ロティールの街編

第2話 俺が伝説の勇者!?

──俺は異世界に召喚された。

フリル王国騎士団の曹長アリコに連れられ、

国王アリマンと会う為に城へ向かう。


 「テルアキ殿、

馬車を用意してありますので

そちらで国王の城まで参りましょう」


騎士団曹長アリコ、従者の兵士と共に

首都へ向かう。馬車の中でアリコから

この国に関する基本的な情報を聞いた。


 ──フリル王国


国王アリマンが統治する王国。

首都はこれから向かう『 ロティール』。

森に囲まれた丘に位置する都で

畜産、畑作、林業が主産業らしい。


首都ロティールの他には


・漁業と稲作が盛んな河口の港町

・僧兵が修行する宗教の街

・鉱物の採掘が盛んな火山近くの街


が存在する王国である。


 自然が豊かで平和な国であったが

魔王『ビアンド』が現れてから

魔物が数多く現れ平和を脅かしている。


そこで『勇者召喚の儀式』が行われ

言い伝えの通り、神殿の畔にある

聖なる湖に空から現れたのが俺だった。


……と言うのが大まかな状況だ。


道中、車窓から景色を眺める。

一面に広がる畑と放牧地。

魔王の驚異がなければ

のどかで平和そのものである。


 「アリコさん、ここは自然が豊かで

 景色が綺麗な所ですね」


 「テルアキ殿、私の事はアリコで

 構いません。 敬語も不要です。

 なんと言ってもあなたは

 伝説の勇者様ですから!」


 (そこまで言われると、勇者らしく

振る舞う方が良いかもしれない……)


 「分かった。ではアリコで。

ところで、あれは何だい?

放牧地で数名集まってるみたいだけど」


一瞬、アリコの顔が曇る。


 「あれは羊が出産をした後ですね。

残念ながら、上手くいかなかった様です。

魔王が現れてからというもの、

特に弱った動物や、亡くなった直後に

死体が魔王の瘴気しょうき

モンスター化する事件が頻発しています」


アリコが隣の兵士に命じる。


「郊外で特異事例1件発見。

報告事項に追加しておくように」


──程なくして首都に到着する。


中世ヨーロッパの様な街並みを抜け

立派な門をくぐり、城内に入る。

馬車を降り、アリコと共に城内を進む。


(ヒソヒソ……あの方が?)

(おぉ、召喚されたという伝説の……)


報告が先行で行われたのであろうか?

すれ違う俺に多くの視線が突き刺さる。

ここまで来ると、いよいよ自分が

本物の勇者となった気分になる。


……思えば自身の過去を振り返ると


副部長、代役、執行部補佐、

補欠のエース、終盤のスペシャリスト

etc……


いわゆる『補助役』ばかりの人生だ。

そんな立ち位置は嫌いではないが、

せめて夢の中くらい『カッコイイ主役』の

気分を味わっても良いでは無いか!?


少しずつテンションが上がり

王が待つ謁見の間へ入る。


──まずはアリコから報告。


 「アリマン王、こちらの方が

儀式によって召喚された

『 テルアキ』殿です」


王冠を被るその風貌には威厳があり

厳しさと優しさの両方の雰囲気を

併せ持つ大柄の男性。


 「うむ。私が国王アリマンである。

テルアキ殿、聖なる湖からの遠路

ご苦労であった。

こちらに居るのは大臣のレギム。

もう1人、騎士団長のランティーユを

紹介したいところだか、

あいにく魔物の討伐に遠征中だ」


王の隣に立つ白髪の老人が口を開く。


 「ワシは大臣のレギムじゃ。

テルアキ殿、そなたは

伝説の勇者として召喚されたのじゃ。

早速じゃが、お主が本物の勇者であるか?

試さしてもらおう」


 (……えっ? 試すって?

勇者確定じゃないの!? )


 「あの……『 試す』とは?

俺は何をすれば?」


 「何、簡単な事じゃ。

我が国に代々伝わる勇者の装備がある。

これらを装備出来ればお主は勇者じゃ。

これ、こちらに用意を」


大臣が従者に用意を命じる。


……とその時!


兵士が慌てた様子で駆け込んできた。


「報告致します!

只今、羊のアンデッドが

城内に1体侵入し暴れております!」


 「何をしておるかっ!?

城内に魔物の侵入を許すなど!

早々に発見し退治せよっ!」


大臣の檄が飛び、緊張が走る。


(……羊のアンデッド。

道中で見かけたヤツだろうか?

本物の魔物が実在するんだな……)


「そっちだ!」

「くそっ! なんて速さだっ!?」

「王の間には入れるなよ!」


魔物を追いかける声が近づいてくる。


……次の瞬間!


