09話.[見えないところ]

「裕美子ー」

「明音」


 出るべきかどうか真剣に迷った。

 いや、友達が呼んできているのだから本来であれば出るべきだ。

 でも、今日は休日で、今日は珍しくお客さんが大量にいるから行きづらい。


「お、どうやら廉と裕二もいるみたいだな」

「お、お父さんが代わりに……」

「うるさいから家の方に行け」


 え……。

 そういうことで今日は終わりになってしまった。

 せっかく七月になって手伝いができたというのにいきなりこれって……。


「もう、あなた達のせいで終えることになってしまったじゃない」

「「「えぇ……、友達よりもそっち優先?」」」

「あ、当たり前じゃない」


 うっ、裕二君の視線が突き刺さる。

 明音はこちらの頬に指を突きつけつつ「嘘だよね?」と聞いてきているし。

 廉君だけはそのふたりを止めようとしてくれていた、やはり廉君が一番だろう。


「廉君がいてくれて良かったわ、ひとりでこのふたりの相手をするのは大変だから」

「裕美子の力になれて良かったよ、ただ、ふたりの顔が怖いことになっているから……」

「知らないわ、廉君だけがいい子だもの」


 事実だから謝りもしない。

 怖い顔も廉君の方をずっと見ることで上手く躱す。


「ま、せっかく集まっているんだからやめようか」

「そうだな」


 そして頑張ることも無駄ではないことを知る。

 廉君にお礼を言って、とりあえずは全員分の飲み物を用意した。


「裕美子、今日は沢山お客さんが来てくれてて良かったな」

「ええ、暑い中敢えてとんかつを食べに来てくれる人達がいてくれてありがたいわ」

「暑い中当たり前のように手伝いをして裕美子は偉いなー」

「お父さんには敵わないわ」


 ある程度したところで廉君と明音が楽しそうに会話をし始めた。

 私はそんなところを微笑ましい気持ちで見ていたのだが、


「な、なによ」


 わざわざ見えないところに連れて行かれて困ってしまう。


「なんで廉の味方ばかりするんだよ」

「……事実、廉君の方が、ん!?」


 彼は……したうえにこっちを強く抱きしめつつ「裕美子の彼氏は俺だろ」と。


「わ、分かったから離してちょうだい」

「ああ」


 はぁ、恋というのもいいことばかりではないことを知る。

 以前までなら拗ねるだけで終わっていたところだけれど、今度はそうはならないから。


「あ、ふたりでなにをしてたのー?」

「裕二君は独占欲が強いのよ」

「それは分かってるよ、裕二は毎日『裕美子に手を出すなよ』と言ってくるし」


 勘弁してほしい。

 なにを勘違いしたのかそれで自慢げな顔になっているのが彼だし。


「裕美子、裕二になにかされたら言ってね、ぶっ飛ばしてあげるから」

「ふふ、ありがとう」


 だからこそふたりがいてくれて良かったと言える。

 私ひとりでは彼の相手をするのは大変だからと内で呟き、彼の腕をつねったのだった。

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