10話.[居続けるだけだ]
「裕美子、ちょっとこっちに来て」
「明音? 別にいいけれど」
どうして小声で、どうしてそんな隠密行動的なことをしているのか。
彼女に付いていくとそこはただの廊下だった。
どうしてこんなことを? と疑問に感じているとき「あれ見て」と彼女が言ってくる。
「裕二君と女の子ね」
「呑気に言っている場合じゃないよ、モテるの忘れたの?」
もしそうならそれまでではないだろうか?
手を繋ぐこと、抱きしめること、キス……はされてしまっている状態ではあるが、他の子が好きになったということなら止めることはしない。
もうそうなってしまったらなにを言っても届かないからだ。
「あ、キスできたからって油断しているな?」
「違うわよ」
「まあいいや、私が突撃して止めてくるから」
彼女は歩きつつ「もう十分以上もああしているんだから」と。
楽しくなったら続けることだろう。
私は別に見る必要もないから教室に戻ることにする。
彼女になったからってなんでも独占できるわけではないのだ。
「おかえり」
「ええ」
それに学校では廉君といる方が気が楽だった。
彼はこちらが困るようなことを言ってきたり、またはしてきたりはしないから。
「廉君はいい子よね」
「また裕二に怒られるよ?」
「事実じゃない、あなたと同じクラスになれて良かったわ」
いつまでもやられっぱなしの私ではない。
仲良くしたいなら違う子とすればいい。
縛るつもりはないから縛ってほしくはなかった。
「裕美子……助けてくれ」
「どうしたのよ」
「なんか明音に怒られたんだ、俺はただ一年生の女子と話していただけなんだけどさ」
「私のためを思って動いてくれたのよ、だから責めることはできないわ」
「なんで裕美子のためなんだ?」
話をしてみたら「そんなことをするわけないだろっ」と怒られてしまった。
別に構わない的なことを言ったら余計に怒られたうえに、廉君にも「裕美子……」と微妙な顔をされてしまい少しだけ情けない気持ちになった。
「今回の件に関しては裕二が悪い、ね、廉もそう思うでしょ?」
「うーん、女の子と話す機会はあるからなあ、それこそ僕は裕美子と話をしたし」
「正当化するつもりはないけどそうだろ? 異性と全く話をしないなんて無理だろ」
確かに話しかけられたら無視なんてできない。
する必要もないからだ、それは明音だって理解してくれているはず。
「まあいい、悪かったよ」
「構わないわ」
「むっ、ちょっと来い」
私も学んだから同じようにはやらせない。
廉君の腕を掴むことでふたりきりにはならない作戦だ。
「別にしようとしてねえよ、あの子に言ってもらおうと思ったんだ」
「どういうこと?」
「ほら、浮気じゃないってことを証明できるわけだろ?」
「疑っていないわ」
廉君に謝罪をして教室に戻る。
「素直に言えて偉いわね」
「子ども扱いするなよ、あと、されて嫌な思いをしたのに浮気なんかしねえよ」
「ええ、分かったわ」
なら私はこれまで通り彼の彼女として居続けるだけだ。
彼もそれを望んでいるのだから悪いことではない。
それどころか、そうあればあり続けるほど彼は喜んでくれることだろうから。
08作品目 Nora @rianora_
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