第24話 二つの誓いを立てた


 チュンチュン チュンチュン チュンチュチュン


 カトレアさんがコルリ村を去った翌日、騒がしい鳴き声に目が覚めたので窓を開けて空を見てみたら二十羽程の小鳥が竹山に向かって飛んでいくのが見えた。


「スズメにそっくりだな、何か餌でも見つけたのかね?」


 そんなことを呟きながら窓を閉めて居間へ向かう。


「おはようございます、村長」


「ああタケトさん、おはようだよ」


「タケト様おはよう!」


 挨拶を交わしたのはこの家の主のマーシュと、俺と同じ居候のラキアだ。


「俺が言えたことじゃないが、ラキア、お前いつまでこの家にいるつもりだよ?」


「大丈夫だ、村長には許可をもらってるぞ」


「んだ。家を無くした村人の面倒を見るのは村長として当然のことだべ。ましてや、ラキアには身寄りがないんだべ」


 そうなのかといった目でマーシュを見ると、彼は頷き返してそう言った。


「確かにあの山火事で一切合切なくしたのは気の毒だが、お前の腕なら家一軒建てるくらい簡単に稼げるだろうに。なんで狩りに行かないんだ?」


 そう、他の村人はオークナイト襲撃から元の生活をを取り戻しつつあるのに、なぜかラキアだけは俺の傍を離れることなくニート生活を続けているのだ。


「そのことであとでタケト様と二人きりで話がしたいのだ。時間を作ってもらえないだろうか?」


「別に構わないぞ。昼飯の後でいいか?」


「わかった!こっちも覚悟を決めておくぞ!」


 なんか知らんが、いやに気合が入ってるな。

 ひょっとして、この前言っていたお願いとやらが絡んでるのか?


 ……まあいい、どうせ昼にはわかることだしな。


 食事が終わると、マーシュの奥さんがラキアを連れて外に出た。

 ラキアが大量の洗濯物を抱えていたから村の近くの川に行ったのだろう。

 もちろん手伝いを申し出たが、女の仕事ですからとやんわりと断られた。



 そんなわけで、食後の竹の葉茶をマーシュと雑談をしながら二人きりで喫していると、マーシュが唐突に話題を変えてきた。


「タケトさん、カトレア様もお帰りになられたことで村の復興に本腰を入れることになるだけど、ちょっとその前に話を聞いてほしいだよ」


「話ですか?もちろんいいですよ」


「じゃあ、ちょっと場所を変えるだよ」


 俺の返事を聞くことなく席を立ったマーシュに違和感を感じないわけではなかったが、特に異を唱える必要もなかったのでとりあえず付いていく。

 だが、辿り着いた村の広場に、作業に追われているはずのコルリ村の住民全員が作業を中断して待ち構えているとは、さすがに夢にも思っていなかった。

 その中には洗濯に行ったはずのラキアやマーシュの奥さん、それぞれの仕事で多忙なはずのドンケスやセリオ、さらには滅多に外には出てこない乳飲み子やお年寄りまでいたから、本当の意味で村人全員が広場に集まっていることになる。


「タケトさん、いやタケト様、これから言うことは村人全員の総意だと思って聞いてほしいだよ」


 目の前で俺のことを様付けしたマーシュが、その場に膝をついて頭を伏せた。

 俗にいう土下座という奴だ。


「タケト様、このコルリ村の代表になってオラたちを導いてほしいだよ!」


「な、何を突然……?」


 俺が二の句を継げずにいるとマーシュの後ろにいた村人たちが一斉にその場に膝をついた。


「お願いだタケト様!」「私たちを導いてください!」「あなたにならついていける!」「タケト様!」


 次々に投げかけられる言葉に立ちすくんでいた俺に再びマーシュが言葉をかけてきた。


「タケト様とカトレア様のお陰でオークナイトの脅威を退けられたコルリ村だけど、家や食べ物や税のことを考えると、を乗り越えたとはまだまだとても言えないだよ。村を守り恵みを与えてくれていた森が山火事でなくなってしまった以上、オラたちだけじゃこの先生きていくことすらできないだよ」


