第6話:温泉の旅【前編】

「ここがおいらの町、『アルフ』だぞ」


大樹を中心に木の上に家が建てられている。


「簡単に言えば精霊の町だ。精霊って言っても種族は沢山いるぞ。エルフ族、ピクシー、プーカ、ヴァン神族もいるぞ」


「ちなみにおいらはピクシーだ」


横文字ばかりの種族名に頭が追いつてこない。

というか、聞く限り人間はいないみたいだが、俺、目立つ事になるんじゃ。

うん、服装はザ、村人だ。武器も持っていない丸腰、一文無し。

大丈夫、いける!


「あら、ロビン、どこいって・・・!」


ロビンに話しかけてきた精霊は俺を見るなり即座に戦闘態勢に入った。

まぁ、何となくはこうなる事を予想してた。それにしても想像の倍、早かったな。目立つ事になるの。


「待て待て、タクミは悪い人じゃない。彼方から来たみたいだ」


ロビンが説得をしてくれる。しかしエルフたちは警戒を解かない。


俺、丸腰なんだけど。弓とか槍とか物騒な物、構えないで欲しいな。

とか言って警戒を解いてくれそうな雰囲気ではないな。


「やめなさい!」


人生の終了を悟ったその時、低い声が響き渡った。


奥から髭を長く生やし、背が丸まって杖を持っている爺さんが出てきた。


「私はここの長、ルイラット・オーディンだ」


「初めまして、タクミ・クリハです」


長から自己紹介をされたんで自己紹介をする。


「それよりロビン、どこ行っていたんだ!」


「んぐッ!」


ルイラットさんがロビンを叱る。ロビンは場が悪そうに黙り込んでしまった。


しかし、ルイラットさんの圧に負けて


「えっと、シティーに魚を取るように言われたんだ」


暗い表情を浮かべるロビン。


「お、俺はそ、そ、そんなこと言ってねぇぞ!」


また奥から声がした。ロビンが言うシティーのようだ。

というか明らかに動揺しているのが分かる。


「シティー!あとで私の元に来なさい」


ルイラットさんは怒りを抑えるように低く言った。


「はい・・・」


シティーはそのまま縮こまるように去っていった。


「悪いね。タクミ殿。君とは話がしたいから今晩、君の部屋に行くよ。彼方の話だ」


「わかりました」


ん?という事は今晩の寝床は確保できたのでは?


彼方事をすっかり忘れていた俺は心の中で舞い上がる。

そう、彼方など微塵も知らないのに・・・。


「ロビン、タクミ殿を部屋を案内してあげなさい」


「わかった」


ロビンが俺の部屋に案内してくれた。


大樹の木々は大樹よりかははるかに小さいが、それでも一人部屋の家々が建築されている。


古木でできた階段は安心させる丈夫さを保っている。


「ここがタクミの部屋な」


一つの部屋に入る。


決して広くはないが一人で過ごすには十分な広さでベットもある。転生して初日の夜は快適に過ごせそうである。


それより、さっきから髪や服がカチカチになっている。


きっと海に入ったから、塩分が付着したのだろう。風呂に入って洗い流そう。


「風呂はどこにある?」


「ふろ?なんだそれ」


・・・


まじで・・・・・・。


一日二日、普通に過ごして風呂に入らない事は慣れてはいるが、海に入った後に風呂に入らないのは精神的に無理がある。


「な、なら綺麗な川とかないか?水浴びをしたいんだ」


「それなら、いいとこ知ってるぞ!」


ロビンは嬉しそうに俺を案内してくれた。海とは反対方向に向かって歩いていくのだが途中で道から外れる。


草が大量に生い茂っているせいで俺の足に蔓が巻き付いてくる。


ロビンは空中に浮いているので俺の苦労を全く知らない。


途中で崖を上らされるし、猟師の罠に引っ掛かるし、ロビンが蜂の巣を刺激して、蜂に追いかけまわされるし、散々な目に合いながらたどり着いた場所は、濃い霧に包まれていた。


「大丈夫なのか?」


不安になってロビンに尋ねる。


「大丈フだっへ」


蜂に刺されて顔もぷっくりしたロビンが説得力の欠片も感じ取れない返事を返される。


そして茂みを抜けるとそこは


「ここは・・・」


「ふふッ!川より断然気持ちい場所だぞ!」


自慢げに腕を組んでいったロビン。


「天然温泉だ!」


夕方になるころにたどり着いた場所は天然温泉が湧き出る場所。どうやら近くに活火山が有るみたいだ。


「てんねんおんせん?」


「簡単に説明すると地中からお湯が出てる場所だよ」


前世で何度も温泉に入ってきた。群馬県の草津温泉、兵庫県の有馬温泉、岐阜県の下呂温泉、北海道の登別温泉など沢山の温泉を巡ってきた。


「それより、速く入ろうぜ!」


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