大樹界編
第64話 大勢で会議をした
「えー、それでは第一回コルリ村とタケダ騎士爵家の今後の方針を決める会議、略してタケダ会議を――なんやて?第一回とちゃう?三回はやった?なら第四回にすればええんやろう?まったく、話の腰を折るなっちゅうねん――え?タケダ会議は恥ずかしいからやめてくれやて?うっさいわ!!次グダグダ抜かしよったら叩き出すぞ!!」
そんな感じで俺に食って掛かってきたのは、グノワルド王国屈指の大商会の娘である、緑の髪のインテリ系眼鏡美少女、セリカだ。
一度目の提案は何とか受け入れられたが、我慢強いタイプではないセリカにはそこまでが限界だったようで、二度目の提案は理不尽な理由で拒絶されてしまった。
解せぬ。
「おいセリカとやら!ご主人様に対してあまりに無礼ではないか!」
そうなると当然、俺の従者を自任する、村一番の狩人の称号を持つ銀髪の体育会系美少女、ラキアが黙ってはいない。
「ほう、一番の従者だかなんだか知らんけど、ウチにケンカを売るとはええ度胸しとるやないか。上等や、表出んかい!!」
そんな風にぎゃーぎゃー喚きあう二人を見た、最近完成した村の集会場に集まった面々の反応は様々だ。
さえない中年の男、コルリ村村長のマーシュ。
その隣の、女神のような包容力のある雰囲気を持つ美少女は、はるばるマリス教国からやってきた神樹教司祭のシルフィさん。
さらにその隣り、新たに騎士爵に叙せられた俺の従者にと、東の大公が派遣した、バカ真面目が服を着た雰囲気の若者、ライド。
この三人が何とかケンカを止めようとおろおろしている。
まあ、コルリ村のマジメ組、といったところか。
逆に日常の一部として淡々と受け止めているのは、執事然とした衣装がこの上ないほど様になっているセリカの部下のシルバさん。
それから、なんと俺の弟子になるためにコルリ村にやってきた元凄腕傭兵のニールセン。(弟子なのでさん付けはやめてほしいと再会した時に言われた)
この二人だ。
たとえるなら、多少のことにも動じない、人格者組だな。
さらに、歴戦のツワモノ達と同じように見て見ぬふりをしているのだが、俺から見てもどうにも緊張を隠せていないのが村唯一の薬師の若者、セリオ。
「無理無理!無理ですから!薬学の知識しかない僕をなんで巻き込もうとするんですか!?」
一見マジメ組に見えるセリオだが、そうそうたる顔ぶれにビビって逃げようとしたので、ビビり組の称号を進呈しようと思う。
ちなみに、会議に参加するそメンバーを見て逃げようとしたセリオに実力行使して、時間になるまでこの部屋に閉じ込めたのは、ほかならぬこの俺だ。
(ククク、セリオよ、今更貴様だけこのプレッシャー以外の何物でもない会議から逃げられると思うなよ。こうなれば一蓮托生、貴様を村の幹部にしてどこまでも付き合ってもらうからな)
そんなことを考えていたのが通じたのか、セリオの怒りと悲しみが入り混じった視線が、今も俺に突き刺さり続けている。
だが、今の俺はそれどころではない。
そう、今この場にいるいる面々の中でまだ俺の立ち位置を紹介していなかったが、つまりはこういうことである。
「ご主人様、この無礼な女に何か言ってやってくれ!いや、いっそのこと村から叩き出してくれ!」
「タケトはもちろんウチの味方やもんな?ていうか、味方せんかったら後でどうなるかわかっとるやろうな?ああん?」
集会所に置かれた長テーブルの一番上座に俺、右隣に筆頭従者のラキア、左隣に司会進行のセリカという配置、そう、爵位だけで言えば一番偉いはずの俺は両隣にいる二つの嵐に振り回される役に付かされていた。勿論拒否権はない。
というか、リアルに和服の両の袖を引っ張られて、俺の体は文字通り振り回されていた。
爺ちゃんによって鍛えられた体のおかげで酔いを感じないのは、せめてもの救いだろうか。
(コルリ村の将来を決める大事な会議のはずなんだが、終わりが見えるどころか始まってすらいないな……)
ラキアとセリカの二人に左右に揺すられてろくに働かない頭で、俺はそんなことを考えていた。
ラキアとセリカが冷静になるのを待って(ここで何を言っても確実に火に油を注ぐことになるので一言も喋らなかった)それぞれの自己紹介を済ませた後、ようやく会議の本題に入った。