「だから村の外の広い世界を知っていてこの村が生きる道を示してくれたタケト様に代表になってもらうことが一番だと昨日の夜みんなで話し合って決めたんです」


 マーシュの後を引き継いで話すセリオ。


 そう言えば昨日の夜はマーシュたちが用事があると言って夕食後にどこかに出かけていたが、まさかそんな話をしていたとは……


「いやいや、余所者の俺じゃ、村のことなんてわかりませんよ。そもそも村を纏め上げるなら断然村長の方が適任じゃないですか。俺は村の一員としてそれに協力すればいいだけの話で……」


「それだけではこの状況を乗り切れん、ということだ」


 俺の反論を遮るように、唯一立ったままだったドンケスが切り出した。


「山火事のせいで畑は一から作り直さにゃならんし、税代わりに納めていた材木は見ての通り跡形もないから、交易も含めて一から考え直さんといかん。幸いあの竹を材木代わりにできそうだから、そこは工夫次第で何とかなりそうだがな。だがそれには、唯一竹の知識を持つタケトが主導してくれんと何も始まらん」


 それに、とドンケスは、残してある竹の柵を見つめながら続けた。


「なにより、村の犠牲なしに魔物を撃退するには、お前の力がなければどうにもならん。何しろワシ以外の連中にとっては、手探りで暗闇の中を進むような話だ。それに、これらの他にも未だ見えてきていない小さな問題がこの先山のように出てくるだろう。そんな時に、村長よりもはるかに広い視野で村のことを見て考える存在が必要だということだ。こんな厄介な役目はタケト、お前にしかできん」


 ……言われてみれば確かに腑に落ちないこともない。


 ここ最近は特にそうなのだろうが、居候の目から見ても村長のマーシュの多忙さはよくわかっているつもりだ。

 山火事の後始末に住居建設、冬に向けての食糧確保や村人の相談などなど。

 これに魔物対策までやれと言うのは無理な話だと、コルリ村の新入りの俺でもわかる。


 また、村人達も少しは自信がついたとはいえ、魔物を相手にするにはまだまだ素人が多すぎるし、戦闘の指揮ができる人材もいない。

 仮に俺抜きで次の魔物の襲撃を受けたら、無傷どころか怪我程度で済む保証はどこにもない。


 確かに自惚れを差し引いてもこの場に俺以上の適任はいない、気がする。


「何より、白焔と山火事のせいでこの辺りの環境は一変してコルリ村以外の村は消滅してしまった。シューデルガンドからの援助が望み薄である以上、この先何があってもこの村だけで何とかせんといかん。じゃからこそ、村の者を問答無用で引っ張っていける圧倒的な力を持つリーダーが必要なんじゃ」


「何もタケト様にオラの仕事をやってほしいわけじゃないだよ。オラたちでは太刀打ちできないことが起きた時に力を貸してほしい、いざという時にオラたちにも戦える力をつけてほしいというわけだよ」


「もちろん今すぐ結論を出せとは言わん。一週間のうちにタケトの考えを聞かせてもらえれば――」


「いや、その必要はないですよ」


 今度は俺の方からドンケスの言葉を遮った。


 ……まったく、因果は巡るというものらしいが、まさか異世界に来てまで実感することになるとは思わなかったな。


「皆さんの要請への答えを言う前に、ちょっと俺の独り言を聞いてくれませんか」


 一旦言葉を切った少しの間に、自分の考えをてきちんと整理してみようとしたが、人前で喋る経験などほとんどない俺には土台無理な相談だった。


 仕方ない、思いつくままに言ってみるか。


「俺の家は代々地侍、領地持ちの騎士の様な家系だったんですけど、時代の変化で親父の代でその役目を終えたんですよ」


 本当は爺ちゃんの代でもそんな義務も権利もなかったんだが、数々の伝説を持つアレな爺ちゃんだったのせいで頼みごとがひっきりなしに舞い込んでいたそうだから、隠居宣言するまでは実質地侍のような事をしていたと言える。


