第41話 ラグー遺跡

──俺達は木製台車に装着する

『軸受け』製作依頼の為、

鍛冶屋のカルバス、フィーグを訪ねた。


「おお、僧侶様じゃないか。

どうかしたのかい?」


「カルバスさん、

ちょっと相談があって来ました」


俺達は鉱石の採掘場で使われる

木製台車の車輪軸部分が

鉱石の重さに耐えられない

……という問題点を伝えた。


「確かに、木製台車では

耐荷重に限界はあるだろうな」


「そこで、こんなモノを

作って欲しいんです。

これは俺が元居た世界で


『軸受け』とか『ボールベアリング』


と呼ばれる部品です」


俺は自分で描いた『軸受け』の

アイデア図をカルバスに見せた。

娘のフィーグも一緒にアイデア図を確認する。


「……なるほど。

こうして軸の回転動作を球で受ければ

摩擦も減って耐久性が増すと言う訳か。

僧侶様……! これは凄い機構だよっ!!」


「うん! 私も凄いと思う!

部品の加工精度によるけど、

製作するのは可能だね!」


「急ぎとは言いません。

採掘場で作業する炭坑夫さん達も

鉱石の運搬に無理な力を入れていて、

腰痛になっている人が多いみたいです。


でもこの『軸受け』があれば、

炭鉱夫さん達の労働環境も

改善されるんじゃないか?

……って思うんです」


「僧侶様、それを聞いたら

やらない訳には行かないな。


『技術ってのは人々が心身共に

豊かになる為にあるモノだ!』


てのが俺達のモットーだからな」


「カルバスさん、やって貰えますか?

ありがとうございます!」


「……ああ、承知した。

ちょうど明日、鍛冶屋仲間の

定期会合があるから、

試作に協力してくれる仲間を集めるよ」


「でも……、

皆さん協力してくれるでしょうか?」


「テルアキさん、それは大丈夫だよ。

こんな面白いアイデア図を見せられたら、

鍛冶屋職人なら皆、飛びついてくるよ!


それにこの街では……


『路上に設計図が落ちてたら、

3日後には実物になってる』


……って言われてるくらいだからね!」


フィーグはそう言いながら

可愛い笑顔でVサインを見せる。


「それは凄い職人魂だな。

フィーグ、ありがとう!」


「良かったね、僧侶様。でも、

その便利な部品、『軸受け』っていう名前が

何だかつまらなくない?


球がコロコロ転がるなら……


『球コロ軸受け』


の方が可愛いよっ」


「あはは。ユナさん、それは採用だ。

名前で道具のイメージがつくのは

重要だからね」


「えへへ。やったぁ。

名前、採用されちゃった」


──こうして、この街で

『球コロ軸受け』の製作が始まるのであった。


後に『球コロ軸受け』は開発・量産され、

回転機構を含む多くの道具に採用された。

こうして、この街の産業発展と

炭坑夫達の労働環境改善に

大きく寄与することになった……。


俺達は今日の予定を終え、

街を歩いて宿に向かう。

すると、道中でアクセサリー屋を発見した。


「……ねぇ僧侶様?

こんな所にアクセサリー屋さんがあるよ。

さすが鉱石の街だね。

ちょっと寄っていこうよ」


「……ああ、面白そうだな。

パワーストーンみたいな物も

売ってそうだし、入ってみよう」


「……良いのかっ? テルアキ!

さすが太っ腹だな、ありがとよ!」


「……ちょっと待て、サキ。

その言い方は何らかの語弊を感じるぞ」


「やったね、サキちゃん。

僧侶様にお揃いのイヤリングとか

買ってもらおうよ!」


(……なっ!

やっぱりそうなるのかっ!?)


笑顔のユナ、サキと苦笑いの俺が

店の扉を開ける。


「いらっしゃいませ。

どうぞ、ご覧になってくださいね」


エメラルド、アメジスト、

サファイア、ルビー……、

色とりどりのアクセサリーが

店の中に並んでいる。


「わぁ! 凄い!

こんなに沢山の種類があるよ!」


「さすが鉱石の街だな。

珍しい石も沢山あるぞ!!」


興奮するユナとサキの隣で

俺も商品を見ていると、

店内に掲げられた貼紙を発見した。


「店員さん、この貼紙ですが


『原石の加工体験できます』


というのは何ですか?」


「それはですね……。

原石をご購入頂いて、ご自身で加工して

ブローチやペンダントを作る事ができます。


お客様の中には、

石の採掘からご自身で行って、

アクセサリー製作をしてプレゼントされる

……なんて方もいらっしゃいますよ」


「わぁ! 凄いねー。そんな事されたら、

女の子なら誰でも喜んじゃうよ!」


(……自分で手に入れた原石で

アクセサリー製作か。

それは想いが伝わりそうだな。


俺がそれをしたら、

ユナも喜んでくれるだろうか……?)


「テルアキ、お前もユナに

手作りアクセサリーを

プレゼントしてやったらどうだ?」


「なっ!? そんなっ……。

いきなり言われても!?

ユナ……、えっと、それはまた今度な」


「えーっ?

また今度っていつー? 僧侶様っ?」


ユナは可愛い上目遣いで

俺の袖を強めに引っ張っている……。


「……う、うるさいっ!

