第5話 始まる
_旧KMS社
アルドたちは入り口の影に隠れ中を覗いた。
大きな画面のコンピュータの前に一人の男。その奥に横たわっている5人ほどの人間。気を失っているのか微動だにしていない。その全員には電子回路剥き出しの手枷がかけられている。
ふと、コンピュータを操作する男の手が止まった。伸び切った藍色の前髪からギロリと眼が動く。血の滲んだ白目と光のない瞳は入り口の方を向いていた。
「あー。結局来たのかよC〜O〜A〜」
_と、お子様たち、と付け加え、間延びした口調で声を張る。姿を現したアルドたちを流して見ると、ハッと笑い、雑に羽織ったシワだらけの白衣を翻し、影に隠れていた少年を引っ張り出した。
「や〜っぱあの時こいつを消せばよかったかなあ」
「キアル!」
楽しげに顔を歪ませる男と反し、キアルは目を泳がせ恐怖に震えていた。男の無骨な手がキアルの頭に置かれる。
「こいつ、姉ちゃん取られて生意気にも着いてきやがってさあ…。ま、ちょーっと殴ったら泣いて喚いてスラムに逃げ帰ってよお!その時だよな〜その時消してればよかったよなあ」
アルドは自身の拳に力が籠るのを感じた。
許せない。今すぐに飛び出して少年を助けたい。
だが、男には隙がなかった。男はへらへらとしながらもこちらの行動を伺っている。彼自身が戦えるのか、それとも何か秘策があるのか。その心意は不明だが、今は飛び出してはいけない。その場にいる3人にはそれが分かっていた。
彼らが何もしてこないと見た男は、視線をセティーに移し、続けた。
「でもよお、政府に見捨てられたクソの掃き溜めのスラムに、政府の奴が来るなんて思わねえだろ普通。お前、妙にこいつを気にかけやがって…でもおかしいな、エルジオンでこいつが余計なこと漏らす前に回収したんだが。なんでここが分かった」
「そんなことはどうでもいい。大人しく手をあげそこの人たちを解放しろ」
「なんでそんな命令口調なんだ?お前はただの人間なのに」
無垢を装った満面の笑み。
その男と対峙する険しい顔。お互い視線をズラすことなく睨み合い、様子を伺っている。
突如男が「あ!」と声を上げ、笑みをいっそう深くした。
「お前…こいつの姉ちゃんに話を聞いたな?あいつ生きてやがったのか!魔力を流し込めたまでは良かったが、体が適応できなかったみたいでなあ、ふらふら合成人間の住処に行くもんだからほったらかしてたんだ。もう死んでるのかと思ってたぜ!」
…男は、病室にいた少女のことを言っている。彼女の命を、嗤っている。
天を仰ぐ男にどうしようもない怒りが生じ、抑えきれなくなっていた。殺意にも似たこの衝動に従い剣を握った時、隣の影が揺らぎ、キンッと鋭い金属音が響いた。
緋色のリボンが宙にはためく。
気付けば武器を取り出したジェイドが男に襲いかかっていた。
「絵に描いたような下衆だな」
「あー?なんでお前がそんなキレてんだ?」
それで槍の攻撃を弾いたのか男の手には短剣が握られており、それとは反対の手は槍の柄を固く掴み、動きを封じている。
怒りを孕んだ赤眼を受けながら、男はジェイドに顔を近づけ、それをじっと見た。そして「わかった」と口角を上げた。
「この風貌…”あの人”が言ってた成功例だな!こりゃ奇跡だ!お前を調べれば俺の実験も成功するなあ!」
「…ッ!」
ジェイドは男の腹を蹴り飛ばし、離れた手を払い除けるよう槍を振るった。その勢いのまま、バランスを崩した男目掛け槍先で突く。
刹那、男の背後から鋭利な何かが突き飛んできた。
瞬時に反応したジェイドの頬をかすめ、応戦しようと駆け出していたアルドたちの足元に突き刺さる。
(これは…種?)
