第2話 魔族の目的

日が暮れて夜になった頃、村に戻る事が出来た。

俺達はドンクの元に『臨海ゴケ』を持って行く。


・ドンク

「おぅ、キロスの護衛の、、、」


・アルド

「アルドだ、今回は苔の他にも相談したい事がある。話し合う時間をくれないか?」


・ドンク

「何か問題でも起きたのか?

とりあえず苔は預かる、通常の入り口から入った洞窟では少量の『臨海ゴケ』しか入手できなかったからな。」


キロスが魔族の持っていた鞄と共に『臨海ゴケ』をドンクに渡す。


・ドンク

「ん?これはギルドの鞄じゃないな、、、

他の冒険者から奪ったものか?

いや、それにしては採取方法が荒すぎるぞ?」


・アルド

「その事に関して話したいんだ。

詳しい事は後で話す、治療が終わったら酒場に来て欲しい。」


・ドンク

「分かった、では『臨海ゴケ』は確かに預かった。これ程の量を持ってきてくれるとは思わなかった。

これでしばらくは安心だ。

それじゃあ村の酒場で待っていてくれ。

このカードを出せば飯が食えるだろう、

先に好きな物でも食べてな」


ドンクは嬉しそうに『臨海ゴケ』を持って行く。


・アルド

「なあキロス、このカードって何だい?」


・キロス

「それは「ギルドカード」ですよ。

冒険者の証みたいなものです。

ほら、僕も持っていますよ。」


そう言ってカードを見せてくれる。

ドンクのカードとは色が違うようだ。

何かしらの格差があるのかな?


・キロス

「僕のは新人カードなのでドンクさんのとは色が違います。」


やはりそうか、まあとりあえず飯だ。

流石に腹が減って倒れそうだ。


・アルド

「酒場に行こうか、キロスもお腹が減っただろう?

一緒に飯にしよう。」


俺はドンクから預かったギルドカードをしまい酒場へと向かう。

キロスと共に今日の出来事を話しながら酒場に向う

、魔族たちは一体何を企んでいたんだ?


酒場にやってきた俺達。

そう言えばこの世界の料理はこれが初めてだ。

昨夜までは携帯食料だったし。

どんな料理があるのか解らないのでキロスに任せることにした。

俺が異世界の人間だと知っているキロスは快く承諾してくれて、料理を頼んでくれる。

そして暫くすると料理が運ばれてくる。


・アルド

「へぇ、小さな村とは思えない鮮度だ。

物流に関して学びたいくらいだよ。」


・キロス

「この村はオルドラ王国に近い場所なので新鮮な食糧を運びやすいんです。

その辺りもギルドの仕事に入ってましたよ、確か物流専門の部門があった筈です。

僕は冒険部門所属なので詳しく知りませんが、冒険者取り扱い、物流取引、金融機関と大まかに分かれていると聞きました。その3つの機関が集まって冒険者ギルドと名乗っているみたいですよ。

今は冒険者が沢山来てますし、商人の方もこの機を狙って集まって来てますからね。

物流のギルドが動いたのだと思います。」


・アルド

「ほぉ~、よく出来た組織だね。」


組織に感心する中、キロスと言う少年にも感心する。この歳でよく知っているな、、、


・ドンク

「お、いたいた。

キロスと、それにアルド、お待たせ。」


キロスと話しているとドンクがやってくる。

とりあえず取れるだけの苔は渡したから結果が知りたい。


・ドンク

「色々と話してぇが、まず注文させてくれ。」


・キロス

「既にドンクさんの分も注文してあるよ。

『リトルボアステーキ』3人前でしょ?」


・ドンク

「おぉ、そうかよく分かったな。」


・キロス

「ニュート兄ちゃんから聞いてたからね。

『師匠は肉を3人前食べる』ってさ。」


・ドンク

「そうかそうか、出来た弟子を持つと楽でいいな。

キロスにも教えていたとはな。

ニュートの奴、やはり出来る奴だ。」


そう言って笑うドンク。

ふむふむ、ドンクの弟子がニュートって子で、

そのニュートって子を慕っているのがキロスって事か、ニュートって子が異世界の人なのか?

もしそうなら一度会ってみたいもんだ。


・ドンク

「じゃあ話を進めよう。

この村で流行した病気だが、お前らが持ってきた苔のおかげで全ての住人を治療出来た。

本当にありがとう。

これでこれ以上感染することは無いだろう。

そして、これが余った薬だ。」


そう言うとドンクはテーブルに薬瓶を置く。

黄緑色の液体が入った瓶が6本ある。


・ドンク

「一応、村の貯蔵庫に予備として6本置いてある。

半数はお前さんにやろう、必要なら使えば良い。

あの病気の治療以外にも二日酔いに使えるからな。

数が出回らないからそれなりの高値で売れるぞ。」


そう言いながらドンクは笑う。

どうやら今回の病の流行はこれで一件落着みたいだな。


・ドンク

「アルドよ、これからどうするつもりだ?」


・アルド

「特に何も決めてないよ。

仲間が治ったのなら急ぐ必要もないだろうし、とりあえず故郷に帰る手掛かりを探すかな。」


・ドンク

「なんだ?迷子か?だったらウチのギルドに来な。いろいろと調べてやるぜ?

