第14話 呪いと呪い
迎えた夏野高原にある皆藤家別荘での
「……――――むぅ」
高速道を走る車の窓に額を押しつけ、じっと走りさる景色を見てる櫻。その車の中には静寂が落ちている。俺はその傍らで大量の書籍と格闘していた。櫻は助手席側、俺は運転席側のうしろで読んでいるのだが、本当に空気が重い。
「どうだ、この本なんかはかなり史実に詳しいぞ」
そう言ってほいと真ん中に置かれた本の上に新しい本を
……しっかし、こんなけ本をもらったとはいっても、絶対に読みきれないぞ。
「大丈夫だ。まだまだ時間はある。なんなら寝る間を惜しんで読んでおけ」
こともなげにさらりという薔さん。言ってることもやってることも
だってさ、会うたびに本を渡してくるんだよ?
一日一回以上。一番多いときで朝練のとき、授業内、ランチルーム、生徒会のとき。櫻が一回、本を覗き込んだんだけど、即座に顔を真っ青にして逃げだすレベルの内容だから、鬼畜すぎる。
「そういえばこないだ、笹木野さんに会ったって聞いたけど、もしかして、今回の話をするために?」
助手席に座ってる茜さんがそういえばとガイドブックを開きながら尋ねてきた。なんだこの人、完全に観光に行く気じゃないか。
「ええ。それと近況報告です。いろいろ融通してもらうかわりにこちらの報告を時々」
「そうなの。じゃあ、総花君たちはあの人のこと、
近況報告って言ったとき、茜さん、少し眉をひそめたなぁ。もしかして、こちらからの情報が筒抜けになってると思われてるか?
「俺は『スーツ』ですね」
「私は『喪服』です」
横から櫻がひょいと答える。
「ちなみに、茜さんたちは?」
「……本当はあまり教えたくはないけど、私は『軍服』」
「……――同じく『白いティーシャツとデニム地のズボン』」
茜さんも薔さんも渋々教えてくれた。なるほど。たしかにあまり
笹木野さんの顔や背格好は誰しも同じものに見えるが、あのおっさんが着ているもの、身に着けているものは誰一人として同じものを見ることが
とはいえども、ここにいる四人はある意味で運命共同体であり、もし誰かに
「なんで、笹木野さんはあんな呪いをかけられてるんでしょうね?」
父親から聞いてるのは二つ。
皆藤家の直系には必ず現れるというもの。だから、理事長もなにかしらの呪いがあるはず。
そして、その呪いはなにかを代償にして解除できるらしい。ということは、まだ笹木野さんはそのなにかを代償にしてまで呪いを解除していない、できないということだ。
「そうね。海棠の力が大きくなりすぎたからかしら」
茜さんがしみじみと呟く。それにかすかに同意する薔さん。どんな逸話があるのかと思ってると、薔さんがそれを話しはじめた。
「そうだな、お前たちにも知っておいてもらったほうがいいかもな。
その話を聞いて、少しだけ後悔した。いや、まさか文字通りの『呪い』だったのか。その手の話は嫌いではないが、聞いているとやはり気分が重くなる。なにか明るい話をしてほしい。
「まあ、でもそのおかげで首領を守る《十鬼》の体制が整えられたといっても過言じゃないわね」
「そうだな」
茜さんの体制が整えられたという発言を聞いた途端に顔を赤らめる薔さん。あんた、わかりやすなぁ。
「そういえば、なんで私たちは車を使ってるんですか?」
寮を出発してから、さっきの笹木野さんのくだりまで黙っていた櫻が突拍子もないことを聞いてきた。というか、うん。今更?
それには茜さんも薔さんも口を開けてぽかんとしてる。
お前、聞いてなかったのかよ。
「いやだって、車って一番狙いやすいじゃないですか? ほら、あそこにいるヘリや追いこしていくあの車からだって、腕がいい人だったら私たちなんて一発ですよ?」
櫻の指摘にそれはねと茜さんが解説しだす。
「車ならほとんどの場所は戦闘不可領域をとおるけど、電車やバスはそれが難しかったの」
その解説に納得した櫻。うん。本当に聞いていなかったようだねとしみじみ思ってしまった。
「ところで、茜さん」
途中の休憩所で薔さんと櫻が昼ごはんの買いだしに行ってる最中、茜さんに気になっていたことを尋ねる。
「
「どういうこと?」
「学園では二人いたはずの襲撃者が、俺たちを襲ったときには一人になってる。もしこれが本当に同一犯じゃなければ別の話になりますが、おそらく同一犯だと思ってます。とすると」
「そうね。
「ええ」
茜さんはその可能性に思いあたったようだ。二つの襲撃現場は近い。可能性は捨てきれない。
「とりあえず、難しいことは向こうについてからしか難しそうね」
「……ええ」
薔さんと櫻が戻ってきたようだ。楽しく食事をとりますか。
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