第5話:出会いの旅【後編】

咳き込む小人はやっと目を覚ました。

「あれ、ここどこだ」


それはこっちのセリフだと言ってやりたいが、さっきまで溺れていたのだから仕方がないので、その言葉を飲み込んだ。


「目が覚めたか?さっきまで溺れてたんだよ、お前」


状況を説明すると小人は俺を見て


「おいらを助けてくれたのか?」


「そうだが?」


どうやら溺れている間の記憶はないようだ。


「それより、小人さんよ。この辺に村とか町はないか?」


「ああ、それならこの森を抜けたらって、誰が小人だ!おいらはれっきとした精霊だ!」


精霊だったようだ。それにしてもナイスノリツッコミ。


「それは悪い。俺この世界について全然知らないんだ」


「え?」


不思議そうに俺を見た。そして、俺の周りを飛びながら観察する。


「記憶がないのか?」


記憶がないも何も少し前にここに来たばかりなんだが、まあ、そういう事にしておこう。


「ああ、そうなんだ」


「名前は?」


「名前?」


前世では栗葉匠海だったけど、今はどうなっているのだろうか。


「名前も分からないのか?ならステータスを見ろよ」


そう言われステータスを見ようとするがどうやって、ステータスを見るのか分からなかった。


「どうやって見るんだ?」


「え?えっと、〈ステータス・オープン〉」


精霊は右の手のひらを上に向けながらそう詠唱した。


すると精霊の右手に透明な板が浮かび文字が書かれてある。

ただ文字が読めない。何て読むのだろうか。


「誰かに見せるときは右の手のひらを差し出さないといけないが、そうでなければ普通に詠唱するだけで充分だ」


説明を付け加えてくれた。なるほど、早速やってみよう。

右手を精霊に差し出し詠唱する。


「〈ステータス・オープン〉」


すると、目の前に精霊と同じような板に文字が書かれてあった。


「タクミって言うんだ。出身は日本?どこだ?」


頭を抱える精霊。


「簡単に言えば東の方に島国だよ」


「え?ここが一番東なんだけど」


やばい、詰んだ。どうする、転生したことを言うか?いやでも信じてくれなさそうだ。どうする。どう言い訳しようか。


「まさか、彼方から来たのか?」


彼方?なんだそれ。


「そういえば、人食い波から助かる方法はなかったのになんでおいらは生きているんだ?やっぱり彼方の人間か?」


「ちょっと待て彼方ってなんだよ。それに人食い波って何の話だ」


精霊の話に付いてこれなくなった。


「彼方っていうのはあの先の事をいうんだよ。人食い波はさっきおいらが流された波の事」

精霊は海の方を指しては、波の話をする。


なるほど、文明の発達が地球よりはるかに遅れているわけか。


彼方とは簡単に言えばこの海の先の事を言うらしい。ニュートンの法則が無いのがこの時点で分かった。


人食い波は離岸流を指しているようだ。


「そうだな。俺は彼方から来たみたいだ。それでなんだが町まで案内してくれないか?」


「そうだな。おいらも腹が減ってきた。案内するよ、タクミ」

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