第66話 森を抜けて

──俺達の近くで

アネットとタンが戦闘を始めた。


「グウゥーーッ!!」


アネットが体を回転させ、

魔物の胸に回し蹴りを命中させようとした

……その時!


……バキッ!! ドゴッ!!


(……なっ!?)


魔物の背中からタンが

アネットと同時に回し蹴りを炸裂させた。


「ギャガァァ!!」


(……あ、アイツら!?

胸と背中から同時に回し蹴りをっ!?)


続けてアネットとタンは

絶妙なコンビネーションで

魔物の顔面へ左右から同時に

正拳突き炸裂させ……


「……ギャッ! ギャアッ!!」


次は、魔物の頭部に脳天から下方向へと、

アゴから上方向への強烈な蹴りを

同時に決める……


「……ゴ、ゴグゴォッ!!

グギャガァッー!!」


アネットとタンに

見るも痛々しい攻撃をされた魔物は

上級僧に攻撃された魔物達よりも

大きな叫び声を上げて消滅した。


「……そ、僧侶様?

アネットちゃんとタンちゃんに

狙われたら、すっごい痛そうだね……」


「ああ……。それにアイツらの攻撃は、

体のダメージ以上に

精神的なイタさを感じさせるな……」


アネットとタンは、

戦闘を見守っていた俺達に気づくと

俺達に向けて魔物を倒した戦果を

アピールすべく、

息の合ったふざけた踊りを踊り始めた。


(……あいつらっ!? 魔王の島に来ても

ふざけた態度は変わらないのかっ!?)


そして、

他の魔物の気配に気づいたアネットとタンは

また魔物の方に向かって消えて行った。


上級僧達の活躍によって

次第に倒されていく魔物達を見て

サキがアリコに声をかける。


「……隊長さん?

グラチネの上級僧は凄いだろっ?

これなら、魔物が全滅するのも

時間の問題だぞ」


「そ、そのようですね……。

心強い援軍に、私も感謝いたします」


……と、周囲の雰囲気が

安堵に包まれようとしたその時だった。


……ドスンッ! ……ドスンッ!


『セドラッ!

そっちに大きいのが行ったぞ!』


「はいっ!」


……シュタッ!


ある上級僧の声と当時に、

セドラが俺達の前に戻ってきた。


森の奥から全長10mを超える

大きな熊型の魔物が

ゆっくりと歩いて近づいて来る。


「これはまた……

大きな熊型の魔物ですね」


「……何だセドラ? ビビってるのか?」


「サキさん……、ご冗談を」


サキとセドラは

大きな熊型の魔物が近づいてきても

慌てず落ち着いた様子だ。


「サキさん、

せっかく再会したのですから

久しぶりにアレをやりませんか?」


「奇遇だな、セドラ。

アタシも同じ事を考えていた所だ」


セドラとサキは目を合わせて一瞬微笑み、

サキは短剣を抜いて身構えた。


「……ユナ! テルアキ! アタシとセドラに

スピードの魔法を掛けてくれ!」


「ええっ!?

サキちゃん!? セドりん!

って事は……、アレをやるんだね!?」


「そうです! ユナさん!

私とサキさん……、想い出の連携技!!


『ふたりのエクスタッ……」


……バキッ!!


「……ぐはっ!」


セドラが大声で

技の名前を言おうとした瞬間、

サキの跳び蹴りがセドラに命中し、

セドラの体が地面に転がった。


「人前でその名を出すんじゃないっ!

恥ずかしいわーーっ!!」


「ええっ!? サキちゃん!?

あんなに情熱的でゾクゾクしちゃう

素敵な名前なのにっ!?」


「……ユナッ! お前は黙ってろ!」


(……なっ!?

一体、2人の連携技に

どんな名前をつけたんですかっ!?)


一連のやり取りに、アリコとユウトは

口を開けて唖然としている。


「ええいっ! 仕切り直しだ!

セドラ! さっさと起きろっ!

……ユナ、テルアキ、頼む!!」


「分かったよ、サキちゃん!」


「サキ、セドラ、ユナ!

……俺達も強くなったからな。

前回は基本魔法の『スピード』でやったが、

今回は上級魔法の『マクススピード』で

いくぞ!」


「オッケー、僧侶様!

いくよサキちゃん! マクススピード!」


「セドラ! マクススピード!」


ユナと俺が2人に上級魔法の

マクススピードを掛けると、

2人の身体が黄金色に輝き始めた。


(……テルアキさん!?

これが上級魔法ですか!?

……なんて効果だっ!?

まるで身体に羽が生えたみたいに軽い!?)


「よし、先手は頼むぞ! セドラ!」


「サキさん! 行きますよっ!!」


……シュッ!


2人はそこから消えたかの様な

凄まじい速さで攻撃を始める。


「おおぉぉ!!」


「はあーっ!!」


凄まじい速さの2人が

大きな熊型の魔物に飛びかかる。

セドラは魔物の周囲を高速移動しながら

的確に拳打を叩き込む。


それに合わせる様にサキが素早く

剣撃を叩き込む。


超高速で繰り出される2人の攻撃は

まるで魔物を竜巻が襲うかの様に

全方向から無数に叩き込まれた。


……ババババッ!!