まあその間も、ラキアとセリカが何度もヒートアップしてかなりグダグダな進行となってしまったので、彼女たちの名誉のためにもここはあえて概要だけを述べておこう。
会議の内容は簡単に言うと次のとおりである。
・機密を除いたシューデルガンドで起こったことの説明と情報共有
・会議のメンバーのコルリ村での役割の割り振り
・役割ごとの仕事内容の確認とバッティングしないための調整
・今後の目標
まずは、セリカの口からシューデルガンドでの一部始終が語られた。
大部分が俺に関することだったので俺の口から話そうかとも思ったのだが、もともとコミュ力の低い俺の拙い説明よりは、常に俺の動きを客観的に見ていたセリカの方が上手に伝えられるだろうと考えて彼女に任せた。
――つもりだったのだが、こと戦闘に関する部分だけはラキアを始めとした一部メンバーから強い要望があり、俺自身の口から話す羽目になった。
結局のところ、誰それを殴ったまたは怪我させたという、お世辞にも穏やかとは言えない話なので最初は断っていたのだが、「連れて行ってくれなかった!」と未だにごねるラキアの目じりに光るものを見てしまうと、当たり障りのないレベルで話さざるを得なかった。
次の機会には連れて行ってやらないと、後が怖すぎるな……
次に、会議に出席したメンバーをコルリ村の重要な仕事につけるための話し合いをした。
とはいっても、ここにいるのは元からのコルリ村の住人か何らかの特技を持っている人たちばかりだったので、マーシュやセリオは当然留任。新たに設けられた役職として、シルフィさんは村に新設される孤児院の院長、ニールセンは村の防衛隊の隊長兼訓練官、というところに落ち着いた。
そういうわけで、俺の部下と呼べるのは従士であるラキアと、東の大公家からやってきたライドの二人となるのだが、末端とはいえ突然グノワルド王国貴族の仲間入りを果たした俺は、貴族の作法どころか平民の権利や責務すらろくに知らない有様だ。
となるとそのあたりのフォロー、というよりは貴族としての仕事を丸投げできる部下が必要になる。
「というわけでタケトとも話し合った結果、ライドにはタケダ騎士爵家の公務を丸投げ――コホン、代理として専念してもらうで」
「ちょっ!?」
「言っとくけどライド、ウチのジジイも了承済みや、拒否権はないで」
「ええぇ……」
はるばるコルリ村くんだりまで来て新興貴族の従者をやるのかと思ったら、地味な事務仕事を丸投げされるという衝撃の事実を知らされたライドに同情心がないわけでもなかったが、俺に徴税やらシューデルガンドへ送る手続きやらの仕事を振られたら確実に一日で逃げ出す自信がある。
すまんライド、君のことは死んでも忘れない。
いや死ぬな、死なずに俺の仕事の肩代わりを頑張ってくれたまえ。
さて、気を取り直して次の議題なのだが、これに関しては問題が起きた場合にその都度各部署ですり合わせるしかなく、必要があればコルリ村代官の俺が裁定を下すという形でやっていくしかないということですぐに片付いた。
一時はこれもライドに丸投げしようかとも思ったが、
「こればかりは代理では話がつかへん。貴族として権威を認められたタケトが決めるからこそみんなが納得するんや」
とセリカに諭され、俺も納得したので受け入れることになった。
まあ、思えば村代表だった時も似たような立場だったし、実際に俺のところまで話が来るケースはほぼないとこれまでの経験で分かっている。
「そうやな。今はな」
ん?セリカの声が聞こえた気がしたが……気のせいか。
そして最後の議題、今後の目標だが、これは引き続き村の復興を目指すということは分かり切っている。
さて、さっさと終わらせてこの会議に出ていない人物から話を聞かないとな、と思った矢先、一人のメンバーがゆっくりと右手を挙げた。
「その前に、ウチの話を聞いてくれへんか?」
少女でもなく商人でもない、何か重いものを背負ったような真剣な表情のセリカに、俺は何か大きく事が動きそうな予感を覚えていた。
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