第114話 アンデッドと対峙した 1


「潰す?今あなた、私の完璧な計画を潰すと言ったんですか?はっ、バカも休み休みに言いなさい!たまたま私のマギ・イモータルウォーリア一体を倒せた程度で何を勘違いしているのですか!」


「バカなことを言っているのはお前の方だろう、死霊術師。お前達は死霊術という強力な魔法を使う代償として、アンデッドの操作に大量の魔力と精神力を消費している間、他の魔法を使う余裕などないはずだ。さっきの魔法弾には驚かされたが、肝心のアンデッドが拘束されて動けない以上、打てる手はもう無いことはお前も分かっているはずだ」


 ライネさんを始めとした大樹界会議のメンバーが脱出した議場の中で、俺の宣言に応じた魔王軍の死霊術師シャクラの言葉にリリーシャが現実を突きつける。

 だが、それを聞いてもなお、シャクラの青白い顔からは余裕の色が消えていなかった。


「クク、クハハハハ!あなた今、拘束と仰いましたか?確かに、魔力のほとんどをアンデッドの支配に使用しているという死霊術師の原則において、この私もまた例外ではないことは認めましょう。ですが、たかだか身動きができない程度で、数千に及ぶ素体の中から厳選して作り上げたマギ・イモータルウォーリアを無力化できたと思われるのは心外ですね!」


 キキキキキキキン


 嘲りの言葉を放ったシャクラが銅製の杖を振るった瞬間に起きた、連続で何かを弾くような硬質音。

 その原因が、フルプレートのあちこちから鋭い刃を生やしたドワーフと、周囲の床や調度品をカマイタチでずたずたにするほどのつむじ風を発生させたエルフがリリーシャの鋼糸を断ち切る音だと気づいたのは、二体のアンデッドが体の自由を取り戻した光景を見た後のことだった。


「クハハ、これまでのアンデッドの弱点を克服するために、私の秘術の限りを尽くして作り上げたマギ・イモータルウォーリアに死角はありませんよ。このような身体拘束はもちろん、あらゆる事態に対応できるように素体の戦闘経験を利用した術式が組まれているのでね。ですが――」


 まるでゴミを見るかのようなシャクラの視線。

 その先にあったのは、ラキアに核を撃ち抜かれて停止した獣人のアンデッドに向けれらていた。


「まさか魔力感知が通用しない、単純な技量のみでの超長距離狙撃などという手があったとは、さすがの私も脱帽です。こんなことならもう少し防御力に優れた素体を選ぶべきだったと思わないでもありませんが、この経験はぜひ次の素体に生かすとしましょう――あなた方の死体でね!!」


 ビュウウウオオオオォウウ!!


 その瞬間、室内であることを忘れそうなほどの強風が議場内に吹き荒れた。

 その発生源はもう確認するまでもない。自分が起こした風魔法で空中へと飛び上がったエルフのアンデッド。俺達の間合いから遠く離れると、自分の体の周りに緑色に輝く魔法の矢を並べ始めた。

 当然戦いに慣れた者なら、そんな派手な動きをすれば仲間から目を逸らさせる陽動だと考えて、もう一方のアンデッドにも目を配るのは最低限の心得だろう。

 だが、そんな俺の思考を嘲笑うかのようにドワーフのアンデッドは一歩も動かず、代わりにシャクラの高笑いが俺の耳に届いた。


「クハハハハ!数の上では互角などと、いかにも弱者が考えそうなことです。これらマギ・イモータルウォーリアは試作型ということで、特に多対一の戦闘を主眼に置いて素体を選んだのですよ。つまり、私の命令による完璧な連携は無敵ではありますが、個々の能力を最大限発揮しようとしたら、むしろ周囲の味方を巻き添えにしてしまうのです。すでに試作型一体が破壊されている以上、こんなつまらないところでこれ以上の損失は許容できませんからね」


 自己陶酔を隠そうともしないシャクラの演説。

 だが、狂信にしか聞こえないその言葉も、自慢のアンデッドへの絶対の信頼が為せる業なのだろう。


「ああ、もちろんあなた方に独りで戦えと言うつもりはありませんよ。むしろ二人でかかって来ていただけた方が、戦闘データを収集する上では有り難いくらいです。さあ、どこからでも、どんな方法でも、私を含めた誰を狙っても構いません、その全てを完膚なきまでに叩き潰して差し上げましょう!」


