魔王城 キュイール島編

第63話 集結と再会

──魔王が住むキュイール島へ

侵攻する日の朝を迎えた。


選りすぐりの精鋭400名で編成された

部隊が舟で海を渡るべく、

岸に集結している。


グラチネから派遣された上級僧30名と

ブレゼスから舟の操舵をする為に協力する

漁師達も集合していた。


兵士達が集結する海岸から

キュイール島までは約1kmの

海を渡ることになる。

100人乗りの舟2隻で2往復して

キュイール島へ渡る手筈だ。


俺達4人は舟に近づくと、

ブレゼスの漁師長カルマールと

3姉妹のスキーユ、クロビス、ユイトルが

出航の準備をしていた。


……俺は皆に声をかける。


「皆さんーっ! お久しぶりです!」


「おおっ! テルアキ君か!

元気にしてたかい?」


カルマールが俺に返事をしてくれた。

その声を聞いて、

ユイトルも俺の方を振り向いたので

俺はユイトルにも挨拶をする。


「ユイトル! 久しぶりだなっ!」


俺の姿を確認したユイトルは

俺に向かって歩き始めた……。


(……あっ? ユイトル、

作業を止めて、わざわざ側に来て

挨拶してくれるのか?)


……しかし、ユイトルは俺に近づくにつれ

次第に歩くスピードを速める。


そして途中から走り始め、

最後には全速力で俺に向かって走ってきた。


(……えっ!?)


ユイトルは鬼気迫る様な

殺気混じりかつ、怒りの気配を

かもし出している……。


「……ちょ、ユ、ユイトルッ!?」


ユイトルはおぞましい顔つきで

俺に向かって、叫びながら

一直線に駆け寄け寄ってくる……。


「テルアキーーッ!!」


(……なっ!?)


するとユイトルは、

漁師仕込みの力強い腕力で、

俺にウエスタンラリアートを炸裂させた。


……バーンッ!!


「……ぐはっ! ユ、ユイトルッ!? 」


ユイトルは地面に沈む俺を掴まえ、

怒りに満ちた大声を出す。


「ちょっとテルアキッ!

アンタねえ!! 街を出たっきり、

何で一度も顔を出さないのよっ!


私が……、どんな気持ちでアンタを

待ってたか? 分かってるのっ!?」


「……ユ、ユイトルッ! すまなかったよ。

謝るからっ! 頼むから離してくれっ!」


ユイトルは俺の謝罪を聞き、

ようやく俺を離してくれた。


「……ゲホッ、ゲホッ。

ユイトル、元気そうで安心したよ」


「全く……、アンタって人は。

こっちはアンタに食べてほしい料理が

沢山あるんだからね!


魔王だか何だか知らないけど、

とっとと退治して私達の街に来なさい!

……良いわねっ!?」


「あ、ああ……、分かったよ、ユイトル」


(……ユイトルちゃん、

相変わらず厳しいなぁ……)


俺とユイトルのやり取りを見て、

ユナが声をかける。


「……僧侶様っ?

愛しのユイトルちゃんと感動の再会だね」


(……わわっ! ユナッ!?

なんて冗談をっ!?)


「……ユナも久しぶりね。

この戦いが終わったら、

テルアキに料理を食べさせるついでに、

まぁ、アンタにも食べさせてあげるから、

……今日はしっかり頑張りなさいよっ」


「わぁ! ユイトルちゃんの料理を

食べられると思ったら100人力だよっ!

私っ、頑張っちゃう!」


ユナはガッツポーズをして

おどける様子を見せたが、

ユイトルはそんなユナの首を捕まえ、

小声でユナに話した。


⦅……で、ユナ。

テルアキとはどうなってるのよっ!?

その……、色んな事は

もう済ませたわけっ!?⦆


⦅……えぇっ!?

ユイトルちゃんっ!? 何言ってるの!?

私達はその……、別にそんな事は!⦆


ユイトルの露骨な質問に

ユナは取り乱したが、

昨夜のテルアキとの出来事を

思い出して赤面してしまった。


⦅……でも、その……、アレだよ。

あの……、唇を少々って言うか……⦆


⦅……はぁっ!?

ちょっと、アンタ!

唇を少々って、それだけっ!?


どれだけの期間テルアキと一緒に

過ごしてると思ってるのよっ!?


……まぁ、でも良いわ。それだけなら、

まだ私にもチャンスがあるわね。

ユナ、私はテルアキの事、

諦めてないんだからね!⦆


(……ユ、ユイトルちゃん)


ユナとユイトルが内緒話をしていると、

スキーユ、クロビスもやってきた。

皆で再会の挨拶を済ませる。


するとユナがある疑問を感じ

スキーユに質問した。


「スキーユさん、

この100人乗りの大きな舟だけど、

どうやって動かすんですか?

皆で漕ぐんですか?」


「あら、ユナちゃん、気付いてないの?

舟の前の方に、

大きな取っ手みたいのがあるでしょ?


