第3話 ユナとの出会い

──俺は只の重りと化した

勇者の装備を取り外してもらい、

立ち上がる。


戸惑いながらレギム大臣が口を開く。


 「しかし、儀式によって

勇者以外の者が召喚されるとは、

…… 全くもって想定外じゃ。

アリマン王、いかが致しましょうか?」


 「そうだな。

テルアキ殿は勇者ではなかったが、

儀式で召喚された特別な存在。

たぐい稀な僧侶の能力も備えておる。

……そこでテルアキ殿に提案なのだが?」


 「……はい?

何でしょうか? 王様」


 「 僧侶として

修行と研鑽けんさんを積みつつ、

この国でしばらく仕えてみぬか?

さすれば、衣食住と最低限の給金は

保証しよう。……如何かな?」


 (……何とっ!?

これは願ってもない話だ!

すぐに元の世界に戻れる保証もないし

森で野宿生活をする訳にも行かない。

衣食住と収入は最重要課題だ!)


 「それはとてもありがたい話です!

是非、よろしくお願いします!」


アリマン王からの嬉しい提案に

俺は二つ返事で答えた。


 「うむ、それは良かった。

レギムよ、確か森林業長『 クルガーヌ』から

僧侶派遣の依頼が来ておったな?」


 「はい。おっしゃる通りです」


 「ではテルアキ殿。そなたに命じよう。

森林業長のもとで、僧侶として

依頼の任務を全うしてくるのだ」


 「わ、分かりました。

精一杯頑張ってきます!」


──ひと通り話がまとまった頃合で、

兵士の報告が響き渡る。


「騎士団長ランティーユ様、

 魔物討伐の遠征より戻られました!」


 (……えっ? ……女性!?)


長く艶やかな髪、長身で凛とした姿は

「美しい」という言葉そのものだ。


堅固な鎧を身にまとい、

カチャッ、カチャッ……と

音を立て颯爽と歩き、王の前に膝を付く。


「アリマン王、

ただ今遠征より戻りました。

そして、先刻起きた魔物侵入の件も

報告を聞きました。

王の目前にまで魔物が迫るという失態、

……どうかお許し下さい」


「うむ、構わぬ。

怪我人や大した被害が出なかったのは幸いだ」


「有り難きお言葉。

今後ともより一層、兵士達の強化に努めます」


「うむ、期待しておるぞ、ランティーユよ」


ランティーユは

アリマン王の言葉に深々と頭を下げる。

……そして次に、

厳しい表情で周囲の兵士を戒めた。


「それにしてもあなた達!

王の間に魔物の侵入を

許すとは何事ですかっ!!

恥を知りなさいっ! それでも

王国が誇る騎士団の兵士ですか!」


 『 申し訳ありませんっ!!』


 ……ピリッと張り詰めた空気。


しかしこの叱責には厳しさと同時に

上官からの優しさと愛情を感じられる。


 (人望や信頼に満ちた者が行う

『教育』とはこういう事なのだろう……。

これは現実世界で後輩の教育係をする

俺としても学ぶべき振る舞いだ)


……さらに話を続けるランティーユ。


「曹長アリコ! 前へ」


「はっ! はいっ!!」


 (……うん? あいつ、

心なしか涙目になってないか?)


ランティーユがアリコ1人に向けて

重々しい雰囲気で言葉を向ける……。


「アリコよ。

『 曹長』という立場にありながら……


一般兵に指示もせず……


魔物に突き飛ばされ……


負傷した挙句……


こちらの殿方に助けられた……とか?」


「ももも! 申し訳ありませんっ!!」


 ……強烈な重圧がアリコにのしかかる。

 

不甲斐ない曹長の振る舞いに

ランティーユはため息をつきながら、

ゆっくりとアリコの背後に回り……

その肩に手を乗せた。


 ……そして、次の瞬間!!


「この! ヘタレがぁぁっっ!!」


「ひいいっっっ!!

