第6話 仕事の効率とLv上げ

──翌朝。


身支度を整え階段を降りると、

スリーズが朝食の準備をしていた。

その脇でシクルも手伝っている。


 「スリーズさん、 おはようございます」


 「おはよう、テルアキ。

よく眠れたようだね」


気さくに名前で呼んでくれる

スリーズに親近感を覚える。


 「お兄ちゃん、おはよー!

シクルも居るよっ」


 「シクルもおはよう。

お手伝いして偉いねっ」


 「おうっ、テルアキ! おはようっ!

今日からよろしく頼むな!!」


 「クルガーヌさん、おはようございます。

……はいっ、よろしくお願いします!」


朝食を済ませ、

クルガーヌと共に作業場に向かう。

作業員達は既に集まり、

作業を始める準備をしている様だ。


 「皆ーっ! 集合してくれーっ!!」


『はーいっ! 何です? 親方ー??』


総勢30名位だろうか?

作業員達が集合する。


 「昨日世話になった者もいるが、

改めて紹介しよう。

依頼で派遣されて来た僧侶のテルアキだ。

皆! よろしくな!!」

 

 「テルアキですっ!

今日からお世話になりますっ!!」


(大勢の前でも大きな声を出せるのは

体育会系の特技だろうか。

こんな時は、現実世界で卓球部所属

だった事を誇らしく思う)


作業員の皆に挨拶を済ませ、

俺は伐採班に割り振られた。

俺の仕事は昨日の通り、

戦闘で発生する怪我人の治療だ。


 「ところで皆さん、木が倒れる少し前に

俺に知らせて貰えませんか?

試したい事があるんです」


 『おぉ、そうかい? わかったよ。

木を壊さなきゃ、何でもやってみてくれ』


──30分後。


 『おーい! 僧侶様!

こっちの木ー!! そろそろだっ!』


俺は今にも倒れようとする

木の近くに駆け寄った。

作業員達は周囲に散り、大きな声を上げる。


『気をつけろー! 倒れーるーぞーっ!!』


……バキッバキッバキッ!


(……今だっ!!

頼む! 上手くいってくれ!!)


「……ムーヴ!!」


倒れようとする大木に向けて

両手をかざし魔法を唱える。

大木全体が不思議な光に包まれ、

ゆっくりとした動きになる。


「ぐぐぐっ! お! 重いっ!

……でもっ!」


大木の自重に負けそうになるが、

歯を食いしばり、徐々に大木を傾けていく。


……スーーーッ。


そのままゆっくりと地面に寝かせ、

魔法を解いた。こうして、

大木を静かに倒す事に成功した。


『おおぉっ!!』


周囲で大きな歓声が上がる。


『僧侶様っ! 今のは一体!?

何をしたんだっ!?』


「今のは、物体を自由に動かす魔法です。

思いつきでやってみましたが、

……上手くいって良かったです」


成功した安堵と同時に集中力が途切れ、

俺はその場に座り込んでしまった……。


「……ふぅ」


 『すげーよ! 僧侶様っ!

これなら魔物達と戦わずに

スムーズに作業が出来る!!』


伐採班の皆が俺を囲み、賞賛した。

異変に気づいたクルガーヌが駆け寄る。


 「おーい! どうかしたかっ?」


 『親方! 聞いて下さい!

僧侶様が凄いんですっ!

魔法の力で木を静かに倒したんです!

これなら、戦闘なしで作業出来ますよっ!』


 「何!? それは本当か!?

テルアキ! お前、スゲーなっ!!」


 「何とか上手く行きました。

でも、1日に使える魔法の回数が……」


「よーし! 皆ー! 近頃は戦闘のせいで

1日に3~4本が限度だったが、

今からは魔物達が現れる前の

ペースで伐採するぞ!

1日に8~10本だっ!!」


(……えっ!? 俺の魔法はまだ

1日に6回しか使えないんだけどっ!!

ちゃんと皆に伝えなきゃっ!!)


 『おーい! 僧侶様! 次はこっちだー!』


 「はーいっ!

魔法はあと残り5回ですからね!」


間違いが起きないように

俺は魔法の残り回数を

伝えながら作業を続けた。

しかし、都合の悪い情報は

なかなか上手く伝わらない。

特に、相手が希望にかられ

勢いづいている時は尚更だ……。


「これで魔法は最後ですよーっ!!」


魔法を撃ち尽くし、

ほっとため息をつき、周囲を見渡す。


(……なっ!?)


俺は視界に飛び込む情景に驚愕した。

向こうの方でまだ伐採作業が

続いているではないか!

……慌てて駆け寄り、声をかける。


 「あのっ!

魔法はもう使えませんよっ!!」


 『えっ!? 次が最後じゃなかったか!?』


 ……バキッバキッバキッ!


 気づいた時には遅かった。

「あとの祭り」とはこの事である。


…… ズドーンッ!!!