 そのシャクラの声を契機に、宙に浮いたままのエルフのアンデッドが巻き起こす風がさらに激しくなる。それに対抗しようと赤竜棍を握る手を強めたその時、俺の進路を遮る形で無手のリリーシャが前に進み出た。


「……タケト、ここは私に任せてもらおうか」


「リリーシャ?」


 警戒を緩めないように俺に背中を見せたまま、右目だけが見える所まで振り向いたリリーシャ。


「あのアンデッドの素体、『緑風のルークク』はクロハ一族の先代頭領を討った戦士だ――勘違いするなよ?戦い自体は尋常なものだったし、先代を討ったルーククの実力は本物、むしろ敬意を払うべきものだと思っている。だからこそ、あのような無残な姿と、見る影もないほどの劣化した戦いを見せられては、いくら私でも思うところがあるのでな、今度は、先代の後を継いだ私が冥土に送ってやる番だろう」


 その言葉を聞いた俺は何も言えなかった。

 だが、俺が何も言えなかったのはリリーシャの言葉に説得されたからじゃない。

 背中を見せているその顔からわずかに覗いた右目、そこにあったのは、相手の抵抗や思いなど一顧だにしない、標的を一方的に殺し尽くす暗殺者の目だった。


「安心しろ、あまり時間をかけるつもりはない」


「……わかった。だけど、時間がかかりすぎたり、不利になったと俺が判断したら、勝手に加勢するからな」


「まあ見ていろ」


 時間をかけるつもりも、ましてや不利な状況になるつもりも毛頭ない。

 暗にそう言い切ったリリーシャは、今度こそクロハ一族の先代以来の因縁だというエルフの戦士だったモノを両の目で睨みつけながら、その殺気をエルフのアンデッドの方へと向けた。


「そんな気遣いが無用だったとすぐに思うようになる」






「あなたのことは知っていますよ、クロハ一族の頭領。魔王軍を追放されたと聞いていましたが、まさか人族の下僕に成り下がっていたとはね。私のマギ・イモータルウォーリアの戦闘データが取れる上に、人族に寝返った裏切り者の始末までできるとは、これぞまさに一石二鳥というものです。さあ行きなさい『ルークク』!」


 主であるシャクラの命令によって、空中で静止した状態から右回りに飛行し始めたエルフのアンデッド。

 自身の周囲を回っていた風魔法の矢を三本それぞれの指の間に挟み込むと、弓を引いたかと思った次の瞬間には視認できるぎりぎりの速さで同時射出した。

 それに対するリリーシャの動きは、だらりと下げた両腕を振り上げただけ。

 しかし――


 ヒュパパパン!


 エルフのアンデッドの攻撃が視認できないほどの速さなら、リリーシャの攻撃は抜く手を見せない疾さ。

 その手の中にあった瞬間すら見せなかったリリーシャの放った三本のナイフが見事に同数の風魔法の矢を弾き飛ばし、そのままの勢いでエルフのアンデッドの体へ襲い掛かった、ように見えた。

 光の反射で察知されないように黒く艶消しされたナイフが不健康極まりないエルフのアンデッドの肌へ突き立とうかと思った寸前、それまで直進していたナイフは突如緩やかな弧を描きながら方向転換し、そのまま議場の木製の壁へと突き立った。


「おやおや、クロハ一族の頭領とあろうものが、宿敵の能力も忘れてしまったのですか?風魔法で近接攻撃を事実上無効化できる『ルークク』にとって、最も警戒すべきは矢や魔法といった遠距離攻撃。その弱点を克服するために開発されたのが、強い魔力を帯びた風の障壁で物理、魔法に関わらずあらゆる遠距離攻撃を逸らす『魔風の外套』。そのような軽い攻撃では『ルークク』の肌を掠らせることすらできませんよ」


