第6話 生徒会の約定
「ようやく来たか」
夕暮れの日差しを受けながら机に腰かけて本を読む藍色の長髪のイケメン。一房だけ三つ編みにされた髪がたなびいている。すごく絵になる様だった。
「綺麗……――」
隣で櫻がぼそっと呟く。たしかに同性の俺から見ても綺麗な人だ。
「
茜さんはため息とともに男性に文句を言う。
「知るか。授業後に来させると聞いていたのに、どこで道草食ったのか、遅くなったことには変わらんだろ」
「だったら、それを言った本人に文句言ってちょうだい。その人が二人に年がいもなく喧嘩売ったんだから」
「……――はぁ。そういうことか」
ポンポンと進んでいく会話。俺と櫻はついていけずに黙っている。しかし、この男性、茜さんから薔と呼ばれていたな。ということは。
「あなたが皆藤 薔さんですか」
二人はまだいろいろ言いあっていたが、突然の割り込みにお前、知ってんのかと少し驚かれた。
「ええ。父から武勇伝を伺っております」
武勇伝という単語を聞くと、さらにしかめっ面になった。皆藤家主催の若手山岳サバイバル会のメンバー五人、二十日間、山にこもるはずだったにもかかわらず、三日目で仲間に置いていかれた挙げ句、熊を仕留めて帰ってきたという話なので、あまり思いだしたくもないだろう。
しかし、養護教諭に生徒会顧問、二人も皆藤家の人間がここにいるというのは意図的であっても、出来すぎている気しかしない。
「私は帰るわ。まだやらなきゃいけないこともあるから」
茜さんはじゃあまた明日ねって言って去っていく。また明日もあの人と会うのか。悪い人ではないんだけど、少しテンションというか雰囲気が苦手なんだよなぁ。
「で、改めてよろしく、だ」
薔さんはにこりともせずにそう挨拶した。
「一応、生徒会顧問と一年生世界史の教員をしている。それと同時に皆藤の家にて、《十鬼》の第三座を拝命している」
続けられた自己紹介におもわず息をのんでしまった。
《皆藤十鬼》
桁外れの武術を極めた皆藤家の中でも、さらに実力者だけで揃えられる十人。その実力は本物で、彼ら十人だけでどこかの家ひとつをつぶすことが可能だというし、実際にその記録も残っている。その一方で、公平さや中立性を求められることでも知られており、《花勝負》の審判に任じられることが多い。
そんなスゴ腕の人の登場に俺は呆気にとられた。もしかしてとある考えに至り、薔さんに尋ねる。
「もしかして、茜さんも《皆藤十鬼》ですか?」
「え?」
俺の推測に嘘でしょと驚く櫻。いや、確証はねぇがな。しかし、その推測はあっていたようで、よくわかったなと頷く薔さん。
「茜は《十鬼》の第一座。十五歳のときからその地位を譲ってねぇ」
羨望のような感情を入れて語る彼にとって、茜さんはどんな位置付けなんだろうか。いや、俺が考えるべきはそんなことではないな。
「じゃあ、私たち、皆藤のツートップを相手にしたっていうことなんだねっ」
なぜか嬉しそうに話す櫻。お前、マゾヒストか。
「……――そうですか」
「それがなんだ? あいつが気になるのか」
俺の質問に訝しむ薔さん。いいえと否定する。
「むしろ、今まで疑問に思っていたことに納得しただけです」
「ん、なんだそれ」
「いえ、こちらの話です」
薔さんは探るような視線を送ってきたが、にこやかな笑みを浮かべて話すのを拒否する。
そんなたいした話じゃないんだけどね?
「そうか。で、多分、流氷さんからなんにも聞いてないだろうから生徒会についての説明を軽くしておく」
俺の『話』に興味がなくなったらしい薔さんが立睿武芸高校の生徒会について話しだす。しかし、この人、理事長に対して辛辣だなぁ。茜さんのことを話すときと口調が全然違うじゃないか。
「生徒会長は二人とも知っているとおり、年度ごとにおける武芸科の実技トップが任命される。これは武芸高校がもともとは武芸百家のためのものだったことが由来だ。今年度、一松 櫻、お前が任命されたのは、『実力の一松』の首領であることからであり、前年度までの生徒会長、棒術の
俺と櫻を見ながら淡々と話していく薔さん。どうやら俺が巻き込まれた側なのに気づいてくれたようだ。
「あとはそうだな。この面倒な決め方をする生徒会だが、罷免の仕方もかわっている。生徒会役員の罷免は一般科、武芸科の生徒ともにでき、理事長の承認さえ得られれば、本人の同意なしにいつでも罷免される。だから、総花は自分の身のまわりに気をつけろ。櫻のそばにいるのならば、それぐらいの覚悟を持っておけ。で、生徒会長は武芸科の生徒しかそれができない。しかも理事長の承認だけではなく、自らが戦い、勝たなければ新しい生徒会長と認められない。ちなみにその成功率は寝静まったあとの道場を破るのと同じくらいと言われているな」
朗らかに笑いながらそう言う。どうやら互いにこの先はいばらのような道だな。
「で、そいつら、生徒会長の寝首をかく奴のことを
薔さんの言葉になるほどと頷く俺ら。花札においてどんな札にも化ける札、それが鬼札だ。だから、最弱だと思っていても最強になるかもしれないという意図で名づけられたのだろう。
「ひとつ質問してもよろしいですか?」
すると櫻が質問を投げかけた。薔さんはなんだと質問するように促した。
「もし仮ですよ、仮に私が《鬼札》と呼ばれる人に負けた場合、生徒会のメンバーはどうなるんですか?」
「そんなことは言うまでもない」
その疑問を薔さんはばっさりと斬る。
「全員罷免だ。それこそ問答無用にな」
そんなと言葉にならない言葉を櫻の口からもれる。
「だからこそ、一松 櫻、強くいろ。日ごろから鍛え、背後を取られないよう、そして常に様々なことに気を配らないといけない。だから伍赤 総花、お前は常に彼女の側にいて、様々なことを見ていなさい。いいな」
薔さんは俺らにそう言いわたす。俺らはそれぞれ頷き、わかりましたと言った。すると、満足そうに薔さんは穏やかに笑って宣言する。
「では、ただいまより第二百五十七代立睿武芸高校生徒会を発足する」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます