第40話 採掘の仕事

──グリエールに到着して2日目。

俺達は街の近くにある

鉱石の採掘場に向かった。


勇者の盾を奪還する為には

『ラグー遺跡』を探索する事になるが、

事前に街の付近に現れる魔物達と戦い、

魔物達の強さを把握しておく必要がある。


街を出て1時間ほど歩き、

火山近くの採掘場に到着する。


周囲を見渡すと、

工具を持って作業する炭坑夫や

台車に重い鉱石を積んで

運搬する者の姿が見受けられる。


「採掘の仕事ってこんな感じなんだね。

……私、初めて見たよ」


「ああ、皆大変そうだな。

まずは付近の警備を担当している

兵士達の詰め所を尋ねよう。

魔物が多く現れそうな場所を

教えてもらわないとな」


……しかし、

俺は兵士の詰め所に向かいながら

周囲の炭坑夫達が働く姿を見て、

不思議な違和感を感じていた。


(……あれ? 何だろう? ……この感じ。

皆、真面目に働いているんだけど、

何か引っ掛かるな……)


──警備担当の兵士達が待機する

詰め所に到着し、話を聞く。


『おぉ、あなた方が

勇者の盾奪還に協力して頂けるという

伝説の僧侶様ご一行ですね?


グルナード統括総督から

指示が出ています。

皆様に協力するように……と』


「初めまして、俺はテルアキ、

こちらはユナ、サキです。


グルナード統括総督から

話が伝わっているのですね。

それは助かります」


──警備担当の兵士達から、

採掘場の奥にある森に魔物が頻繁に現れる

……という情報を得た。


また、兵士達から

ラグー遺跡付近で現れる魔物と、

採掘場の奥にある森で現れる魔物は

殆ど同じ……という貴重な情報も得られた。


つまり、この森で魔物を

難なく退治することが出来れば、

ラグー遺跡までの道中も問題ない

……という事になる。


俺達は早速、

採掘場の奥にある森へ向かった。


森では獣や植物、岩石の様な魔物と

何度も戦闘を行ったが、

俺とユナの全体魔法や

サキの短剣と弓による攻撃で

それらを無事に退治することが出来た。


「サキちゃん!

その短剣、凄い切れ味だね!」


「ああ! 素晴らしい短剣だ。

これは鍛冶屋のカルバスさんと

フィーグに感謝しないとな!」


「魔物の強さもこの位なら対処できるな。

これなら、ラグー遺跡までの道中は

問題無さそうだ」


「……うん。

何とかなりそうで良かったね、僧侶様」


俺達は昼まで戦闘を続けた後、

昼食を取るために採掘場に戻った。

作業をしていた炭坑夫達も

昼の休憩をしている。


出発前に街で買ったサンドイッチを

頬張りながら、炭坑夫達と話をする……。


『へぇ……、あんた達が

伝説の僧侶様ご一行かい?』


「そうです。テルアキと言います。

こちらはユナ、サキです。

皆さん、午前中の作業お疲れ様です」


『僧侶様にねぎらいの言葉を

頂けるなんて、ありがたいねぇ』


「いえいえ、

俺達が便利な道具を使って生活できるのも、

皆さんが貴重な鉱石を

採掘して下さるお陰ですから……。

感謝するのは俺達の方ですよ」


『またまた、うれしいお言葉だね。

ありがとよ、テルアキさんっ!』


「それにしても、

重い鉱石を掘ったり砕いたり運んだり……、

大変な重労働ですね。

体を痛めたりしませんか?」


『……そうだな。

ここでは重い鉱石を多く運ぶが、

腰痛も職業病みたいなモノだし。

まぁ、それにも慣れてはいるけど。


……ただ、問題があるとすれば、

俺達の身体よりも運搬台車だな』


「……えっ?

この木製の運搬台車が何か問題でも?」


俺は炭鉱夫の隣に置かれた運搬台車に

視線を送りながら話を聞く。


『……ああ。

重い鉱石を沢山乗せて運びたいんだが、

何せ木製だろう?


鉱石を運搬台車に沢山乗せると、

その重さで車輪の軸受けの辺りが

壊れてしまうんだ。だから、

1回で運べる量が限られるんだよ……。


ほら、あそこにも修理行きの運搬台車が

数台転がってるだろう?」


炭坑夫は少し離れた所に雑然と置かれた

車輪の軸受け部分が破損した

数台の運搬台車を指差した。


「うーん……、

確かに木で出来た台車じゃぁ、

沢山の石の重さには堪えられないよね」


「そうですよね。

それに無理な力をかけて何度も運べば

皆さんも腰を悪くしてしまうし……」


……ここで、

俺は元居た世界の運搬台車を思い出す。

いわゆる「手押し式の一輪車」だ。


(俺が元居た世界の運搬台車は

荷台は金属製、ゴム製のタイヤで、

車輪の軸を受ける部分は

コロコロとスムーズに回転してたよな……?


目の前にある運搬台車みたいに、

木製の軸が擦れ合ってギシギシ言う……

なんて事は無かったぞ?)


「……僧侶様? どうかした?」


(車輪の軸を受ける部分がコロコロと、

……って、あっ! ……そういう事かっ!!)


俺は炭坑夫達の作業を最初に見た時の

違和感が何だったのか?