「……だろうな」


「クハハハハ!実力の差を肌身で感じて、ようやく思い知りましたか!元々ただのダークエルフであるあなたと、ハイエルフの血統を持つ『ルークク』では、魔力量において圧倒的な差があるのです。加えて、この私の手によってさらに魔力の貯蔵量を増やしてあるのですよ。敵に近寄らねば実力の半分も発揮できないあなたごときが歯向かっていい相手ではないのです!」


「……間抜けが。生前のルーククなら、私を目の前にして自分の能力をひけらかすようなヘマはしなかったぞ」


 シャクラより近くにいるはずの俺ですら完全には聞き取れなかったほど、囁くような小声のリリーシャ。

 当然、その深い怒りが込められている意志が、安全な距離でエルフのアンデッドを操っている死霊術師に届くこともなかった。


「は?なんですって?……まあいいでしょう。今度はナイフで撃ち落とせない数の攻撃を加えればいいだけのことです。さあ、やってしまいなさいルークク!」


 勝利を疑いもしないシャクラの声はエルフのアンデッドの耳に命令となって届き、両腕を下げたままのリリーシャに向けてさらなる攻撃に移ろうとして――失敗した。


「どうしたのです!私の命令が聞こえなかったのですか!早くあの邪魔者を始末しなさ――腕が、動かない!?」


 そう自らが支配するアンデッドへもう一度命令を飛ばそうとリリーシャを指差そうとしたシャクラ。

 だが、動かそうとした杖を持っていない方の死霊術師の左腕は、上げるどころか指差すことすらできない。

 不審に思ったシャクラがそちらへ視線をやると、腕だけでなく全身にキラキラした細い何か――リリーシャが仕掛けた鋼糸が巻きついて、エルフのアンデッドだけでなくシャクラの体の自由を完全に奪っていた。


「バカな!?私への攻撃はともかく、糸のような軽い物が『魔風の外套』を纏った『ルークク』に触れられるはずがない!」


「そうだな。だが、糸だけでは軽すぎるというのなら、その先端に重りを付けてやればいい、それだけのことだ――そう、壁に突き立つ鋭い刃が有ればなおいいな」


「ま、まさか、あのナイフですか!?」


 驚愕するシャクラに対して、無言という、これ以上ない肯定の返事を送るリリーシャ。


「次は魔法による命令を伝える隙など与えん――これで終わりだ」


 そう呟いたリリーシャの放つ強力な貫通力を持つ投げナイフが、今度こそエルフのアンデッドの核がある心臓へと飛翔した。


 その瞳の奥にある必殺の意志を感じ取ったらしいシャクラの顔が一瞬引きつったが、支配するアンデッド共々完全拘束という絶体絶命の状態に陥ってもなお、それでも死霊術師の高笑いは止まらなかった。


「クハハ、クハハハハハハハハハ!!あなた、先ほどこの私に向かって『自分の能力をひけらかすようなヘマはしない』と仰いましたね。その言葉、そっくりそのままお返ししますよ!!」


 ビュウウゥオオオオオ!!   ヒュピピピピピピピピン


 主共々拘束されて、今度こそ動けるはずのないはずのエルフのアンデッド。

 だが、まるで自分の意志でもあるかのように、再びその体から烈風が吹き荒れてカマイタチを生み出し周囲を斬り裂くと、あっさりと鋼糸による拘束から抜け出してしまった。


「クハハハハハ!!いつ、私が杖を使わなければ自分のアンデッドに命令を送れないなような三流術師だと言いましたか?そのような弱点などすでに克服済みですよ。御覧の通り、マギ・イモータルウォーリアは私の思念を受けただけで思い通りに動かすことが可能です。残念でしたねクロハ一族の若き頭領よ、そして、これで終わりです!」


 シャララララララララララララン


 それが起こったのはシャクラの言葉が終わるのと同時、リリーシャの鋼糸の拘束で風魔法の矢を失っていたエルフのアンデッドの周りの空気が再び渦巻いたかと思うと、今度はさっきをはるかに超える百本以上の緑の輝きを放つ矢が、宙に浮かぶエルフのアンデッドを中心としてずらりと並んでいた。