「グオォーーー!!」


2人が繰り出す超高速の連携攻撃に

魔物は成す術もなく、

大声を上げながら消滅した。


「やったね!

サキちゃん! セドりん!」


「相変わらず見事な連携だな!

サキ! セドラ!」


「ふんっ……。

アタシ達の手にかかれば、こんな所だな」


「サキさん!

やっぱり私は……、サキさんと一緒だと

とても心地が良くて戦いやすいですっ!」


「……なっ!? ……セドラっ!

今は……そういうのはいいんだよっ!」


サキは照れながらセドラに声をあげる。


ユウトは初めて見るセドラとサキの

素早い連携技に驚いていた。


(凄いっ! ……セドラさん、サキさん!

魔法の補助を受けて

こんな強力な攻撃ができるなんて!


……あっ! て言うか、僕!

今の所、何にもしてないっ!?)


若干不安な表情を浮かべたユウトに、

俺は声を掛ける。


「……ユウト? お前は今、

自分は活躍してないかもっ!?

とか思ったりしてないだろうな?」


「えっ!? テルアキさん……?

その、あの……」


俺はユウトの肩に軽く手を乗せ

話を続ける。


「……それは違うぞ、ユウト。

伝説の勇者であるお前が、

魔王ビアンドの元にたどり着くまで

消耗させないことが俺達の目標だ。


……だからお前は、それで良いんだ。

むしろ、こんな序盤から

伝説の勇者が活躍してしまったら

きっと最後まで辿り着けないぞ!」


「テ、テルアキさん……。

そう言ってもらえると、

すごく気持ちが楽になります。

……ありがとうございます!」


「……ああ。ただし、

最後の魔王戦はお前が頼りだ。

その時は頼むぞ!」


「はいっ!」


──森に現れた魔物は全て退治され、

第1隊は魔王の城がある平野まで

たどり着いた。


……そして、程なくして

後を追ってきた第2隊も合流し

ランティーユがアリコに報告を促す。


「隊長アリコ、報告を!」


「はっ、騎士団長。

海域ではブレゼスの漁師方による

魔法攻撃で魔物を殲滅。


キュイール島上陸後の森では

グラチネ僧方の活躍で魔物を撃破。


この平野まで当部隊は

負傷者、死傷者共に無く進攻致しました!」


「………」


ランティーユは

アリコの報告を聞いて黙っている。


(……あれ!?

わ、私は何か変な報告を

してしまったのでしょうかっ!?)


アリコの表情が

見る見る不安にかられて行く……。


ランティーユは立ち尽くすアリコの

周りをゆっくりと歩きながら、語り始めた。


「アリコ……。

そなたは『隊長』という立場にありながら、

具体的な指示も出せずに……、

ただただ、支援に来て下さった

皆様の手を借りただけ。……と言う事か?」


「ももも!

申し訳ありませんっ!!!」


……強烈な重圧がアリコにのしかかる。


「……いやっ! でも、そのっ……あのっ!

皆様の得意な地形と言いますか、

慣れた場所と言いますかっ!」


反論しようとするアリコに

ランティーユはため息をつきながら

ゆっくりとアリコの背後に回り、

その肩に手を乗せた。


……次の瞬間!


「それでも誇り高き王国の騎士かっ!

恥を知れっ! この愚か者ーーっ!!」


「ひいいっっっ!!

どうかお許しをっ! 母上ーーっ!!

どわぁぁーーっ!!」


「グギャァーーッ!!」


アリコは剛速球の様に

回転しながら投げ飛ばされた。


……バキッ!! ……ドカッ!!


アリコの身体は最寄りの木を……、

1本目は倒しながら貫通し

2本目の大木にぶつかって地面に転がった。


(……あれ? 今、アリコの悲鳴と同時に、

魔物の叫び声も聞こえなかったか?)


俺はどこかで見覚えのある

ランティーユとアリコのやり取りの中で

魔物の叫び声が聞こえた様に感じた。


ランティーユは手をパンパンと払いながら

アリコに声をかける。


「隊長アリコ!

……木陰に隠れる魔物を

体当たりで退治した功績に免じて

隊長としての失態は免じる!」


しかし、ランティーユの本心は

その発言とは異なっていた。


(アリコ、適材適所で援軍の力を

借りたあなたの判断は間違っていません。

ただ、時に軍務は理不尽なモノ。

この理不尽さを学ぶ事も

今後のあなたには必要なのですよ……)


やや複雑な表情のランティーユを見ながら

俺はその状況に驚いていた。


(……なっ!?

やっぱり魔物がいたのか!?


てゆか、ランティーユさん!?

魔物が隠れてると分かってて

アリコを投げ飛ばしたのかっ!?)


アリコの裁きを終えたランティーユは

討伐隊全員に指示を出す。


「皆の者! これよりこの隊は

私、ランティーユが指揮をとる!

よいなっ!!」


『はっ!!』


──こうして2つの討伐隊は無事に合流し、

平野を進んで魔王の城へ進軍してゆく。

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