そんな可愛いアピールしてもダメだ。

……また今度って言ったら、

また今度なんだよっ!」


(……この店で原石を買って

アクセサリーを作るよりも、

せっかくなら自分で手に入れた

原石で作りたいしな。

……ユナには今日は我慢してもらおう)


そんな俺の考えとは関係なく、

ユナはぷぅーっと膨れ顔をしている。


「……いいもん。じゃあ僧侶様、

今日はお詫びに私達に何か買ってよ」


「って、何のお詫びだよっ!

俺は何も悪いことしてないぞ!


……でも、まぁ鉱石には

いろんな効果や言い伝えもあるしな。

今日はサキとお揃いで、

クリスタルのイヤリングにしろよ。


クリスタルは開運、浄化、魔除けの

効果があるからな……」


「えぇっ? もっと可愛いのが良いのに。

ピンクのローズクォーツとか……」


「だから……、可愛いのは、また今度な」


(ユナに似合う可愛いアクセサリーは

……やっぱり自分で作りたいし!)


「本当? 約束だよっ! 僧侶様!」


「テルアキ、ありがとな。

センスはイマイチだが、有難く頂戴するぞ」


「サキ、お前はひと言多い!」


サキは俺のツッコミを受け流しながら、

俺の側に立ち、小声で耳打ちした。


⦅……おい! テルアキ! いつでもいいから、

ユナにはちゃんとしたアクセサリーを

プレゼントしてやれよっ!⦆


⦅……あぁ、分かってるよ!⦆


2人分のイヤリングを購入して店を出る。

ユナとサキはお揃いで

耳に輝くアクセサリーを付け、

嬉しそうにはしゃいでいた。


(ユナにオリジナルの

アクセサリーをプレゼントか。

……1つ課題が増えてしまったな)


宿への帰り道、俺は幸せな課題が

できた事に喜びを感じていた……。


──翌朝、俺達は

魔王の幹部『ダンド』が勇者の盾を守る

ラグー遺跡を目指した。

ひとまずラグー遺跡に

たどり着く事を第1目標とする。


そして、到着の時点で余力があれば

遺跡内を探索する計画だ。


──遺跡までの道中では、

何度か魔物に襲われたが

さほど消耗することなく到着できた。

俺は遺跡の入口でユナ、サキと相談する。


「ユナ、サキ、

ここまではさほど消耗してないから、

遺跡の中に入ろうと思う。どうだ?」


「うん! 私、まだまだ戦えるよっ!」


「アタシもだ。

警戒しながら中に進もう!」


──警戒しながら遺跡内部に進む。

遺跡内部には歴史を感じさせる石像や

彫刻を施された建物が立ち並ぶ。


遺跡内部ではこれまで遭遇した

獣や植物、岩石の様な魔物に加えて

アンデッド系の魔物も現れたが、

これまでの戦闘と同じく

さほど苦戦することなく退治できた。


「アンデッド系の魔物が出ると

遺跡に来た! ……って感じがするね」


「ああ、あまり戦闘経験がない魔物だが

……何とか退治できるな」


「テルアキ、ユナ、油断するなよ。

未踏の場所は何が起きるか

分からないからな」


「流石だね、サキちゃん。

探索とか偵察は得意そうだもんね」


「こういう時のサキは頼りになるな。

サキ……、まさかとは思うが、今までに

遺跡荒らしとかしてないよな?」


(……ドキッ!)


俺の唐突な質問にサキは硬直した。


「……そ、そんなバチ当たりな事を

する訳ないだろっ!?

強いて言うなら……えっと、そうだな……、

トレジャーハントだっ!」


(……なっ!?

それ! ……言い換えただけだぞっ!?)


「へぇ……。トレジャーハントなんて、

サキちゃん、カッコイイね!」


(……いや、ユナ!

お前は遺跡のトレジャーハントが

何の事だか分かってないと思うぞっ!)


──俺達はそのまま遺跡を進み、

一番奥にある神殿の様な建物の前に来た。


「……何だかココは、

雰囲気が今までの建物と違うな。

ユナ、サキ、気をつけて行くぞ」


「うん、僧侶様。

何だか大きな神殿みたいな感じだね」


「いよいよ、勇者の盾を守る

魔王の幹部『ダンド』とご対面かもな」


俺達は入口を通り抜け、神殿の中に入る。

内部の部屋をさらに2つ抜け、

次の部屋に続く扉を開けると

……大広間が現れた。


そして、大広間の中に進むと、

奥から不気味な声が聞こえてくる……。


「勇者の盾を求めて

また人間がやってきたか……」


その威圧に満ちた声を聞くだけで

相手が強敵である事が分かる。

俺達はすぐさま戦闘態勢に身構えた。


……ドスンッ、ドスンッ


大きな足音が大広間に響き渡る。

背中に翼を持った鳥の頭をした魔物が

奥の暗闇からゆっくりと姿を表す。


「俺は魔王ビアンド様の命により

この遺跡で勇者の盾を守る者……、

魔王軍四天王の1人『ダンド』だ。


さぁ……、この場所に足を踏み入れた事、

存分に後悔するが良い……」


──こうして俺達は、

勇者の盾を守る魔王の幹部『ダンド』と

対峙するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る