第11話
俺、魔王ゼルスが支配していると言ってもいい地域は、人間が「普通くらい」と感じる広さの国の、まぁたぶん半分くらいだ。
それでも魔王の中では、まずまず影響力のあるほう、といえるかな。
広さのわりに、領土そのものは平和だ。
その理由は、位置的に大陸の端にあって、よそとの接点が少ないことがひとつ。
自我のある――つまり、俺の言うことを理解して聞いてくれるタイプの魔族はそれなりに住んでいるが、野生的な、いわゆるモンスターの数は少なく、人間との摩擦が起きづらいことがひとつ。
そしてなにより、偉大な統治者たるこの俺様の存在。
手腕。
カリスマ。
アイドル的魅力。
魔王グッズ販売による存在の周知。……は、冗談として。いやマロネがマジでやろうとしたことあったが、さすがに魔王恥じらいの心地。
ともあれ、それらのことが混ざり合い、混沌としつつも安定し、見事なまでにその、なんというか、えー……
何の話をしたいかというと。
目的の勇者パーティに接触するためには、領地からかなり遠くまで来なければならなかった、ということだ。
「なかなか栄えた町、だな?」
人混みでごった返す大通りを眺めて、俺はかたわらのアリーシャに確かめた。
疑問形なのは、栄えている状態に対する己の感覚に自信がないからだが……
「はい。人の町の中でも、かなりのものです」
アリーシャの答えに、ほっと吐息する。
「よかった……」
「よかった? ですか」
「ああ。この町のにぎわいは、我が城下町に比べると数10倍にもなるだろう」
「まあ、人間と魔族では、数が違いますから」
「もしもアリーシャに、『え? この程度の町、大したことないっスよ?』とか……あっさり言われでもしたら」
「言いません」
「『えっ? なんスか? 魔王様おどろいちゃってんスか?』とか、チクッとからかわれでもしたら」
「からかいません」
「『ひょっとして魔王様ビビッってんスか? 魔王ビビってる? マジスかマジスか』とか、ニヤニヤ半笑いされでもしたら!」
「半笑いません」
「そこはかとなく、傷ついちゃうところだった。言わないでくれてありがとう」
「まさかとは思いますが、さっきから
「ごめんなさい。口が回りすぎた。受け止めて魔王の反省」
語尾にスがつくアリーシャだったら、たぶん弟子にしてないしな。
でも半笑いの彼女はいずれ見てみたい気もする。
「ところで、その、どうだ? 俺は不自然じゃないか? カッコとか」
「はい」
「ちゃんと求職中の冒険者に見えるかな?」
「求職中かどうかはともかく、ただ者でないようには見えます」
そうか、といささか気をよくする。
支援職らしい服装、とマロネに頼んでおいたものの、普段の服装からするとゆったりしすぎていて落ち着かないのだ。
特にこの、外衣の神官服だかなんだかいうやつ……
外から見るともっさりしているのに、着ている中はわりとスッカスカだ。
というか、支援職といえども他になかったのか?
こちとら魔王だぞ。
神官ておまえ。
「まあ、神官と魔法使いの違いも、今ひとつよくわかっていないといえばそうだが……」
「そうなのですか」
「それなりに宗教とかも勉強したんだがな。でも結局、使ってくるスキルでしか区別しとらんなあ」
「そこがいちばんわかりやすいといえば、そうかもしれませんが」
「だろ? それにな、ひとつ知っているぞ」
「はい」
「魔法使いは、魔の法を扱うくせをして……」
なんともけしからんことに……
「魔王を奉じているわけではない!」
「おっしゃる通りです」
「おかしかないか? おかしかないかヒューマン!? 魔法ぞ? 魔っぽい法術ぞ?」
「この世の根源たる不可思議な力を、最初に魔力と名付けた者に文句を言ってください」
それはまあそうだな。
「で、だ。俺はこれからどうすればいいんだ?」
「はい。それは」
「見たところ、食べ物屋が多い様子だが。食べればいいのか? お、アレうまそうだぞ」
「違います。食べてはいけないわけではないですが」
「アリーシャ食べるか? 飲むか?」
「食べません。飲みません。魔王様、お話を」
「いかんな~、ツッコミ役がいないとひたすらボケていられる」
「わたしは先ほどからツッコんでおります、魔王様」
はっはっはっ。
修行が足りんぞ、アリーシャよ。
そんなツッコミでは、生まれたてのガーゴイル(すごい無口)すらボケをやめんだろう。
マロネのアホかオメーを思い出すがいい。
アレだよ、アレ。
アリーシャにそんなこと言われたら、泣いて
「正直……」
ちら、と道の向こうに目をやりながら、アリーシャが普段よりさらに声を小さくした。
「魔王様が、なぜ支援職の装いにこだわられるのか、はかりかねるところもあったのですが」
「説明はしただろ?」
「はい。ですが、そんなことが本当にあるものとは」
「半信半疑だったか、しょうがないさ。魔族はアホだが、人間もバカだ」
アホとバカという言い回しを作ったぶん、人間にアドバンテージがあることは否定しない。
「そもそもまず、ダクテム様が支援職だったということからして、わたしはいまだに驚いております」
「はは。槍使いだとでも思っていたか?」
「はい」
「俺とダクテムの戦いを見ててくれたものな、アリーシャは」
「あれほどの立ち回り、てっきり本職だとばかり。思い返すだに感服いたします」
ふふふ。
弟子をほめられると、気分がいいなあ!
ほめてくれたのも弟子だけど。
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次は11/19、21時ごろの更新です。
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