「俺の竹田無双流って言うのは一子相伝の秘伝で、物心ついたころから毎日、一対一の稽古で爺ちゃんに全てを叩き込まれました。魔物と戦った時の武芸だけじゃなくて、竹細工の技とかその他諸々の修業が俺という人間の基礎になってるんですけど、今にして思えば爺ちゃんは俺に竹田無双流の技だけじゃなくて自分の土地、居場所を守るための覚悟やら心構えやらを、修行を通して俺に伝えたかったんじゃないかと思うんです」


 話していくうちに、自分の修業や竹細工の制作に没頭できないとぼやきつつも、次々とやってくる頼みごとを断りきれずに日々奔走していた、生前の爺ちゃんの姿を思い出していた。


 子供の頃は稽古をつけてもらいながら、いつかは爺ちゃんの後を継ぐのだと漠然と思っていたが、成長するにつれて、次第にもうそんな時代じゃないのだと悟っていった。

 だが一方で、胸の奥底では子供のころの夢がくすぶり続けているのも分かっていた。

 だから大学を中退しても、就職もせずに稽古をしたり竹細工を作ったりという、竹とばかり向き合う生活を送っていたのかもしれない。


「俺の故郷では爺ちゃんの後を継ぐことはできなかったけど、図らずもこのコルリ村に移住してきたことで、爺ちゃんのこころざしだけでも継ぐことができる機会を作ってくれたコルリ村の皆にお礼が言いたいです。むしろ頼むのは俺の方だ。コルリ村を守る役目を俺に任せてくれ!!」


 シーーーーーン


 頭を下げて頼み込んだものの何のリアクションも返ってこないので、不安に駆られておそるおそる頭を上げた途端、


 ワアアアアアァァァァァァッ!!!!