今回の活躍を報告すれば国から報酬も出る筈だ。」


ドンクの温かい申し出を素直に受け取ろうと思った。手掛かりもないんじゃ探しようがないしさ。

次元の穴をどう探すか、、、

光の渦の報告とかあればいいんだけど。


その後、キロスとドンクはギルドの話とニュートと言う人物の話しで盛り上がっていた。おれは一足先に用意してくれた宿に戻ることにした。


宿に帰ると今回の病で倒れた仲間がベッドに寝ている、ドンクのおかげで無事に治ってよかった。

キロスにもちゃんとお礼を言わなきゃな、、、

こうして、夜が深けていく、、、



~???視点~


海岸の洞窟、一室にて


・???

「折角集めた苔を奪われたらしいな。

更に何人もの同胞が姿を消したと聞く。」


・魔族

「申し訳ありません。

この世界の人間にやられたのか魔物にやられたのか、、、その情報すら入っていません。

倒された同胞の亡骸も痕跡すら見つかっておりません。戦闘の後はあるのですが、その場から消滅したとしか言えない状況です。」


・???

「消滅?この世界の人間どもはかなり危険だな。

早急に戻る必要がある、

何としても苔に代わるものを集めるのだ。

出来るだけ、人間に悟られない様にな。」


・魔族

「ハッ!」


魔族は部屋から出ていく。

思案する指揮官らしき魔族。

その姿は美しくも凛々しい。

女性の魔族だった。


・魔族指揮官

「同胞の命を守らねばならん。

一刻も早く元居た世界に帰らなければ、、、」


仲間思いな一面を持つ魔族。

頭を抱えつつ、問題解決に向けて動き出す。



~トリナ村~


・アルド

「、、、ぅぅぅ」


悪夢にうなされて目が覚めた。

嫌な夢を見たな。

周りを見るとみんな寝ている、、、


・アルド

「ふぅ、少し外の風にあたりに行くか、、、」


夜風は涼しい、、、

虫たちの声は聞こえない、夜空の月は雲に隠れている為暗い、俺は気ままに散歩することにした。

村の中は明かりもなく静まり返っている。

完全に夜中に目が覚めたようだ。

そのまま歩き村の貯蔵庫付近に来た時、どこからか人の声が聞こえた。


・???(怪しい影①)

「どうだ?開きそうか?」


・???(怪しい影②)

「黙ってろコウロウ!

くそう、ギルドの奴こんな難解な鍵をしやがって。

だが、盗賊ウイロウ様に掛かればこんな鍵、、、

30分で開けてやるぜ」


・コウロウ

「30分も掛かるのかよ!

まぁ仕方ねぇ、見張ってるから早くしろよ。」


・ウイロウ

「分かってるよ、黙って見張ってろ。」


こそこそやるには声がデカすぎじゃないか?

そんな事を考えつつ、盗賊の元に行こうとした。

すると反対側に人型の影が動くのが見えた。


・???(女性の声)

「こそこそやるには声がデカいんじゃないか?」


俺と全く同じ意見が飛んできた。

やっぱりそう思うよな?


・コウロウ

「誰だ?」


・???(女性の声)

「やかましい!静かにしろと言っているんだ。

大方盗みを働くつもりだろう?

だったら静かに迅速に、が鉄則だぞ?」


うん、俺もそう思う。

しかし誰だ?月が雲に隠れて顔が見えない。


・コウロウ

「くそ、ウイロウ来い。」


慌てるコウロウの元に鍵と格闘していたウイロウが加わる。


・ウイロウ

「なんだ?てめえも同業者か?

悪いが俺達の方が先に目を付けた獲物だ。

引かないのなら死んでもらうぞ?」


盗賊たちは武器を抜く。

1対2の状況に追い込まれた謎の人物、

加勢に入った方が良さそうだな。


・???(女性の声)

「やれやれ、はやりここの人間も野蛮なのだな。

仕方がない、これは正当防衛だ。

悪く思うなよ?」


・コウロウ

「なんだ?よく見りゃ女じゃないか?

よし、お前も戦利品として頂いて行こう。」


二人が謎の人物に襲い掛かる


・アルド

「手を貸そう、こっちは任せてくれ」


・???(女性の声)

「むっ!?

