第10話
「わたしにお供させていただけませんか」
アリーシャが……?
俺について、勇者パーティにもぐりこもうというのか?
「いや……それは。おいおい」
「腕前が不足でしょうか?」
「そういうことではなく、今はアレだぞ、勇者を……人間をだまくらかすという話だぞ? 人間のおまえを、そこに連れていくのは……」
「化けたり隠したりする必要がない分、楽に動けると思います」
「……アリーシャよ。おまえがここへ来てくれたとき、話したことでもあるが……」
「はい」
「我々に情を持ってくれるというなら、それはありがたい。だが俺たちは決して、人間への情を忘れさせようとして、おまえに修行をつけているわけじゃない。覚えているな?」
「もちろんです。重々、承知しております」
そうか……
まあ、今まで見てきた人間の中でも、アリーシャは特に頭のいい子だ。
きっと思うところもあるのだろう、
と、
俺が深く考えを巡らせているときにおいこらマロネ。
「なに言ってんの? あんた」
「マロネ様……」
「困るんだよねー、うぬぼれられちゃさあ? アリーシャあ」
至近距離でアリーシャをにらみつけながら、マロネが低い声でうなった。
体は小さい。
アリーシャより頭ひとつぶん以上背が低い。
しかしマロネは、いざその気になったなら、上級妖精の群れを指先ひとつで意のままに操るほどの力を持つ魔族だ。
闇のオーラが立ちのぼる。
すさまじい迫力。魔王から見てもおそろしい……!
髪まだちょうちょ結びなのに。
「言い出したらきかないゼルス様だから、お止めすることはもう考えてないけど。ただでさえトリッキーな状況になる……フツーにしててもヤバいかもしんないんだよ?」
「はい」
「あんたは力もまだまだハンパ。人の町には魔族より詳しいだろうけど、相手が勇者パーティとなると勝手がわからないのは同じでしょ? 特別扱いするほどじゃない。小娘は小娘らしく、ここでお留守番してなさい」
「今まで、魔王城ですごさせていただいた時間の分だけでも、返しがたい大恩を受けたとわたしは考えています」
「え?」
「お役に立てなかったり、足を引っ張ったりしそうになれば、どうかすぐに見捨ててください」
「……!」
「わたしは運良く、魔王様に見出していただけただけの、ただの女剣士です」
「そ……」
「特別扱いなんてとんでもありません。この命をかけて臨む覚悟で――」
「だめっ!」
がばっ、とマロネがアリーシャに抱きついた。
顔がちょうど、胸のあたりにきてしまう。
かわいい絵面ではあるな。
「アリーシャだめっ! そんなこと言っちゃだめっ!」
「マロネ様……?」
「命とかそんな、だめっ! やだっ! マロネやだやだっ!」
「うぬぼれるなと、先ほど」
「危ない目にあってほしくないのーっ! だってアリーシャたんまだこんなちっちゃいのに! アリーシャたんちょーかわいい! アリーシャたん好き!」
「マロネ様……わたしも好きです」
「アリーシャたーん!!」
「マロネ様」
抱き合う2人を眺めつつ、俺は大きなため息をついた。
「説得されてどうする……ちょろいな闇の大精霊」
「ゼルス様っ! アリーシャのことちゃんと守ってくれなきゃ、ゆるしませんからね!?」
「いやおいまて、連れてく方向なのか? 反対は反対だろおまえ」
「行きたいと言うからにはなるべく行かせてあげたい、そう思うのもいじらしい母心なのです」
「山ほどツッコみたいところを1個だけにしとくが、おまえはどう見ても年の離れた妹だからな。おまえが妹だ。おまえのほうが」
「に、2回も3回も! キーッ!」
いいのか? とアリーシャに目で問いかける。
彼女はすぐに、はっきりとうなずいてくれた。
迷いのない顔だな……
「確かに、ついて来てくれたほうが、俺としては助かる。人間社会の世俗やルールについちゃ、随時把握につとめてはいるものの、知らないことのほうがきっと多いだろうしな」
「お役に立てるよう、努力します」
「ああ。……だが」
「はい」
「……いや。なんでもない」
マロネの言う通り、人間だからといって……いいや、だからこその危険もあるはずだ。
だが、それがわからないアリーシャではないな。
こんな、マロネの
しびれさせてくれる……
これだから人間というやつは。
「マロネ。俺がいないあいだにダクテムが目を覚ましたとしても、うまくごまかしてくれ。決して気取られるな」
「仰せのままに」
「俺も気合いを入れねばな。即座にばれてその場で討伐されてしまわないように」
空のグラスに酒を注ごうとしたアリーシャに、俺は首を横に振った。
大事なときには、酒は断つ。
「まずは、その勇者パーティのことを、調べられる限り調べ上げてくれ」
**********
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次は11/19、19時ごろの更新です。
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