どうかお許しをっ! 母上ーーっ!!」


……バーーンッ!!


アリコは豪速球のように

回転しながら一瞬で俺の目の前を飛び去り

向こう側の壁に突き刺さった。

その光景に一同が驚愕し、

目を点にする……。


(へ、へぇ……。人間って

速く投げれば壁に突き刺さるんだな……。

ん? ……てゆか今、「母上」って言った?)


アリコを投げ飛ばし、

パンパンと手を払うランティーユ。


「アリマン王、報告書を

まとめて参りますので失礼します。

尚、壊れた壁の修理代はアリコが

給金から払いたいと申しております」


(……なっ!? ……鬼だっ!)


立ち去ろうとするランティーユが

優しい母の笑顔で俺に声をかける。


「テルアキ殿と申されたか。

あんな愚息でも愛すべき我が息子。

助けてくれた事に感謝します」


  (……いやっ、その愛すべき息子は

あなたのせいで壁に突き刺さって

死にかけてますけどっ!)


 ──1時間後


僧侶の任務を行う為に出発する段取りは

レギム大臣が整えてくれた。


森林業の集落に向かう前に

まずは街の魔法書店に立ち寄り、

魔法の習得や鍛錬について

話を聞き理解すること。


その後、森林業の集落に行き、

住み込みで僧侶として任務に携わること。


案内役はアリコが任された様だ。

どうも彼とは縁があるらしい。


 (ここからこの世界での

生活が始まるんだ……)


そう思うとワクワクする。


ただただ魔物を倒し続ける

RPGゲームの様なLv上げも良いが、

任務で始まる異世界生活も楽しそうだ。


──しばらく馬車に揺られる。


 アリコの話では、これから向かう

魔法書店の主人は『ミエル』と言い、

アリコの母『ランティーユ』とは

幼い頃から旧知の仲らしい。


 ──魔法書店に到着し、扉を開ける。


……カランカラン♪


どこか懐かしい呼び鈴の音が鳴り響く。


(そう言えば、俺の自宅のレストランも

入口の呼び鈴はこんな音だったな……)


そこに居たのは

長い髪をリボンで束ねた女性。

綺麗な顔立ちに知性的な雰囲気。

紺色のローブを羽織っている。


 「いらっしゃい。

……あら、アリコ君? 久しぶりね。

ランティーユは元気にしてるかしら?」


 「ミエルさん、こんにちは。

それはもう、母は元気です。

先程も壁にぶち込まれました」


 「うふふ。相変わらずの様ね。

……さて、

話は大臣からの連絡で聞いているわ。

そちらが噂の僧侶君かしら?」


 「初めまして。テルアキと言います」


 「私は『 ミエル』。

ココで魔法書店をしている魔女よ。

それからもう1人……。

『ユナ』ちゃーん!

こっちに来られるーー?」


 『ミエルさーん!

お客さんですかーー?』


……明るい声で返事をしながら

店の奥から現れた女の子を見て、

俺は思わず叫んでしまった。


「……結衣っ!!??」


俺の言葉に不思議そうに

キョトンとする女の子……。


「えっ? 結衣?

私は『ユナ』ですよ?」


 (……えっ!?

まさか、こんな事って!

顔立ち、声、俺より少し低い身長……、

「似てる」を通り越して全てが

結衣そのものだっ!?)


戸惑う俺を見ながら、

ユナが明るい笑顔で俺に声をかける。


「ははぁ……、分かりましたよ?

『 前にどこかで会わなかった?』的な

安い手口のナンパですか?

ふっふっふっ。

残念ですが、私はそんな手には

引っかかりませんよ?」


人差し指を立てながら

可愛い笑顔でこんな冗談を言う所も

結衣にそっくりだ。


 (……し、信じられない!

こんな事って!?)


 ──こうして俺はこの世界で、

現実世界で恋人である結衣と

瓜二つの女の子……、

『ユナ』と出会うのであった。

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