第124話



 ――というわけで、こうしてがんばっているんだが。


「コンセプトをまとめるならば、『いつも通りを、いつも以上に』。魔王ゼルスです」


「前向きな標語でよろしいかと。スポンサーを集めやすそうです」


「重畳。でも肝心の勇者があんまり集まってこないぞアリーシャたん。勇者を求めて求めて求めまくることで、俺は魔王らしくなれる! んだよな?」


「理屈の是非はどうあれ、そのていをとっておかなければ、魔王様は例の鎧を着込むことになるでしょう」


 そういうことだな。

 避けたい。

 是が非でも避けたい。


「アードランツめ……あんなに魔王っぽく振る舞っておきながら、何を考えてあんな。わざとか? 嫌がらせか?」


「純粋な敬意の表れかと。表し方がずいぶん独特でしたが」


「どうしてこうなるんだ……俺はただ、魔王っぽくなりたいだけなのに……!」


「魔王だから、ではないでしょうか……」


「くじけないぞ俺は。で? なにがいけないんだろうな?」


「まだ村2つめですから、なんとも言えません。うわさも広まりきっていないでしょう」


「そうか……そうだな。理想はアードランツみたいに、討伐隊を組織してもらうことだからな」


 そうなったら効率がいい。

 俺を待ち伏せしやすいようにチラシも配って、手は尽くしているはずだ。


「勇者への想いなら、誰にも負けない。どんな魔王にも……木陰で木製の聖剣を振り回す、幼き少年にも!」


「はい。その点においてはうそ偽りなく、恐れられ度でアードランツ様を上回る可能性は大かと」


「おお!」


「そもそも、魔王様は恐ろしい御方なのです。このような発言がバカバカしく思えるほどに」


「アリーシャたん……!」


「つまり、魔王らしさなど気にしないでください、とわたしは申し上げたいのですが」


 いやそれは。

 自分で動くべき魔王、とかアードランツにはつい言っちゃったけど。

 やっぱりうちの城にだってもっと来てほしいじゃんか、勇者。


「ユイルー的には~、勢い出しすぎって感じがしますう」


「ほほう?」


「我が主のぽさ・・は、よゆーの表れっていうか。ゼルス様なりのよゆー感を出すことができたら、勝手にでっかい大物だと思ってもらえるんじゃないかと~」


 一理ある。

 アードランツの部下の見立てだし、貴重な意見だな。


「いつも以上に理想の勇者を追い求めつつ、余裕な感じを出していく……基本方針はこれか。ふっ、見えてきたな……!」


「左様ですか。ではわたしは、今夜の宿をさがしてまいります」


「うむ。いや待てアリーシャたん。それってまたこの村で?」


「そのつもりです」


「どうなん? それってどうなん? ゆーて俺たち、侵略してるスタンスなわけだろ? 確かに勇者以外には興味のカケラもないけど、この村の宿屋の世話になるってそんな」


「前の村でも泊まったじゃないですか」


「泊まったなー、泊まれたなー。びっくりしたわ。人間のふところの深さステキ」


「ふところというか、なんというか……自称勇者的な存在に対する、この国の本音を目にしたような気はしましたね」


 ふむ?

 よくわからんが、ま、野宿せずにすむと言われたら、抗う術など魔王とて持たない。


「じゃあ、アリーシャにまかせよう……あと、夜まで自由にしてていいぞ」


「は」


「行くんだろ? 聞き込み」


「ええ。ありがとうございます。夕刻までには戻ります」


「水着の上になんか羽織って行けよー」


「この暑さなら、カゼを引く心配はないかと」


「ばかもん、村の男性陣をのきなみ悩殺して回るつもりか。そういうのは女魔王の領分だ、勇者志望者のやるこっちゃないぞ」


「そのような軟弱者ども、ガルマガルミアこれさえあればどうとでも」


 微妙に会話が噛み合ってないなあ……

 いやま、いいか。

 かわいい水着にゴッツい革ベルト、ばっちりヤバそうな長剣なんていう出で立ちのアリーシャを、そうそうじろじろ眺め回すやからもおるまい。

 むしろ剣と胸の谷間を同時に寄せてこられる男性諸君、なんというか、うむ、目のやり場をがんばってくれ。


 小走りに去っていくアリーシャの背中ごしに、俺は小さな村を見回した。

 勇者(っぽいもの)を1人吹っ飛ばしただけだが、一応は俺を遠巻きにして、こわごわとしてくれている村人たち。

 ……こんなところには、まあ、いないとは思うがな。


「鍛冶師カルザック、か……」


 今回の旅の、もうひとつの目的。

 俺のではなく、アリーシャの、だ。

 このあたりを治めるシストルマ王国に住んでいる、そこまではわかっているが……首都城下町にはいなかった。

 アードランツも知らないと言っていたが、さて。


「そろそろマロネのやつも働かせるかね……」


「ゼルス様ぁ~」


「なんだ? ユイルー」


 えっと~、と俺の前に回りこんでくる彼女は、相変わらず血色が悪い。

 パレオを着けてはいるものの、水着で陽の下に出て来るのが正解とは思えない雰囲気だ。

 むしろ、その上でこの笑顔。

 アンデッドとしても、けっこう力があるんじゃないのかな……?


「聞きたい質問があるんですけど~」


「セリフが丁寧なのか雑なのかわからんな……質問?」


「はい~。我が主にも何度か聞いたことあるんですけど、どうしても教えてくれないんですよぉ」


「ははは。アーくんはなー、仮に答えてくれたとしても、解読が難しそうだな」


「ゼルス様と我が主って、似てるとこあるかも~って思ったんです~。魔王っぽさはぜんぜん桁違いですけど」


「念押し風に現実見せるのはやめたまえ。で、どうした?」


「ゼルス様は、魔王っぽくなりたいんですよね~?」


「だから念を押すのやめて」


「どうして人間を殺さないんですか?」


 …………

 ほう……



**********



お読みくださり、ありがとうございます。


次は2/25、19時ごろの更新です。

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