「やったぞ!」「俺たちの新たなリーダーの誕生だ!」「今夜はお祝いしなくちゃ!」「タケト様ーー!!」


 村人たちは一斉に立ち上がると思い思いの言葉で喜びを爆発させた。


「よく、よく決心してくれただよタケト様!」


 感極まったのか俺の目の前にいたマーシュもその場から立ち上がるなり俺の両手を掴んで力いっぱい振り回した。


「ちょっと痛いですから、離してください」


「これでオラたちにも希望が見えてきただよ!」


 俺の話なんか聞こえていないようで滂沱の涙を流して喜ぶマーシュ。


 いや、まあここまで喜んでくれて俺もまんざらでもないんだけどさ。


 でも、いつまでも野郎と手を繋ぐ趣味はないのでそろそろマジで離してほしい。


 そんな俺の思いを知ってか知らずか、マーシュの後ろにいるドンケスとセリオは苦笑いしているだけで助けようという素振りを見せない。


 そろそろ本気で振りほどこうかと思ったその時


「タケト様---ーーー!!」


「ギャッ!!」


 まるでラグビーのタックルの如く凄まじい勢いでマーシュを突き飛ばして俺の胸に飛び込んできたのは、ラキアだった。


「村の代表になってくれたのだな!なら私からの話も今すぐ聞いてほしいのだ!」


「それは構わんが今は……」


 今から今後の話し合いをするんじゃないのかと思っていると、


「構わないだよ。どうせ今日一日は祝いの宴とその準備で潰れるだべさ」


 ラキアに吹き飛ばされたマーシュが頭を振りながらそう答えてくれた。


「そうですか?ならお言葉に甘えてちょっと抜けますね」


「タケト様、どうかラキアの願いを聞き届けてあげてほしいだよ」


「さあタケト様!村長の許可も出たし、付いてくるのだ!」


「あ、ちょ、ちょっと、腕を引っ張るな!!」


 意味深な言葉のマーシュに見送られながら俺はなぜか興奮気味のラキアに村の外へと連行されていくのだった。


 しかし、俺が村代表でマーシュが村長とは、どっちが偉いのかよく分からんな……







 結局、俺の手を離すことのないままラキアが連れて来たのは、村のはずれを流れる川のそばだった。


「よし、ここなら誰もいないか」


 珍しく小さな声で何か呟いているラキア。若干緊張しているようにも見える。


「おい、ラキア、大丈夫か?」


「ふぁあ!?な、なんだタケト様か。驚かさないでくれ」


「いや、ここに俺を連れて来たのお前なんだけど」


「そ、そうか?そう言われればそんな気もしないでもないな!」


 いつもフリーダムな言動の目立つラキアだが今日は極め付きだな……


 何時まで経ってもラキアが話を切り出さないので、喉の渇きを感じて竹筒に入れた竹の葉茶をあおっていると、何やら覚悟を決めた様子のラキアがこちらに向き直って口を開いた。


「タケト様、お願いがあるのだ!」


「なんだ、言ってみろよ」


 その言葉は何度も聞いたというセリフを何とか飲み込んでラキアに続きを促す。


「私をタケト様の愛人にしてくれ!!」


「ブフウッ!!」


 ラキアの衝撃の発言に思わず口に残っていたお茶を吹いてしまったが、俺の心中はそれどころじゃなかった。


 あ、あ、あ、愛人!?


 何を言い出すかと思えばよりにもよって愛人!?


「あ、すまないタケト様、ちょっと言い間違えてしまった」


「そうか!言い間違いか!ははは、誰にでも間違いというものはあるものだ、気にするな!」


 大方友人と言うところを愛人と言ってしまったのだろう。

 それでも出会ってからののラキアの俺への接し方からして今更友人と言うのも変なのだが。


「私をタケト様の愛人兼従者にしてくれ!!」


「はああぁぁぁぁぁぁっぁ!?ゲゴッゲホッ、はぁ、はぁ……ラキアお前、自分が何を言っているのか分かってるのか!?」


「もちろんだ。公私に渡ってタケト様の御側に仕える者のことだと教えてもらった」


「ま、まあ、間違ってはいないが……従者はともかく愛人が何をするのか本当にわかってるのか?」


「いやよくは知らない」


 ……だろうな、知ってたらいくらラキアでもあんなこと言うはず……ないとも言い切れんな。

 何せラキアだからな……


「お願いを何でも聞いてくれるというから言ったのに、もしかしてダメなのか?」


「いや、ダメと言うか……ていうか、なんで愛人兼従者なんだ?」


「私もよく分からん!!」


「根拠のない自信だな!!」


 びっくりした。

 まさか本当に考えなしだったとは……


「根拠ならあるぞ。何しろ亡くなった母様かあさまがそうだったからな!」


「……何だって?ラキア、お前のお母さんはコルリ村の百姓じゃないのか?」


「違うぞ。愛人兼従者だったのだ」


 唐突過ぎるカミングアウトだったので、いったんラキアのお願いを棚上げしてよくよく事情を聴いてみるとこういうことだった。


 ラキアの母親はどこぞの貴族の愛人兼護衛だったそうだが、魔族との戦争が激しさを増してラキアの父親である貴族の領地にまで危機が及ぶようになったので、母親と二人で身分を隠してコルリ村まで疎開してきたのだそうだ。

 それからのラキアはコルリ村の一住人として暮らす一方、母親から弓や従者としての立ち振る舞いを密かに教わっていたが三年前に母親が病死、それ以降はコルリ村で唯一ラキア母子の事情を知る村長のマーシュが後見人となり、天涯孤独の身になったラキアを何かと助けてくれて今に至る、と言った感じの割と深刻な話を、ラキアは特に感慨もなさそうに話してくれた。


 言われてみれば、この間まで至って普通の村だった(村人はイメでも普通だが)コルリ村において、ラキアの言葉遣いにはずっと違和感を感じていた。

 もっとも、それをはっきりと認識したのは、魔物の襲撃の時に見せた尋常ではない弓の腕を見てからだが。


 だって、当のラキアは常識とはかけ離れた性格だからな。最初の頃はただアレなヤツだとしか思ってなかったんだから仕方ない。


「私は物心ついた時にはコルリ村に住んでいたから、父様のことをほとんど覚えていないんだが、ある時に母様からラキアは父様そっくりねと言われたことがあったのだ。思えば、その時から母様は家の手伝いの代わりに、弓の稽古をつけてくれるようになったのだ」