それを口で咥えて

この大きな舟を引っ張ってくれる

私達の大切な家族も一緒に来てるのよ」


「えっ!? それって、まさか!?」


舟の方を見ると、

懐かしい2体の姿が海中から姿を現した。


「クウゥーーッ!!」


「キュゥーーッ!!」


真っ白で神々しいその2体の姿に

周囲に居た兵士達から歓声が上がる。


『おおっ! あれは!? 港町ブレゼスの

……聖白の守り神様かっ!?』


『……確か、お名前は『オリオル』様と

仰ったわよねっ!?』


『……おおっ! 本物のオリオル様だっ!』


『なんて幸運でしょうっ!?

その姿にお目にかかれるなんてっ!

しかも、お二方もいらっしゃるっ!?』


『おおっ! 聖白の守り神様に

ご子息が生まれたという噂は

本当だったのかっ!?』


周囲に居た兵士達が

オリオル達の姿を見ようと集まってきた。


そんな中、ユナは

オリオルと同じ位の大きさに成長した

子供の姿に驚き、ムーヴの魔法を唱えて

その背中に移動した。


そしてその白く美しい首に

抱きついて再会を喜ぶ。


「わぁっ! 大きくなったねー!


……『ヤキザバコ』!!」


(……なっ!?)


(……えぇっ!?)


ユナが呼んだその名前に

周囲一同の兵士達が動揺をあらわにし、

ざわつきが起こる。


『……ね、ねぇ、今、あの魔女、

ヤキザバコって言った?』


『……う、うん。

ヤキザバコって言った……』


『……嘘でしょっ!?

聖白の守り神様に何て名前をっ!?』


そんな周囲の動揺は我関せず、

ユナとヤキザバコは

互いに頬を擦り寄せ合い再会を喜んでいる。


「キャーッ! もう!

こんなに大きくなっちゃって!

また会えて嬉しいよっ! ヤキザバコ!」


「キュゥーー! キュゥーーッ!!」


……再度、名前を呼ぶユナの姿に

周囲の動揺が広がる。


「ヤキザバコ!

今日は舟の運搬、宜しくねっ!」


「キュゥーー! キュゥーー!」


──こうしてブレゼスの皆と

再会を楽しんでいると

グラチネから派遣された上級僧達が

俺達の元にやってきた。


寺長セザムと、

その後ろにはセドラも居る。

まずはセザムが俺達に声をかける。


「ユウト殿! いよいよ決戦ですね。

ご武運を祈ります!」


「セザムさん!

修業の時はありがとうございました。

今日は、必ず魔王を打ち倒してきます!」


次にセドラが挨拶をする。 


「皆さん、お久しぶりです!!」


「セドラっ! 久しぶりだなっ!」


「セドりんっ!

30人の討伐隊に選ばれだんだねっ!?

……凄ーい!!


ほらほらっ! サキちゃんっ!

セドりんが来てくれたよっ!」


ユナはセドラと挨拶をしつつ、

嬉しそうにサキを呼んだ。


(……サ、サキさんっ!?)


サキとの久しぶりの再会に

セドラはやや緊張しているようだ。


「セドラ……」


サキはゆっくりセドラに近づき、

セドラの前に立った。


「サ、サキさん……、お久しぶりです」


「……」


サキはセドラの挨拶に答えなかった。

そしてサキは黙ったまま、

セドラの首元を掴んだ。


(……えっ? サキさん!?)


……次の瞬間っ!!


「……このっ!? 浮気者っー!!」


そう叫びながら、サキはセドラを

背負い投げで投げ飛ばし、

セドラを思い切り地面に叩き付けた。


……ドカッ!!


「……ぐはっ!! サ、サキさん!?」


そしてサキは流れるような動きで

地面に横たわるセドラに締め技をかけた。


「……ぐっ!

く、苦しいですっ! サキさん!?

し、……締め技はダメですっ!!」


「うるさいっ! セドラッ!

ユウトから聞いたぞっ?

……観光客の女性とイチャイチャして

楽しんでるみたいじゃないかっ!?


アタシとの……、あの夜のアレはっ!

何だったんだよ!?」


サキは100日修業の最終日、

セドラと抱きしめ合った夜の事を

思い出しながら、

締め技の力を徐々に強めていく……。


隣に居たユナは

サキの気になる言葉を聞き逃さずに

すぐさまサキに問い掛けた。


「えっ!? サキちゃんっ!?

『あの夜のアレ』……って、

セドりんと一体何があったのっ!?」


「う、うるさいっ!

ユナッ、別に何でもないっ!!」


ユナの不意な問い掛けに

サキはまた思わず力が入ってしまう。


「……ぐぐぐっ! ぐはっ!

サキさんっ!? そ、それ以上はっ、

……本当にダメですっ!!」


苦しんで意識を失いかけたセドラを見て

サキはようやく締め技を解いた。


「はぁ……はぁ……、

サキさん、強くなりましたね。

全く回避できない見事な体術でした」


「……そんな事はどうでも良いんだ!

セドラ! 今日はこれで勘弁するけどっ!


今度また変な事をしていたら

こんなのじゃ済まさないからなっ!」


「は、はいっ。今後の観光案内は

あまり浮かれない様に……、気をつけます」


こんなセドラとサキのやり取りを

ユナは嬉しそうに見ていた。


──こうして俺達は

これまで出会ってきた懐かしい人々と

再会したのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る