。
「何やってる!? もしまたあの時みたいなことになったらどうするんだ!?」
「そしたら、また蓮ちゃんが助けに来てくれるでしょ?」
屈託のない笑みを向けられ、俺は毒気を抜かれてしまう。
「だからと言って、意味もなくリスクのある行動を取るのはやめてくれよ……」
「それにさ、何も起きないとは思ったんだよ」
「どうしてだ?」
「……勘、かな」
「そんな曖昧な論拠で試したのか……」
「あはー」
俺は呆れかえりジロリと睨むと、楓香は無邪気に頬を緩めた。
そんな俺達のやり取りを見て、事情を知らない茉莉はキョトンとしていた。
次第に暗くなってきたということもあり、俺と楓香は茉莉に別れを告げて神社を後にした。
「そう言えば、今はどこに住んでるんだ?」
「蓮ちゃんのお家よりもう少し行ったところにあるアパートだよ」
「へぇ……母親と二人か?」
「いんや、一人。こっちには私だけ戻って来たから。お母さんは新しいお父さんと新婚生活を堪能しているので、邪魔者は退散してきたのです」
「そうだったのか……悪いな」
楓香の両親は既に離婚している。彼女はそれが原因で転校することになった。
当時の楓香は両親の不仲に酷く苦しんでいた。家にいることが耐えられず、可能な限りの時間をあの公園のベンチで過ごしていた。
それはきっと張り詰めた風船のようなものだっただろう。いつ割れてしまってもおかしくはなかった。
だからこそ、今こうして笑えていることは尊いものに思える。
「気にしないで。今はそんなに悪い関係じゃないんだよ。こっちで暮らす分のお金だって出して貰ってるし」
「そうか」
俺はそれ以上、何も言わなかった。楓香も黙ったまま悠々と歩いていた。
随分と夕日も沈んできた頃、俺の住む家が近づいていた。二階建ての一軒家だ。
と、そこで違う道から見覚えのある影が現れた。俺も通っていた近くの中学校の女子制服。
ポニーテールにした髪型や何となくの雰囲気から誰か判別できたので、声を掛ける。
「
彼女は僅かに肩を震わせて、こちらに振り返った後、ホッとした顔となる。
「何だ、兄貴か。怖いから急に後ろから話しかけないで」
「走って前に回り込めとでも言うのか」
「そしたら変質者と判断して蹴る」
「どうしようもないな」
彼女の名前は狩谷柚。俺の三つ下の妹だ。どうやら部活帰りらしい。
「あれ、そっちの人は……」
柚の視線は俺の後ろに向いていた。
「ああ、彼女は――」
柚は俺を介して楓香と一緒に何度か遊んだこともあった。当時はまだ小学一年生だった為、覚えているかは分からないが、せっかくなので彼女が戻ってきたことを伝えておこう。
そうして、俺も後ろへ振り向くと、どうしてか楓香は足を止め、愕然としていた。
「楓香?」
「あ、ごめん、ちょっとびっくりしちゃって。柚ちゃん、だよね。私のこと覚えてる?」
「えーと……」
柚は首を傾げていた。流石に七年も経てば、顔を見ただけではなかなか分からないだろう。
「ほら、俺と小学四年生の頃に良く一緒に遊んでた」
「いつもこんな顔してた」
楓香はわざわざ当時のしかめっ面を再現する。すると、それを見た柚は「あっ」と声を上げる。
「楓ちゃんだ! って、えっ、でも雰囲気違うくない……?」
楓香はにへらと相好を崩したかと思えば、柚をガバッと抱き締めた。
「え、え、えっ?」
突然、楓香の両腕の内に収められた柚が困惑するのはもちろんのことして、俺も何事かと驚く。
「久しぶり、会えて嬉しいよぅっ……」
楓香の目からは確かに涙が零れている。
俺も柚も状況が分からず、大人しくしているしかなかった。
程なくして、落ち着いた楓香は柚を解放する。
「その、あたしも会えて嬉しいですけど、泣くほど?」
照れた様子の柚の問いに、楓香は指で目を擦りながら答える。
「思わず感極まっちゃって。最近、何だか涙もろいんだ。年かなー」
「年を語るには半世紀ほど早い」
楓香は「えへへ」とはにかんでいた。
俺達は再び歩き始める。当然、柚も同じ方向なので一緒だ。
「そう言えば、柚ちゃん。前は蓮ちゃんのことお兄ちゃんって呼んでたのに、今は兄貴なんだね。蓮ちゃんの後ろにとことこ付いてきてたの可愛かったなぁ」
「あうっ……何年前の話をしてんです!」
柚は恥ずかしそうにして声を荒げる。
「それがさ、中学に入ったら急に兄貴なんて呼ぶようになって――痛ぇっ!?」
「余計なことを言えばただじゃおかない」
俺は柚からローキックを食らい、更にギロリと睨まれた。我が妹ながら恐ろしい。
というか、今日はやたらと蹴られる。俺の周囲には足癖が悪い奴が多いらしい。
「あははっ、今も仲良しなのは変わりないね」
「「どこがっ!?」」
俺と柚の反論が重なる。それを見て楓香は一層笑みを深くしていた。
そんな風なやり取りをしていると、すぐに家の前に到着した。
「ご両親はお元気?」
