第12話



「槍の扱いもさることながら……っくしゅん」


 くしゃみをした俺に、アリーシャがさっとハンカチを差し出してくれる。

 ありがとう。

 人の町は好きだが、ホコリっぽいのが玉にきずだな。


「ダクテムの支援スキルの腕は、落ちていなかった。どころか、実力の向上すら感じられた」


 さっきも言ったが……

 俺を倒しに来てくれた、かのダクテムの本職は支援職。

 決して槍術士や戦士ではない。


 パーティを追放され、1人で戦うしかなくなり、俺への対抗手段として槍を選び、技を鍛えたのだろう。

 追放されてからの、長いとは言えない期間で……

 つくづく、惚れ惚れするほどの弟子だ。


「ダクテムを不要と断じたならば、そのパーティが求める可能性のあるメンバーは、2通りと推察できる」


「それは?」


「ひとつは、より強い支援職者。もうひとつは、より付加価値のある支援職者だ」


 ダクテムの能力に疑いの余地はない。

 だが、そもそもの話、ダクテムに力を授けたのはこの俺だ・・・・

 俺の物差しでダクテム当人を計り直しても、意味がないというもの。


「要するに、だ」


 服の中でぼりぼり腹をかきながら、俺は大通りに向き直った。

 腹かきやすいのはいいな、この服。


「俺は狙いのパーティに接触したい」


「はい」


「だが正面から訪ねていって、『前までいたダクテムって人の何が不満でした?』とか、『ご迷惑おかけしたようでしたらすみません、後学のためにアンケートを』とかアピールしたところで、受け入れられるとは思えん」


「仮に普通の人間がそれをやったとしても、怪しすぎますね」


「となれば、相手側に選ばれるのが……いいや、選ばせる・・・・のが、いちばんいい。くだんの勇者パーティの求人が、さっき言った2通りのどちらかなら」


 俺は両手を腰に当て、ぐいっと胸を張ってた。


「俺ならば、その両方を兼ねる。いやさ兼ねてみせる!」


「それはそうでしょうが……支援職を必要としないパーティである可能性は?」


「はっはっはっ、それはー……。えっ? そんなパターンあるの?」


「えっ? いえ、すみません、わかりません。どうなのでしょう」


 考えたこともなかった……

 え、だって、だいたいアレじゃん。いるじゃん。

 味方バフったり、こっちデバフったりしてくるやつ。うざいじゃん。


 支援職がいらない……くらい、アタッカーが強い勇者パーティ、ってことか?

 なにそれこっわ。


俺の領地こっち来ないでほしいなあ、そーゆーのは……」


『違うと思われます~』


「む。そうなのか? マロネ」


 俺とアリーシャの耳元でだけ、マロネのぽわぽわした声がする。

 遠く本拠地の留守を預かってくれているので、本人はここにはいない。

 ただ魔力が繋がる範囲なら、見てくれているし聞いてくれているのだ……


 本人が寝てたりしなければな!

 あとおやつ食べてるときもほぼ反応しやがらねえ。

 入浴中は鼻歌だけムダに聞こえてきたりするぞ。

 あいつほんとに俺の右腕なの?


「まあそれはともかく」


『こっちが何も言ってないのにともかくとか言われたってことは、ゼルス様がマロネについて何か失礼なことを考えてたってことですねえ?』


「論理的に心を読むな。で、何かわかったのか?」


『対象のパーティは、ギルドに支援職冒険者の募集依頼をかけてます。アリーシャの言うようなタイプではないですね』


「ふむ」


 ダクテムは、解雇されたのが半年ほど前と言っていた。

 このタイミングで募集をかけている……?

 ということは。


「俺の予想が正しそうだな。やはり、ダクテム以上の支援系メンバーをさがしているんだろう」


「もしくは、ひとたび不要として切り捨てたものの、考え直した可能性もあるのでは」


「ふむ? 1回はいらんと思ったが、いない状態でやってみると、やっぱりいると思った……? もしそうだとすれば……」


「はい」


「おっちょこちょいなパーティだなあ」


「……おかわいらしい感想ですね、魔王様」


 そう?

 ほめられてる?


『ほめられてはないんじゃないかなって、マロネ思います』


「何のとっかかりもないのに心を読むな! ……しかしまあ、ならば予定に変更はないな」


『そですねー。お気張りやすゼルス様』


「まかせろ。この魔王のカリスマ性、とくと見せつけてくれるわ! ゆくぞアリーシャよ!」


 はい、とうなずくアリーシャを連れ、道向こうの広場へと進む。

 言うまでもないことであるが……

 闇の眷属をとりまとめる、この魔王に手抜かりなどない。


 今日、この時間、この場所で、『ステータス登録会』が行われること。

 それはすでに、調べてきているのだよ!

 アリーシャが。


「なあなあアリーシャ、なあなあなあ」


「本当に、威厳を保つのが苦手なお方ですね……」


「前にも言ったけど、俺ステータス登録会って初めてなんだ。初体験の魔王。初魔王」


「おっしゃってましたね。というかここからは、あまり魔王と口に出されないほうが」


「どんなかな? どんなかな登録会? 俺どうしてればいい?」


「前のときにご説明いたしましたが」


「いざ目の前にするとなんかドキドキしてきたんだよ! 復習も兼ねて、もう1回頼む」


「おかわいらしいですね」


「! 今度はほめられただろ! なあマロネ!」


『♪ふふんふんふふーーーん』


 風呂入ってんじゃねえよ真っ昼間から。



**********



お読みくださり、ありがとうございます。


次は11/20、7時ごろの更新です。

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