 ラキアよ、それは多分、お前の自由過ぎる行動にお前の母様が普通の女としての生き方ができないと悟ったからだと思うぞ。

 と言うセリフををまさか面と向かって言えるわけもないので、すんでのところで飲み込んだ。


「それで母様が『ラキア、お前はいつの日か村を出て、この人になら仕えてもいいと思える殿方を捜しなさい。例え愛人でも、そんな殿方の傍にいられたら絶対に幸せになれるわ』と口癖のように何度も私に言ったのだ」


「なるほどな、言っていることはやっぱりさっぱりわからんが、言いたいことだけは分かったよ」


 さて、どうしたものか……


 とはいえ、交わした約束を違えるつもりは毛頭ない。

 しかしだからと言って、愛人の何たるかも知らないラキアとそんな契約を結ぶつもりもない。


 ……仕方ない、俺の心情としては甚だ不本意だが、間を取った上で先延ばしと妥協と行くしかないか。


「よし分かった。ラキア、自俺の従者になるという願いは叶えようじゃないか」


「おお!!……ん、んん?では、愛人の方はどうなるのだ?」


「正直に言うとだな、今の俺には愛人を囲えるほどの金も甲斐性もない。何なら自分の家もない。そんな境遇でお前を愛人にするなんて俺の矜持が許さない」


 本当は結婚すらしていない身なので愛人関係そのものをお断りしたいところだが、ラキアと約束した手前、ストレートに拒絶するのは憚られた。


「なんと!!じゃあ何時になったらタケト様は私を愛人にしてくれるのだ?」


「そうだな……俺が自分の家を持って愛人を囲えるくらいの財産を持てたら、その時はラキアとの関係を見直そうじゃないか。それとも従者の関係だけじゃダメか?」


「うーーーーーーん……仕方ない、確かにタケト様の言うことはもっともだ。主人の喜びになりこそすれ負担になるようでは愛人失格と母様も言っていたからな。わかった!今は従者の身分だけで我慢する!」


 ……ふう、口先だけで言いくるめた感じもしないでもないが、何とかラキアに納得してもらえたようだ。


 まあ、これから先ラキアに好きな男が現れるかもしれんし、俺の方だってこの先どうなるかは分からない。

 なるようになるだろう。


「ではタケト様、いや、ご主人様!これからよろしく頼むぞ!本当は主従の誓いをやりたいところだが、そこまで母様は教えてくれなかったからな……」


「なら簡単なものだが、俺の流儀でやるか?」


「うん、それでいいぞ!」


 ……ひょっとしてラキアの母親が作法を教えなかったのは、相手に合わせろと言う意味だったのかもしれん。

 ラキアの満面の笑みを見ていると、ふとそんな考えが浮かんだ。

 考えすぎか?


「と言っても杯もないから、雑なことこの上ないんだがな」


 そう言いながら、腰に付けていた竹筒の中のお茶を半分より少し多めに飲み干すと、そのままラキアに渡した。


「ご主人様、これは?」


「固めの杯と言ってな、同じ器に入った飲み物を飲み分けることで、主従の誓いを立てる儀式なんだよ」


「なるほど、わかった!」


 理解しているのかいないのか、ラキアは快活にそう叫ぶと一気に竹筒を傾けて中の物を飲み干した。


 ……間接キスだとは思うまい、絶対に思うまい。


「ふふ、まだ半分だけだがこれで私の夢が叶ったぞ!!さあご主人様、早く村に戻って祝いの宴の手伝いをしようではないか!!」


 そう言いながら俺の手を取って元気に走り出した、同じ背丈の銀髪の少女の表情は、これまで見たどんなものよりも明るく輝いていた。


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