第52話 資金集め

──アリマン王との謁見を終えて

グリエールの宿屋に戻り、

俺達は今後の予定について話した。


「凄いね、僧侶様!

私達、本当に伝説の勇者の仲間に

なっちゃったよ!」


「ああ……。自分でも驚いてるよ」


「テルアキ、こうなったら

もう腹をくくるしかないぞ。

伝説の勇者と共に、魔王討伐だ!」


「はは。どんな難題でも

サキが言うと実現しそうだな。

……お前が仲間で良かったよ」


「だろ? ……こういうのは

ウジウジ考えても仕方ないからな。


……でも、今後はどうするんだ?

勇者召喚まであと約30日、

召喚された勇者が強くなって

グリエールに来るまで、

……更に30日はかかるだろ?」


「……そうだろうな。

俺達はその間、しっかり修業を続けよう」


「僧侶様?

……何か目標みたいなモノはあるの?」


「ああ。魔王の城に乗り込む前に

最大限の準備をしようと思う」


「テルアキ、具体的には何をするんだ?」


「道具屋で、HPとMPを

同時に最大値まで回復できる

『最高級回復薬』を売ってるだろ?」


「あの超高級品な。

あれ……、高いんだよな」


「その『最高級回復薬』を

可能な限り買い集めようと思う」


「沢山あれば安心だね。

僧侶様、いくつ買い集めるつもりなの?」


「……99個だ」


(……なっ!?)


ユナもサキも

俺の答えに目を丸くして驚いている。


「ちょっ! ……99個って!

本気なのっ!? 僧侶様!!」


「テルアキ! 99個買うのに

いくら必要だと思ってるんだ!?

……そんな金があったら、

民家の1軒や2軒、楽に買えるぞ!」


「ああ、分かってる。

でも、魔王の城への侵入して

最後には魔王と戦う事になるんだ。

十分過ぎる準備をしても足りないくらいだ」


「……それは分かるけど」


「それに99個はあくまで目標だ。

結果的に90個だったとしても問題ない」


「それでも90個かよっ!」


「あと、状態異常を回復できる

『万能薬』も99個揃えるぞ」


「……嘘でしょっ!? 僧侶様!?」


「どんだけ準備するつもりだよっ!

それ……、魔王倒すより難しくないか!?」


「いやっ、そんな訳ないだろ!!」


俺の無謀とも思える準備計画に、

ユナとサキは更に驚いている。


「……そういう事だから、

明日からは付近の魔物を

退治しまくって金を貯めるぞ!

そして修業も同時進行だ!」


「分かったよ、僧侶様。

サキちゃんも、明日から頑張ろっ」


「仕方ないな……。やってやるか」


「そうと決まれば、

明日は採掘場に行くぞ。


警備担当の兵士達に、

資金を集めるのに効率が良い

魔物の出現場所を聞いてみよう」


──こうして俺達は

最高級回復薬と万能薬を買い集める為に

資金稼ぎを始める事にした。


翌日、グリエールの採掘場へ行き、

警備兵達から情報を聞き出す。


「皆さん、資金集めが効率的に出来る

良い場所を知りませんか?」


『採掘場の隣にある森の奥に

行けば強い魔物も現れるから、

その辺りはどうですか?』


『火山の近くは

岩石みたいな魔物が多いので、

それらを倒せば貴重な鉱石や宝石等も

手に入るかもしれませんね……』


「なるほど……。

森の奥に……、火山ですね」


俺はメモを取りながら

警備兵の話を聞いていた。


と、その時!


……ドーーンッ!!


外で大きな爆発音が響いた。


「どわっ! 何だ!?

……魔物の大軍か!?」


「えぇっ!? サキちゃん!

それは大変! すぐに行かなきゃ!」


驚く俺達を見て、

警備兵が落ち着いて説明する。


『皆さん、今の音は魔物ではありませんよ。

……そうか、皆さんは

ご存知ありませんでしたね』


「えっ? ……何をですか?」


『あれは、最近実用化された

採掘作業の爆発処理です』


(……なっ!?

それって爆薬があるって事か!?)


