07話.[手伝いをしたい]

 役に立てるよう頑張ろうと決めていた自分だったが7月まで手伝わなくていいと翌朝言われて凹んでいた。

 でも、父がそう言いたくなる気持ちも分かる。

 だって私が手伝うということはその度にお小遣いというかお駄賃が発生するからだ、つまり経済的な意味で言えば逆効果というわけで。

 少なくするか、寧ろないぐらいでもいいと言っても聞いてくれないのが両親だから全て自分が悪いと言われたくはないと自己中は思う。


「え、お手伝い禁止になったの?」

「そうなのよ、最近はあまり人も来てくれなくて」

「なるほどね、裕美子がいても過剰になっちゃうのかな」


 こうして明音とゆっくりふたりで話すのは新鮮な気がする。

 彼女は裕二君や廉君とはいてもこちらとはいなかったから尚更。


「あ、それなら今日、お家に行ってもいい?」

「いいわよ、特になにもないけれど」


 どうせならと続きは家で話すことになった。

 あと、彼女から正直なところを聞いておきたい。


「で、裕美子は裕二のことどう思っているの?」


 だったのに、私が逆に聞かれる立場になった。

 好きかどうかは分からないものの、一緒にいられて落ち着く相手だとは答えておく。

 帰るときになると寂しくなると答えたらにやにやとした笑みを浮かべられてしまったが。


「あ、私? ないよ、裕二は友達ー」

「それなら廉君は?」

「廉も友達っ、一緒に盛り上がれるだけでいいんだよ」


 そういうものかしらと内で呟く。

 女として生まれてきたからにはと私でも興味があるぐらいだ。

 これまでは親しい友達がいなかったらできなかっただけで、いまだったらできるかもしれないというわくわくがあった。


「どうせなら裕美子ともわいわいしたいんだけど」

「え、それならしてよ、全然来てくれないじゃない」

「違うっ、普通は裕美子からも来るものなの!」

「それなら遠慮しないで行くことにするわ、女の子同士で仲良くできないのなら男の子となんて仲良くはできないだろうから」

「でも、その前に裕二と仲良くしないとねー!」


 意識して動くと大抵失敗する。

 そして、嫌われることよりも好かれることは難しいことだ。

 あれ、違うか、彼がどちらかと言うと動く側なのか。


「裕美子はどんなことをされると嬉しいの?」

「ストラップを買ってきてくれたのは嬉しかったわ」

「ああ、そういうさり気なさは確かにいいかも」


 私が仮に裕二君からされて嬉しいことってなんだろうか。

 よくある男女のあれとして考えるなら、手を繋ぐとか、頭を撫でられるとか、抱きしめられるとか、そういうのは簡単に思いつく。

 でも、そういうのを利用して仲を深めるのは違う気がすると。

 それなら極論を言ってしまえば彼が側にいてくれれば十分?

 よく考えたら彼とはすぐに普通に話せるようになったぐらいだ、こんなことは中々ないと言ってもいい。


「明音だったらどんなことをされると嬉しい?」

「この前の裕美子みたいに素敵なんて言われたら嬉しいかな」

「あなたは素敵だもの、お世辞なんかではないわよ?」

「分かってるよ、裕美子ってお世辞は言わなさそうだもん」


 彼女はこちらの頬を指で突きながら「この前の裕二にはっきり言っているところを見れば分かるよ」と重ねてきた。

 そうか、あなたといたくなかったからとはっきりぶつけて、彼もまた気にしないと言ってきていたか。

 普通に考えればあれで関係は終わっていたというのに、どうしてこうなったのかが分からないままだった。

 とにかく彼は私のことを好いていてくれて、今回私はそれを突っぱねたわけではないということだけははっきりしていることだ。


「頑張ってね」

「ええ、ありがとう」


 どうすればいいかは分からないままだからありのままでいよう。

 そもそも考えたところで大した意味はないから。




「え、掃除がしたい?」


 急に誘われて手伝うことになった。

 校舎内の汚れが気になったということらしい。

 手伝いがない自分としてはいい誘いだ、相手が廉君というのもいい。

 掃除のときは彼とやるのが1番だから。


「床とかもさ、湿気のせいで汚れているし」

「そうね、掃いたり拭いたりしていきましょうか」


 これも押し付けになってしまうかもしれないが、これは誰かのためにもなることだから悪いことではないだろう。

 今日は頭の中をごちゃごちゃにする必要もないからゆっくり丁寧にやっていく、なんなら20時ぐらいまでやってもいいぐらいだ。


「裕美子がいてくれて良かったよ、仮に掃除をしているんだとしてもひとりでしていたら罰ゲームとか言われそうだし」

「言わないわよ、私が見たら偉いと感じるだけよ」


 彼は「それは裕美子ならね」と重ねる。

 まあいい、これで落ち着いてできるということなら学校側としてもいいだろう、綺麗になるのだから。

 ……本当に20時ぐらいまでやることになった以外は私個人としてもいい時間となった。


「あ、もう真っ暗だね、家まで送るよ」

「大丈夫よ、ひとりで帰れるわ」

「駄目だよ、裕二に頼まれているから送らせてほしい」


 それならこのことも言っておいたということか。

 だったら手伝ってくれれば良かったのにと思ってしまうが、任意だから強制なんてできないかと己の中で片付けておく。


「裕二が裕美子のこと好きなんだってね」

「ええ、そういうことになるわね」

「なんでだろうね、1年生のときは全くと言っていいほど一緒にいなかったのに」


 それはこちらのことを忘れていたのだから仕方がない。

 ただ、なんでだろうねと言いたくなる気持ちはよく分かる。

 と言うより、廉君よりもその好意を向けられている私の方がそう感じて当然と言うべきなのかもしれない。


「なんかこのタイミングで言うとそれっぽく感じるかもしれないけど、裕美子と同じクラスになれて良かったよ」

「それはこっちもそうよ、あなた達と話せるようになれて良かったわ」

「うん、僕も同じ。裕二は友達だからさ、よく考えてあげてね」

「ええ、そのつもりよ」


 あっという間に家には着いた。


「ありがとう」

「こちらこそ、それじゃあね」

「ええ、気をつけて」


 早く夏になってほしい。

 また手伝いをしたい。

 後は単純にまた友達にとんかつを食べてほしかった。

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