バリーーンッ!!


装飾を施した大きな窓ガラスが割れ

黒い影が勢いよく飛び込んできた。

禍々しい瘴気をまとった子羊だ。


 「よりによって王の間に!

そちらの兵士達は王を守れ!

剣でなくボウガンでも応戦せよ!」


大臣が指示を出す。


剣で切りかかる兵士、矢を放つ兵士。

各個応戦をするが

魔物の凄まじい素早さの前に

攻撃が全く当たらない。


「……ぐわっ!!」


魔物の体当たりを受けたアリコが

突き飛ばされ、俺の足元に倒れ込んだ。


「アリコ! 大丈夫か!?」


「はい!

このくらいの傷なら問題ありません!」


どうやら腕の一部を負傷したようだ。


 (……くっ!

俺に出来ることは何かないのか!?

召喚された伝説の勇者だろうが!)


周りを見渡していたその時、

視界の中に点滅する文字を見つけた。


「Command」?


(……これは!?

RPGゲームでよく見る定番のヤツだ!)


Commandの文字に意識を集中する。


「魔法」➡「ヒール(※小回復)」


と文字が現れた。


(……よく分からないがやってみよう。

上手くいけばアリコの傷が治るはずだ)


アリコに両手をかざして意識を集中する。


「ヒール!!」


 優しい緑色の光がアリコの腕を包み込む。


「あっ! 腕の傷が!

……痛みが消えていく!!」


(ザワザワ……、ヒール!?)

(ヒールか!? 修行も無しで魔法を!?)


治癒魔法に気づいた周囲がザワつく。

しかしアリコを回復しても

魔物の脅威は変わらない。


(……待てよ?

物理攻撃は素早い相手に当たらないが、

アンデッド相手に回復魔法のヒールなら

距離無視の直撃ダメージになるのでは?

これまたRPGゲームの定番だ!)


 「よし! やってやる!」


俺は両手を構え魔物を追い、

素早い動きが止まるその一瞬を待つ。


「待て! お主、何をするつもりじゃ!?」


「試したいことがあります!

やらせて下さい!!

……今だ! ヒール!!」


……バシュッ!!


緑色の光が魔物を包み込むと、

魔物はひっくり返り、のたうち回った。

どうやらダメージを受けたらしい。


「そこだ! トドメを!!」


兵士達が魔物を取り囲み

魔物を退治することに成功した。


「ふぅー、上手くいって良かった」


「テルアキ殿! お主、何故ヒールが

あやつに対してダメージとなる事を

知っておったのじゃ!?」


 「何て言うか、これは俺達が元居た世界では

常識みたいなものでして」


 (ザワザワ……おぉ、なんと言う博識!)

 (やはり! あの方こそ勇者様だ!!)


魔物を退治した安堵と

勇者到来の期待に周りがまたザワつく。


 「……さて、ではテルアキ殿、

この剣、鎧、兜を身につけてもらえるか?

これらを身にまとい、

軽々しく動く事ができれば

そなたは勇者じゃ! 」


それらをガチャガチャと身体に当てはめ、

軽く動いてみる。


……そして、次の瞬間!!


……バターン!!


 「どわっ!!!」


身体が強烈な重力に襲われ、

顔面が床にめり込む程の勢いで倒れ込んだ。


(……何だっ、これっ!?

身体が重い! ……動けないっ!?)


俺は地面にめり込んだ顔を横に向け、

か細い声を出す……。


 「あの……、とっても重たいんですけど。

とっても痛いんですけど……?」


大臣が不思議そうな顔で近寄る。


 「……何と……これは、

どうやらお主は勇者ではないようじゃ」


 「えっ? そうなんですか?」


(ザワザワ……えっ? 違うの?)

(伝説の勇者様ではないのか?)


王国を救う勇者の到来!

という期待から一転、周囲がどよめく。


 「ところでお主、

先程はヒールを唱えたな?

他に何か唱えられる魔法はあるかの?」


大臣に尋ねられ、

Commandの魔法欄を確認する。


 「えっと、ヒールだけみたいです」


 「何と! 言い伝えによると勇者ならば

回復のヒール、攻撃のファイアを

初めから使える事となっておる」


「えっ!? ……それは、つまり?」


 「国王!

テルアキ殿は勇者ではありませぬ。

……この者は、僧侶ですじゃ!」


 (……ええっっ!?

勇者じゃなかったの!?)


床にめり込む顔が痛い……。


落胆した周囲の視線が心に痛い……。


床に這いつくばったまま尋ねる……。


 「あの……、この装備、

そろそろ脱いでも良いですか?」


……どうやら俺は、

異世界に召喚されても

補助職気質だったようだ。

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