俺はすぐさま、警備兵に問い詰めた。


「それって! 爆薬ですか!?」


『テルアキ殿……、

私はその『爆薬』という物は存じませんが、

火山でよく採れる黄色い石と炭、

それに鉱山で採掘される

特殊な白い石を混ぜて火をつけると

爆発する事が分かりまして……。


それで採掘作業中、

大きな岩石を破壊したりするのに

使うようになったのです』


(……それって、

硫黄と炭素、硝石だろ!?

やっぱり爆薬だっ!?)


俺は興奮を隠せずに警備兵に確認する。


「それ! どこかで買えるんですか!?

誰でも使えるんですかっ!?」


「……ちょっ! 僧侶様、落ち着いて!

どうしちゃったの?」


「ユナ! これは凄い事だぞ。

爆薬があれば、誰でも火をつけて

爆発を起こす事ができるんだ」


「えぇ!? そんな事が出来るの!?」


「ああ、そうだ。

警備兵さん、それって、

威力はどの位なのですか!?」


『そうですね……。

1m位の岩を吹き飛ばす程度の威力です。

ちょっと値は張りますが、

道具屋さんで買えますよ。


確か、『炸裂弾』という名前で

売っていたと思います』


(……何とっ!

これは思ってもない朗報だ!)


俺は嬉しさの余り、自然に顔がニヤけた。


「……テルアキ、

お前また悪企みする悪党の顔してるぞ」


「そう言うな、サキ。

その『炸裂弾』があれば、

鍵のかかった扉を壊したり、

魔物を攻撃したり、威嚇できたり


……便利な事だらけだぞ」


「……何っ!?

鍵のかかった扉ごと壊せるのかっ!?

もしそんな事ができたら……、

フフ……フフフ……」


サキは良からぬ想像で

不適な笑みを浮かべる……。


(……サキちゃんこそ!!

変な想像で悪企みする悪党みたいな顔に

なってるよっ!?)


ユナは苦笑いをしながら

怪しくニヤつく俺とサキを見ていた。


「テルアキ! そんな便利なモノなら

是非とも入手しないとなっ!」


「警備兵さん、貴重な情報を

ありがとうございます!」


『皆さんのお役に立てれば光栄です。

それともう1つ、

役に立つ情報かどうか分かりませんが……』


「……はい? 何でしょう?」


『爆発処理のお陰で採掘エリアも

かなり広がりました。

その結果、新しい洞窟の入口が

発見されたのです。


入口付近から強力な魔物が多くて

我々はまだ探索出来ていませんが、

どうやらその洞窟は、

貴重な原石や鉱石が沢山ある

鉱脈みたいなんです』


「……何っ!? 本当か!? 兵士さん!

貴重な原石って宝石だろっ!?

……あるのかっ!? お宝があるのか!?」


今度はサキが興奮を隠せずに

警備兵に飛びついた。

サキは兵士の胸元を掴んで

ブンブンと上半身を振り回している。


「……サキ! 落ち着け!

そんなに体を振り回したら、

警備兵さんも答えられないぞ」


サキは、はっと我に返り

警備兵から手を離した。


『ゲホッ……。サキさん、

まだ洞窟の奥まで確認した訳ではないので、

宝石があるという保証はありません……。


でも、岩石の魔物が多く現れますので

魔物を退治するだけで

手に入る宝石や原石もあるでしょう。


先程のお話に出た、

資金集めにも良いのでは?

……と思います』


その言葉を聞き、

……俺達3人は互いに目を合わせて頷いた。


「目的地は決まったな」


「そうだね! 僧侶様!」


「よーし! 宝石探しに行くぞ!!」


(……いや、サキ!

それ、微妙に目的違うぞ!!)


──こうして俺達は新しく発見された

洞窟に移動した。


警備兵から聞いた情報の通り、

洞窟の入口付近から

岩石の魔物が多く現れた。


それらの魔物を退治して

鉱石や宝石の原石等も

幾つか手に入れることができた。


「洞窟の入口からこの調子だと、

内部はもっと期待できるな」


「サキ、未踏の洞窟だ。

慎重に進もう」


「分かってるよ、テルアキ」


──洞窟の入口に到着し、

内部の様子を確認すると

洞窟の壁面には様々な鉱石の塊が見られた。


「これは凄いなっ! テルアキ! ユナ!

……ここはお宝の山だっ!」


「……そうみたいだな。

サキ、ユナ、警戒しながら

慎重に進んでいくぞ!」


──こうして俺達は

新しい洞窟の探索を始めるのであった……。

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