第79話
「追放ってのは、パーティを……勇者パーティを、か?」
俺の言葉に、肯定、とテミティが返事した。
むにむにの手で器用にナイフフォークを操り、鶏の身を骨から外している。
……テーブルまでのリーチが足りなくて、前のめってるのが最高にかわいい。
あ~んしようとしたらガチギレされるけど。
「おまえほどの者が……って、前までなら言ってたかもなんだが。なんかまたぞろ、理由がしょ~もないんじゃないかという、こっちの勝手な疑惑がだな……」
「理由。そう。腑に落ちない。しょーもないかは知らぬが」
「どんな理由で追放されたんだ?」
「能力不足」
「……ほう?」
「先ほど、わからぬこと、とは……言ったが……、うまい」
途中でキッシュに気を取られた。
小さなほっぺをいっぱいにして、目元をにんまりさせている。
基本ステータスは淑女なのに、唐突にその、そーゆーその、そーゆーの。
反則だろ!
お父さんぜったいお嫁になんか出さないからな!
「誰がお父さんだ」
「心を読むな。……その話をしたくて、ここに戻ってきたのか?」
「肯定」
「俺を倒しに来たわけじゃ?」
「なかば否定」
倒せるわけがない、とすまし顔でテミティはワインをたしなむ。
ううむ……そう言われると、それはそれで……
「ゼルス様、チョー危なかったって聞いたけど?」
マロネ……おまえさっきからその『聞いたけど』って、誰から聞いてきてんだよ……?
「背後とったんでしょ? たぶん初だよ、やるじゃーんテミっち~」
「不意をついたのみ。攻撃は無効」
「無効?」
「あのような短剣……たとえ脳髄を
そ……そうかなあ。
無事ですんだとは思えんのだが。
なにより……
「あの戦いかたも、おまえの能力が高い証拠じゃないのか? なんでもできるようになったな、テミティ」
「おほめにあずかり、感謝の極み。……わからぬとは言ったが、おそらく、わたくしにはわかっている」
「言葉足らずなのはほんとにあいかわらずだな。なにがわかってるんだ?」
「あの勇者隊。おかしい」
ぐ、と上等なワインを飲み干し、テミティははっきりと言い切った。
「北方ラリアディ公国直属、第3勇者隊。なにかある」
「ふむ~……? 聞いたことない、っていうか珍しい感じだな? 勇者パーティをわざわざそんなふうに呼ぶのは」
「毛色が違う。他とはずいぶん」
「なるほど……?」
俺はマロネに目をやる。
彼女は首を横に振った。
食事もそこそこに、ひたすら茶色い酒をあおりながら。
「知らないですねえ。国名にはぼんやり聞き覚えが」
「そうか。まあしょうがない」
「調べますか~? 酔っぱらっててよければあ」
「なんで今行く話なんだ。てかその酒めっちゃ貴重なやつでは? ……俺のやつでは?」
聞いたことがあります、とアリーシャが口を挟んだ。
大きな川魚の塩焼きを、あいかわらずきれいに解体しながら。
「まさにパーティというよりは部隊かと、あの国の勇者隊は」
「どういうものなんだ?」
「いわゆる剣士や魔法使いはおります。ですが加えて、普通の兵士や衛士もまざった、1個小隊ほどの人数で動くのです。勇者というシステムを、かなり本格的かつ独自に運用している国かと」
「ほー。……って、そりゃ軍隊とはどう違うんだ?」
「冒険者としての側面と、軍隊としての側面をあわせもっております。それゆえ行動に制限が少なく、魔王がいれば戦う、災害が起きれば
「……ふむ」
場合によっては、多くの命を失いかねない組織だな。
そのために、対個体能力の高い勇者を含めているんだろうが……
納得のいく部分と、いかない部分とあるな。
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