「元気元気。相変わらずだよ」
「……そっか。それはいいね。やっぱり家族は仲良しが一番だよ」
楓香の発言に、やはり両親のことを完全に割り切れてるわけではないんだろう、と俺は思った。
「送っていこうか?」
「いや、大丈夫。すぐ近くだから」
「分かった。それじゃまた明日」
「うん、また明日」
楓香は元気いっぱいに手を振りながら去っていった。路地を曲がるまで見送ってから、俺と柚は家の中に入った。
「おかえり、二人とも」
俺達は母親に出迎えられる。どうやら夕飯の準備をしているようだった。
「ただいま、母さん」
「ただいまー、お母さん」
俺と柚は洗面所で手洗いうがいの後、二階にあるそれぞれの自室へと入った。俺はサッと着替えてから台所に顔を出す。
「手伝うことはある?」
「じゃあテーブルの準備をしておいてくれる?」
「分かった」
俺が皿を並べたりお茶を入れたりしていると、柚も居間に姿を見せた。
「兄貴、まだ何かやってないことある?」
「こっちは大丈夫。母さんの方を手伝って」
「うい」
柚は台所に入るところで玄関の扉の開く音がした。父親だ。
「ただいま!」
居間に入ってきた父さんをそれぞれの声が迎える。
「おかえりなさい、あなた」
「おかえり、父さん」
「おかえりー」
父さんは鼻をスンスンと動かし、頬を綻ばせる。
「おぉ、良い匂いだ。今日は肉じゃがだな」
「ほらほら、早く手を洗ってきてください」
父さんが洗面所に行っている内にサクサクと用意を進めていく。
柚が料理を運んで、俺はご飯を茶碗に入れて、という風に。
父さんが着替えも終えて戻ってきた頃には全ての準備は完了していた。
四人とも席に着くと、それぞれが「いただきます」と口にして夕飯を食べ始める。
「今日も母さんの料理は世界一だなぁ」
「もう、あなたったら」
対面で良い年の両親がいちゃついていても、俺と柚は無反応に食べ進めていた。すっかり見慣れたものなので、もはや気にならなかった。
「蓮と柚は最近どうだ? 学校は楽しいか?」
「まあ、ぼちぼち」
「それなりに」
俺も柚も素っ気なく返す。何の実りもない返事だ。
「母さん、息子達が冷たいぞっ!?」
「はいはい。そういう年頃なんですよ」
父さんは母さんに泣きつくが、先程とは違って、そのあしらい方は適当だった。こういう時は変に構わない方がいい、という経験的手法だろう。
「別にわざわざ話すようなこともないんだよ」
俺がそう言うと、柚も箸と茶碗を持ちながら軽く頷いていた。
「ぬぐぐぐ……ま、まあ、勉強はちゃんとしておくんだぞ。かの文豪、太宰治がこんな言葉を残していてな――」
「学問なんて、覚えると同時に忘れてしまってもいいものなんだ。けれども、全部忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものだ。これだ。これが貴いのだ」
「それもう十回は聞いたよ、ボケてる?」
俺がすっかり覚えてしまった文言を暗唱し、柚はピシャっと手厳しく言う。
「母さん、息子達が凄く冷たいぞっ!?」
「はいはい。そういう年頃なんですよ」
父さんは母さんに再び泣きつくが、そのあしらい方は先程とまったく同じだった。
その後も父さんが積極的に話し、母さんは聞き役となりつつたまに俺や柚に問いを投げ、俺と柚も思いつくことがあればポツリと喋ってみたり。
四人ともが無言で静かになることもあるが、決して不愉快ではない。
そこにはただ穏やかな時間があった。
父さんは出版社で編集の仕事をしており、一般文芸や文学にとても詳しい。
その影響もあって、俺は読書好きだ。昔から良く父さんの本棚に置いてある本を読んでいた。
柚も基本は身体を動かす方が好きそうだが、それでも同世代の中では良く読む方だろう。
母さんは昔は学校給食の調理師兼栄養士をしていたらしいが、子供が出来てからは専業主婦をしている。
これといって食事に好き嫌いがないのは、きっと母さんが上手いこと食べさせてくれていたのだろう。
どんな食材でも美味しいと思える調理をしてくれていた。
柚は中学二年生で、バスケットボール部のレギュラーだ。学業も優秀で学校では人気者なのだとか。
兄妹仲も悪くない。別に日頃から進んで話すということもないが、お互いに適度な距離感で接することが出来ていると思う。
友達と話していると、兄妹とは喧嘩ばかりだという話を聞くことも多いので、きっと良好な方だろう。
照れくさいのでわざわざ口に出してこそ言わないが、俺はこの家族のいる空間が好きだ。
何というか、俺にとっての幸いの象徴であるように思える。
満ち足りている。だからこそ、俺は何の憂いもなく誰かの為に頑張ることが出来るのだ、と。
そう思う。
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