 周辺に鳴り響く大きな音と振動。


『まじかーっ!? みんなーっ!

仕方ないっ! 武器を持てーーっ!!』


「皆さぁんっ!

俺のLvが低くってごめんなさーいっ!」


幸い、現れた魔物は2体のみだった。

1人がかすり傷を負ったが、

在庫の回復薬で治療できた。


……こうして、初日の仕事は終了した。

クルガーヌと共に帰宅し、夕食をとる。


 「スリーズさん、

今日もとっても美味しいです」


 「あら、良い食べっぷりだねぇ。

可愛い息子ができたみたいで嬉しいよ。

沢山あるからどんどん食べてね」


 「お兄ちゃん、後でトランプねーっ!」


 「うん、

シクルが相手でも手加減しないからねっ」


 「望むところー!」


 (とは言っても相手は子供。

ある程度の手加減は必要だろう……)


夕食を済ませ、

シクルと共にテーブルに着く。


 「さて、シクル。何して遊ぶ?」


 「んとねっ。大富豪が良いっ!」


(……この世界でも大富豪があるんだな)


始める前にルールの確認をしたが、

現実世界と同じ様だ。

シクルはトランプの箱を開け、

手慣れた手つきであっという間に

トランプを振り分けた。


……パパパパッ!!


(……えっ!? 何だっ?

このマジシャンの様な手捌きはっ!?)


心なしか、シクルの表情が厳しい

勝負師の様な顔つきになっている……。


──1戦目


 「よーし、お兄ちゃん負けないぞー」


……負けた。


(……あれ? 何だか、気づいたら

負けてた……みたいな負け方だな。

何だこの違和感は?)


──2戦目


……負けた。


 「お兄ちゃん?

手加減しなくて良いよー?」


──3戦目


……負けた。


 (なっ!? 待て待てっ! 何なんだ?

俺も大富豪は弱い方じゃないぞ!!)


──そのまま13連敗。


 「ちょっ、シクル!?

何でそんなに強いのっ!?」


 「うん?

シクルが強いんじゃなくて

お兄ちゃんが弱いんだよー。

だって作戦がバレバレだもん」


「……えっ? って言うと?」


「さっきの勝負も……、

お兄ちゃんがカード残り5枚になった時、


 ♢のキング、♡♠︎♣︎の8、♠︎の4


だったでしょ?


♢のキングを抑えながら、

3枚勝負しなかったら勝てる!

……って分かるから、勝つのも簡単だよっ」


(……ちょっ! なっ! 当たってる!?)


「どっ!

どうして俺のカードが分かったの!?」


「そんなの簡単だよー。

2人勝負だもんっ。使ったカードを

全部覚えてたら良いんだよっ」


(……まじかっ!? 天才なのか!?

この子は天才なのかっ!?)


あんぐりと口を開け驚く俺を見て

スリーズが声をかける。


 「こらこらシクル。本気出したら

テルアキが可哀想でしょ。

手加減してあげなさいな」


(……ちょっ! えっ?

何か色んな意味で複雑なんだけどっ!!)


「ス、スリーズさん……、

シクルはトランプ強いんですね」


「うーん、まぁまぁって所ねー」


「えっ?」


「でもママの方がずっと強いよー」


「そ! そうなのっ!? シクルよりも?」


 「うんっ! そーだよっ。それにね!

ママはトランプ以外のゲームも

全部強いのっ。前にママはね……

チェスの国内大会で10連覇して

『でんどーいり』ってのしたんだよっ」


 (……なっ!? 何とっ!?

この家は驚きの乱れ打ちかっ!?

ど、道理で……シクルが強い訳だ!)


「お兄ちゃん、もう1回やろー?」


「……シ、シクル?

ひと言、言わせて貰って良いかな?」


「なーに? お兄ちゃん??」


「……参りました」


……こうして、俺は食後毎晩、シクルに

トランプで蹂躙される事となった。

 

 ──こんな生活が

10日ほど繰り返された。


ミエルに貰った魔法の書から

6つ全ての魔法を習得した。

1日に使える魔法は10回を超え、

倒木による騒音で

魔物に襲われる事も無くなった。


時折、ひょっこりと林から現れる

単体の魔物はエアーで退治した。

この世界では魔物を退治すると、

経験値やお金が数値データとして

加算されていく事も学んだ。


ムーヴを自分にかけて

空を飛べるようになり、

街への飛行移動も可能な迄に上達した。


……今日も仕事を終えて部屋に戻り、

ふと街の事を思い出す。


(……アイツ、元気にしてるかな?)


真っ先に思い出したのはユナの笑顔だ。


特に用事は無いのだか、

思い出してしまうと

無性に会いたくなってくる。


そう思うと、いても立ってもいられず……、

俺はユナに会う口実を作る為、

魔法書店のミエルに、

魔法について聞きたい事を

手帳に書き始るのであった。

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