「『ルークク』の矢がただのナイフで撃ち落とされたのには驚きましたが、所詮は持ち運びしなければ使えない鋼の武器。魔力の続く限り無限に撃てる魔法の矢の敵ではありませんよ!」


 勝ち誇ったシャクラのセリフに合わせて、三本の風魔法の矢を番えてつがえて必殺の体勢を取るエルフのアンデッド。

 確かにあの数の魔法の矢を立て続けに射られたら、リリーシャがナイフと鋼糸を全力で駆使しても防ぎきることは不可能だろう。そして、すべての武器を破壊されてエルフのアンデッドを攻撃する術を失ったリリーシャが辿る結末は考えるまでもないだろう。

 そう判断した俺が赤竜棍を握る右手を強めようとしたその時、リリーシャの呟くような、それでいて妙に議場全体に響く声がその口から漏れた。


「そうだな、確かにお前の言う通りだ死霊術師――これで終わりだ」


「ようやく自分の愚かさを認めましたかもう遅いですがね!さあ『ルークク』、やってしまいなさい!」


 弓を番えた状態で静止していたエルフのアンデッドが、主である死霊術師の命令を受けてリリーシャに照準を合わせていた矢を引こうとして――それぞれの指の間に挟んでいた三本の魔法の矢を地面に取り落とした。


「何をしているのですか!私の命令に従い――命令を受け付けない!?」


「やはりお前には見えていなかったようだな、死霊術師。まあ、魔力感知を使っても辛うじて認識できるかどうかという代物だからな。その上、お前のお粗末な命令のおかげで、この辺りはルーククの風魔法が吹き荒れていた。そこに私の仕掛けを紛れ込ませるのはあくびが出るほど簡単だったぞ?」


「仕掛け?そんなはずはない!?現に『ルークク』の体には何の異常もないのだぞ!?」


「言葉遣いが乱れているぞ、死霊術師――せっかくだ、タケトに披露するついでに貴様にも見せてやろう。私がクロハ一族の頭領に選ばれた理由、その能力を」


 そのリリーシャの言葉と共に彼女の体から魔力が溢れ出すのを、直前に魔力感知を発動させていた俺は感じた。

 エルフにしては少なめといえるリリーシャの魔力は、彼女の右腕、右手、右の人差し指へと流れるように集まり、極限まで凝縮された魔力の光が指先に達したかと思うと、さらにその先、何もないはずの空間へとまっすぐに突き進み続けた――空中で棒立ちになっているエルフのアンデッドの胸元へ伸びる一本の糸を伝って。


「い、糸!?いつの間に!?」


 シャクラは糸と断じたが、魔力感知を使っている俺には見えていた。

 リリーシャの人差し指から見える一本の糸。視覚だけならそこからエルフのアンデッドへ伸びる方にばかり目が行ってしまうが、俺が注目したのはその反対側、リリーシャの指、手、腕に巻きつき、最終的に彼女の頭部へと向かう銀色のそれだった。

 つまり、あれは糸なんかじゃなく――


「私は生まれつき髪に魔力を溜め込む特異体質でな。普通はある程度の長さまで伸ばしたところで魔道具の材料として利用するらしいのだが、クロハ一族の戦士として何か秀でた力を求めていた幼い頃の私は、自分の髪をそのまま魔道具化、己の武器とすることを思いついたのだ。今、私の髪はダメージと認識されないほどの小さな穴を開けてルーククの体内に侵入、アンデッドの核に巻きついて文字通り掌握している。つまり、すでに勝負は決しているということだ」


「バカな!?クロハ一族の頭領は鋼糸使いというだけで、そんな切り札の話は聞いたことがない!」


「当たり前だ馬鹿者、誰が秘技中の秘技を他人に漏らすものか。鋼糸の技はあくまでも隠れ蓑に過ぎない。そして、このことを知っているのはを含めたこの場の三人だけで、一族の人間にも一人もいない。まあ、他の秘密を知った者には、全員死んでもらっているからな」


 おい。

 それだと、この戦いの後で俺も殺されるって話になりやしないか?