……分かった気がした。


「……そうだっ! 『軸受け』だよっ!!

軸がスムーズに回ってないんだ!!」


「……わわっ!? ……僧侶様!?

どうしちゃったの!?」


「ユナ、テルアキはきっとまた、

変な事を思い付いたんじゃないか?」


「……おいっ、サキ! 変な事で悪かったな!

俺が思い付いたのは、『軸受け』って言う

俺が元居た世界の偉大な発明品だ。


正確には『転がり軸受け』または

『ボールベアリング』というモノだ。


これがあれば……

木製の運搬台車でも乗せられる鉱石の量を

増やすことができるぞ!」


『……ええっ? 僧侶様! 本当かい!?』


「僧侶様っ、それってどんなモノなの!?」


「えっと……、そうだな。

簡単に説明すると……。


ユナ、例えば板を2枚重ねて置いたとして、

上の板を横に移動させるとどうなる?」


「うん、ズズズッ……って引きずりながら

滑らせる感じだよね」


「……そうだ。

板同士で摩擦があるから、

上の板を動かすには結構な力が必要だろ?」


「……うん、そうだよね」


「そこで……、だ。

サンドイッチみたいに

2枚の板の間に、『丸い球』を

何個か置いたらどうなる?」


「え……? それは……、

板の間にある球がコロコロ転がるから、

上の板を動かすのは

簡単になるんじゃないかな?」


「……正解だ。

今は板と板の平面の形で説明したが、

これを『輪っか状の形』で作るんだ。


中央に四角の穴が開いた硬貨を

想像してくれても良い。


外側にはコロコロ転がる球が

埋められていて、中央の穴には、

穴の形に合った車輪の軸を通すんだ。


それを運搬台車に設置すれば、

摩擦なくコロコロと

車輪の軸を回すことができるんだ」


「わぁ……、

途中からは良く分からなかったけど、

何だか凄そうだね」


(……複雑な説明だったしな、

やっぱりユナには分からなかったか?)


……俺は一瞬戸惑いの表情を見せた。


「あぁっ!? ……僧侶様、今!


『やっぱりユナは理解できなかったな』


……とか思ったでしょっ!?」


「いや、別に……、そんな事は!」


「いいもん、ふーんだ」


膨れて見せるユナのおどけない姿が

愛おしく感じられる。


(……この可愛い仕種も、

もし俺が死んでしまったら

もう見られないのか!?)


俺はふと、昨日知った極大魔法の

効果を思い出してしまう……。

「死」という状況を想像してしまい

暗い表情をしてしまったが、

サキの言葉で我に返った。


「テルアキ、

アタシは今の説明でほぼ分かったぞ。

でも……、そんなモノを

加工して作ることが可能なのか?」


「……ああ。

サキの素晴らしい短剣を作れる

この街の加工技術なら、きっとできるぞ!」


『……僧侶様!

俺も今の説明で分かったよ!

コロコロ転がる球が沢山ついた

軸を受ける道具を作れば良いんだよな?』


「炭坑夫さん!

流石の想像力と理解力です!


……よしっ!

今日の戦闘と調査を終えたら、

鍛冶屋のカルバスさんと

フィーグに相談してみよう!」


俺は昼休憩の間、

手帳に「軸受け」を試作するための

部品のアイデア図を描いていた。


(……えっと、子供の頃、

元居た世界の地元企業イベントで

『ボールベアリング』の組付け体験を

やったよな……。思い出すんだ……。

あの時は確か、こんな形の部品で……)


俺は過去の記憶を頼りに

次の部品のアイデア図を描き上げる……。


・軸受けの中で転がる球

・球の位置が移動しないようにする保持器

・上記の2つを挟む

内側と外側の『軌道輪』という部品


俺のメモ書きを

ユナが隣から興味津々で覗き込む。


「へぇ……、そんな感じの部品を

組み合わせて作るんだね。

僧侶様は何でも知ってて凄いねっ」


「ああ。これが実用化すれば、

きっといろんな所で便利に使われるぞ!

それにココで働く炭鉱夫さん達の

労力も軽減することが出来るしな」


「……流石っ!

人助けが本業の僧侶様だね!」


「はは。ありがとな、ユナ」


俺はユナの笑顔を見ると、

普段に増して穏やかな気持ちになった……。


「ユナ……、俺はお前に褒められると

やっぱり嬉しいみたいだ」


俺からの突然の台詞にユナが戸惑う。


「……ええっ!? ……ちょっ! 僧侶様!?

突然そんな事言われたら、

……は、恥ずかしいよっ。」


「……それは悪かったな。

でも今のは俺の本心だ。お前の存在は

いつも俺をホッと安心させてくれるんだよ」


「……もうっ! 僧侶様ったら!」


ユナも俺も互いに照れて顔を赤くする。


(……ちょっと言いすぎたかな?

でも、あの魔法の事を知ったせいで

どうも感傷的になってしまう……)


「さて、昼食も終えたし、

そろそろ午後の戦闘に行こう!」


──俺達は昼休憩を済ませた後、

午後も引き続き魔物との戦闘を行ったが、

問題なく戦う事ができた。


そして、『軸受け』製作の

相談をする為に、カルバスとフィーグの

鍛冶屋に向かうのであった。

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