すまない、助かる」


短いやり取りでお互いの対戦相手を決める。

盗賊だけあってなかなか素早い敵だった。

、、、素早いだけだったが。


・コウロウ

「くっそ、覚えてろぉー」


去り際に捨て台詞を吐き捨てて逃亡するコウロウ。

ウイロウは謎の人物により倒されていた。

そんなウイロウを引きずりつつ逃亡。

追いかける必要もないと判断した。

何故なら、ウイロウのデカい声で数人の冒険者が起きて来ていたからだ。

夜中だが冒険者の行動は早い、恐らくすぐに捕まるだろう。


・???(女性の声)

「住人が目を覚ましてしまったか、、、

仕方ない、私も一旦引こう。」


茂みの中に消えていく謎の人物。

あ、お礼とか言ってないな、、、

ふと見ると何かが落ちていた。


・アルド

「ん?何か落ちてるな、、、

これはアクセサリー?

あいつらが言ってた通り女性の人なのか?

今なら間に合うか、、、追いかけよう。」


確か、あの人物は気配を消しながら歩いていた。

ならば走ればすぐに追いつくはずだ。

俺はアクセサリーを持って走り出す。

暫く進むと女性らしき姿があった。


・アルド

「あの、さっきはありがとう。

あとこれ落し物かな?」


・???(女性の声)

「む?先程加勢してくれた人間か?」


俺の声に気付き振り返る人物。

月が雲から顔を見せる。

それと同時に女性の顔も見える。


・アルド

「あ、、、、」


・???(女性の声)

「あ、、、」


お互いがフリーズする。

女性は魔族だったからだ。

だが俺はあまり気にしなかった。


・アルド

「このアクセサリー君のだよね?」


・魔族の女性

「私が、、、怖くはないのか?」


魔族の女性は警戒しながらも質問してくる。

なんだろう、悪い人には思えないから、、、


・アルド

「全ての魔族が悪いとは思ってないからね。

話せば分かり合える事も知ってるし、、、

君は村の貯蔵庫を守ってくれただろ?」


少し考えている女性、、、

恐る恐るアクセサリーを受け取ってくれた。


・アルド

「じゃあ俺は戻るから。」


無防備に背を向けて村の方に歩こうとした時、


・魔族の女性

「待て。」


呼び止められた。


・魔族の女性

「何も聞かないのか?

私があそこに居たのはあの盗賊たちと同じ目的だったのかもしれないぞ、見逃していいのか?」


・アルド

「君は盗賊を殺さなかっただろう?

何はともあれ結果的には守ってくれたじゃないか。

そんな人を裁けるほど俺は偉い人間じゃない。」


少しだけ、沈黙が流れる。


・魔族の女性

「フルーレティだ。」


俺の目を見て名乗るフルーレティ。


・アルド

「アルドだ、今回は助かったありがとう」


お礼はしっかりとしないとな。


・フルーレティ

「不思議な人間だ、私と普通に会話している。

ヴァレスの言った通りだ。

人間にもいろいろいるんだな。」


・アルド

「ヴァレスを知っているのか?」


・フルーレティ

「いや、その言葉そのままそっくり返そう。

ヴァレスを知っているのか?

まて、お前はこの世界の人間ではないのか?」


まさかヴァレスの名が出てくるとは思わなかった。

何かと縁があるなぁ~。

お陰でフルーレティと話す事が出来た。

お互いの話をすり合わせていく。


・フルーレティ

「そうか、、、同胞はお前が葬ったのか、、、」


・アルド

「一応、気絶させただけなんだけどさ。

それなりにダメージはあったと思う。

話を聞くために意識を刈り取ったら消えたんだ。

その辺りは何か知ってるか?」


・フルーレティ

「意識を経ったら消えた、、、

『戻りの紋章』が発動したのか?

私が作った紋章で、危険を察知したら転送する紋章を作ったのだ。

生憎エネルギーの核となるものが無くて途中で頓挫した物だったのだが、この世界に来て発動したのか、、、まさか苔が反応したのか?」


一人の世界に入るフルーレティ、話が見えない。


・フルーレティ

「実は、元の世界に戻る為に苔を集めていたんだ。この世界の苔には不思議な力がある事がわかった、そのエネルギーで元の世界戻る魔法陣を開発中でな。私の同胞には『戻りの紋章』を刻ませてある。

さらに、この世界に来た同胞には見本として苔を持たせてあった。

何かしらのきっかけで苔が核となり、紋章が発動したのであれば、元の世界に戻っている事になる。

つまり身体の消滅ではなく、転送による消失だったと考えれば自然だ。」


ちょっと小難しいからよく分からないが、、


・アルド

「元の世界に戻る何かがあると考えていいのか?」


・フルーレティ

「その通りだ。苔さえ集めれば可能性はある。」


暫く考える、、、


・アルド

「なぁ、協力しないか?

元の世界に戻る期間だけでもいいからさ。」


俺の申し出に戸惑うフルーレティ。

少し考えた後、手を差し伸べてきた。


・フルーレティ

「良いだろう、一時停戦とする。

元の世界に戻るまでは協力し合おう。

だが、中には人間を恨む者もいる。

その事だけは忘れないでくれ。」


ここにフルーレティとアルドの同名が結ばれた。

魔族と人間、争い合っていた種族が同じ目的のために手を取り合う。小規模ではあるが平和へと繋がる形がそこにはあった。

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