 ……ま、まあ、戦闘中の今、問い質すようなことじゃないか。

 久々に、俺のフライング二回転宙返り一捻り土下座が炸裂するかもしれんが……


「み、認めませんよ!魔力を強化された私の『ルークク』の『魔風の外套』で切断できない糸など!さあ立ちなさい『ルークク』!立ってあのペテン師を射殺すのです!」


「ふん、これが本物のルーククなら、僅かな風の乱れを感知して私の仕掛けなどあっさり回避しただろうな。所詮は魔法の威力や性能にしか目が行かない魔導師、彼女の真の強さを理解できなかったか……」


 ピイイイイィィィィィィン


 そう言ったリリーシャの右人差し指が引かれた瞬間、エルフのアンデッドの胸元に伸びていた銀の髪を弾く音が響き、その先で巻きつかれていたアンデッドの核がズタズタに切り刻まれ、エルフのアンデッドが崩れ落ちた。


「そ、そんなバカな……くっ、こうなれば、『ガングルクス』!!」


「おっと、逃げようなどとは思わない方がいいぞ死霊術師。この『銀影弦』の仕掛けはお前の周りにも施してある。助かりたければ、私とそこのタケトを始末する以外に方法はない」


「……ク、クク、クハハハハ!だとしたらとんだ間違いを犯したものですね、クロハ一族の頭領!いくら強力な魔力が込められた頑丈な糸でも、土の属性を持つドワーフである『ガングルクス』の鉄壁の鎧を突破することは不可能!さあ、お得意の暗殺術でやれるものならやってみなさい!」


「ふむ、確かにそのドワーフと私とでは相性が悪そうだ。ならばこちらも同じ手を使わせてもらおう――というわけだタケト、後は頼んだぞ」


「なっ!?」


「よし来た任せろ――って言うと思ったか!?」


 肩透かしにもほどがあるリリーシャの身の引き方に、翻弄されたのが敵であるシャクラだけなら見事作戦成功と手放しで喜んだんだが、残念なことに彼女に振り回されたのは味方であるはずの俺も同じだった。


 そのセリフの前になんか合図とかくれよ!


「さすがの私も、仮とはいえ主の見せ場を完全に奪うつもりは毛頭ないからな。どうだ、まさに従者の鑑だろう?」


「……その余計な一言を言わなきゃ、そうだったろうな」


 元々リリーシャに言われなくても、あのドワーフの相手は俺のつもりだったから別にいいんだけどな。

 そう思いながら、後ろに下がるリリーシャの代わりに前に出る途中、すれ違いざまに彼女の顔が俺の耳元まで近づいて囁いた。


「あのドワーフと相性が悪いというのは本当だが、それ以上に手持ちのアンデッドをすべて失った時にあの死霊術師がどう動くかの方が気になる。私は奴の警戒に全力を注ぐから、援護は期待するなよ」


「わかってるさ。ついでに、さっきの戦いでガス欠寸前になった魔力をできるだけ回復させておけ。アンデッドを全部始末した後にもう一波乱ありそうだってお前の考えは、俺も同意見だからな」


「ちっ、これだから魔力感知スキルというやつは厄介なのだ。……気を付けろよタケト、死霊術師の小細工を差し引いても、あのドワーフは手強いぞ」


「任せろ。これでも、誇張抜きでああいうタイプとは相性が良いんだ」


「……相談は済みましたか?紳士である私に感謝してくれても構わないのですよ?」


 律義に待っていた、というわけもなく、ドワーフのアンデッドに自分に掛けられた拘束を切らせて余裕を取り戻したシャクラが声をかけてきた。


「寝言は寝て言え。俺達を倒した後でアンデッドにしようって奴が、いまさら何を言っても説得力なんかあるわけないだろ」


「それもそうですね――ではこう言い直しましょう。無抵抗で死んでくれれば、苦しまないように殺して差し上げますよ?慈悲深い私に感謝してくれても構わないのですよ?」


「アホか、お前が死ね」


 シャクラにそう答えて駆け出した俺と、主であるシャクラの前に守るように進み出たドワーフのアンデッド。

 一人と一体の間合いは急速に縮まり、向かい合う二つの得物、赤竜棍と、柄まで鋼でできた槍の二つが議場中に激突音を響かせた。

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