第80話
「そういうのには、テミティは最適の部類じゃないのか?」
赤く
う~む、絶妙な焼き加減。
……ではあるが、絵になりすぎるからレアはやめろと、厨房に言ってあるというのに。マロネだな。ったく。うまいけど。
「単独で、いろんな働きができるだろう。人数がいるなら不得手もカバーしてもらいやすいだろうし、重宝されるんじゃないのか?」
「強く肯定」
「ははは、さすがの自信家だ」
「自ら公国に赴いた。自信無しではやらない」
「そりゃそうだな……で、それならばだ。追放になるなど、ありえないわけだが?」
テミティがうなずく。
その切れ長の目に、浅くない悔恨の色が宿るのを、確かに見た気がした。
「結論から言う。あの勇者隊、調べてほしい。魔王様に」
「ふむ……?」
「わたくしは魔王様に生かされた。死を賭した攻撃のつもりだった。成らなかったが……わたくしは評価されたと考える。たとえ魔王様ゆえの情けだとしても」
「テミティが死なないほうがいいと考えたから、そうしたまでだぞ。ドワーフがそれを情けと呼ぶなら、そうなのかもしれんがな」
うそじゃない。
テミティは戦士として優秀すぎる。
あんなハンパなシチュエーションで喪うわけにはいかん。つーかあのミスリル鎧の中から転移するやつどうやったんだマジで。
「第3勇者隊は、女剣士の隊」
止まっていたフォークを再び動かしながら、テミティが続けた。
「正規兵に加え、冒険者資格を持つ手練れを、常時数名雇っている。わたくしもその1人だった」
「女剣士がリーダー、ってことか?」
「左様」
「そりゃまたカッコいいな。強いのか?」
「腕は、肯定」
「ほー……。腕、は?」
「魔王様」
ふ、とテミティが視線をやわらげる。
笑ってるのか。
珍しいな……、……近くで見よ。
「あの剣士を調べれば、知れるかもしれない……真の勇者たるを」
「! 本当か!?」
「結果、失望するかもしれないが」
「ほう失望! ……ってどういうことだ?」
「そう感じたまで。もしもあの女剣士が、魔王様の想う勇者たりえる手合いだった場合……追放されたわたくしの落ち度。今いちど、ここで鍛え直していただきたい」
「ふむ?」
「近づくな。それ以上」
くっ。
なついてくれているようでいて、独特の距離感を崩さない……!
ふふふ。アリーシャにもない魅力。実にイイ。
とはいえ。
そういう話か。
失望ね……
「つまり今テミティは、自分の落ち度による……その、能力不足だとかいう理由での追放、それが妥当だと思ってはいないわけだ?」
「肯定」
「はは、なるほどな。それはわかった。わかったが~……ん~」
この俺に、どんな得があるのかな?
真の勇者どうこうには興味があるが、今は猜疑心も同時にわいてくるのだ。
テミティを追放するほどの者なら、さぞ傑出した実力を持っている……
わけではなく、単に見る目のない勇者
そうは動かないぞ?
「受けていただけるならば」
「ん?」
「おもしろき余興をご覧に入れる」
「ほう、余興。なんだろ。腹踊りかな? 見たい」
「龍魔王。先ほどの……ラグラドヴァリエ」
こと、とグラスをテーブルに置いて、テミティが目つきを鋭くした。
「倒そう。あれを。わたくしが」
「……うん? ……ラグラドヴァリエを?」
「うむ」
「ドラゴン序列1位を? おまえが?」
「うむ」
「……1人で?」
「場合によっては」
なるほど。
テミティちゃん。
「学習しろよ!?」
「むう」
「おまえは1人で! っていうか前衛ガードポジションは1人で戦うようなアレじゃないの! そりゃたまには例外もいるけど、おまえはその例外とは逆方向の例外なの! カッチカチ! 守備キチ●イ! それを活かす方向で考えろよ!?」
「なればこそ。余興」
「……んむ……!?」
「魔王様のお言葉にかけらの
……むむ……
テミティは、本当におもしろ半分だけで、こんなことを言う子じゃない。
俺と戦ったときの、あの転移のような……
隠し技がまだ、なにかあるのか?
だとしても。
「小手先が通用する相手じゃないぞ……?」
「承知」
「俺への奇襲は死を賭したと言ってたが、まさか同じ覚悟じゃあるまいな?」
「近い。だが死なぬよ。わたくしの目標は、あくまで魔王ゼルス」
そうか。
そこがわかっているなら……
「よかろう」
に、と俺は笑った。
ジョッキを持った手を伸ばし、テミティのグラスと縁を合わせる。
久しぶりに、お出かけしてみるとするか。
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お読みくださり、ありがとうございます。
次は5/20、19時ごろの更新です。
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