ズレた槍の軌道は男に触れることなく虚を刺した。
「あっぶね〜ッと!」
男はすかさずカウンター仕掛けるも、ジェイドは間一髪でかわし後退する。アルドたちも彼に並び、男と、その奥にいる存在に注意を向けた。
銀色をした、植物を模した怪物。そしておぼつかない足取りで現れる男。彼から発せられる唸り声の様な意味不明言語。
「…あの男!」
エルジオンのイシャール堂前で見かけた男、突如怪物を引き連れ出現し、キアルを攫って消えた男だ。
アルドの胸に嫌な予感が走った。
白衣の男は彼の頭をバシバシと無遠慮に叩き、楽しげに話す。
「こいつ、ドールちゃん。魔力流し込んだら脳が壊れちゃって、今は埋め込んだチップで俺の操り人形」
「、あ…、」
「脳を刺激して感情をぐちゃぐちゃにしたら、こんな風に銀の化け物が誕生、ってわけ」
「…ッ、なんて卑劣な…!」
無理矢理実験を施し、彼の体を弄び、挙げ句の果てに操る…。人の命、人の体をなんとも思っていない男を、アルドは_アルドたちは許せなかった。
「ジェイド…と言ったな。君なら彼の中にある魔力も消せる、と思っていいのか」
怒りに声を振るわせるアルドの横で、冷静にセティーは尋ねた。
「…ああ。だが、あいつの脳まで元に戻せるとは限らない」
「…分かった」
ジェイドの返答を聞くと、鋭い眼光を男に向け、武器を握る手に力を込める。
セティーは何をしたいのか、何を望んでいるのか。そのために自分は何をすべきなのか。この短い会話の中で、彼らはそれを理解した。
「行けえ!化け物!」
男が唸ると共にもう一体出現した怪物は、鋭利な種を飛ばしながらアルドたちに襲いかかった。
♢
「キミたち強すぎでしょ」
変わらず鷹揚な男をよそに、アルドたちは怪物らを切り払った。消滅する敵、その隙間をジェイドは駆け、男の隣に立つ”彼”に手を伸ばした。
「あ__________」
閃光が弾け、彼が倒れる。不明瞭な言葉を発する口も、焦点の合っていない目も完全に閉ざされた。
大学病院の病室で見た少女とジェイド。あの時と同じことをその男にも施した。今は気絶しているだけ。目を覚ました時にはきっと、元に戻っているはずだ。
その光景を目にした白衣の男は理解したのだろう、自身が操っていた人間から魔力が消滅したことを。
「なっ、お前そんなことできんのかよ!?」
「こんな雑に付与された魔力なら、簡単に解ける」
「ハッ…言ってくれるじゃねーの」
男は初めて苦笑いを浮かべ、ポケットから小さな機械を取り出した。
「さあ!本番だ。ここは研究者らしく、俺の開発したロボットでキミたちを弱らせようか」
機械に付属されたボタンが押される。
低く轟くモーター音。ズシン、と床が振動し、大きなロボットが現れた。アガートラムに似た装甲、しかしそれよりも遥かに高い目標への殺意。
「殺しはしない、生かして捕まえて俺の研究に協力してもらう!」
強靭なアームが振り上げられ、白衣の男は高らかに笑った。
そして、彼は異変に気付いた。
「…は?なんで、動かない…?」
彼のロボットは腕を上げたまま停止していた。男が何度機械を操作しようと、ロボットはピクリともしない。
「は、は?な、なんで…」
「こんな雑なセキュリティなら、簡単にハックできます」
クロックが青い光を放つとウィンドウが展開する。そこに浮かんだ文字の羅列。それが何を意味するのかアルドには分からなかったが、『クロックがロボットを制御している』ということは分かった。
青ざめる男に追い討ちをかけるよう、レトロが男の周りを旋回する。
「怪しい研究者って攻撃用ロボット作りがちだからね!今回もこんなのがあると思ってたんだよ!」
「残念だったな」
「く、クソ…ッただの人間の分際で…!」
余裕の消え去った顔を怒りで震わせ、短剣を振るった。レトロは慌ててセティーの元へ逃げ帰る。
気が狂ったかのようにナイフを振り回しながら後退りする男の体に何かがぶつかった。もろく小さな少年の体。
男の顔が不気味に歪む。
「うわっ!」
「っ…!キアル!」
「動くな!」
男は叫ぶ、手に持った短剣をキアルの喉に当てながら。
「一歩でも動いたらこいつを殺す。俺は本気だ」
「う、うえぇ、うぅ」
「そんなこと_」
「いたい…!」
「!」
少年の悲鳴にアルドの足が止まる。
首筋に溢れる赤。鈍色のナイフはキアルの肌に食い込み鮮血を垂らしていた。
「動くなって言ってんだろ?」
「くっ…!」
「ボクがびゅーんと助けに_ウウ」
男目掛けて突撃したレトロの動作が止まり、動きをカクつかせながら地面へ下降し始める。
「変なことはさせねぇ。そのロボットたちには大人しくしててもらおうか」
キアルを抑える手とは別の手がコンピュータに伸びており、指を動かし何かの操作をしていた。男のしゃくり声が不規則に上がる。
「ウウウ、なんか、変」
「ノイズが、がが、処理がうまくできません」
「くっ…」
レトロに続きクロックにも異常が起こる。ついには二機とも完全に墜落し動かなくなってしまった。電波ノイズ_大量の不要な情報を二機に流し込み、ショートさせているのだろう。
その状況にさすがのセティーも冷や汗をかく。逡巡し、この状況を打開する策を模索している。
(男はキアルを人質に取っている。人質としての効果を発揮するためにはキアルが生きている必要がある。『俺たちは男を見逃す』、その代わり『キアルを生かす』。これは一種の交渉だ。
もし、俺たちが一歩動いたとして、その時本当に殺してしまえば彼の元から人質はいなくなる、つまり、俺たちを脅す物がなくなり彼の状況は悪化する。だから、奴はそう簡単にキアルを殺すことはないはず。
奴が普通の状態であれば。
今の男は酷く焦燥し、興奮している。自分の利益・不利益関係なしに、俺たちが動けばキアルを殺すだろう。)
「クソ…ッ!」
(一瞬でも隙ができれば、奴に接近できるんだが…)
「ハハッ…俺は死ぬわけにも捕まるわけにもいかない。研究を成功させて人間をさらなる高みへ…俺専用の人間兵器を作り出してやる!」
一歩、一歩と後方に退く男。その先に脱出するための手段でもあるのだろうか。
囚われたキアルは涙を流し、声にならない悲鳴をあげている。
(アナザーフォースを発動しようにも、力が足りないし…)
アナザーフォース。アルドだけが使える特殊能力で、その効果は『時を一定時間止めることができる』というものだ。しかし、それを発動するためにはある程度の力が必要である。そして今、その力は足りていなかった。
「目の前にいるのに…倒せないなんて!」
助けに行きたい、しかし動けばキアルは殺される。
血走った男の目はアルドたちの行動を凝視する。『一歩でも動けば殺す。』異様に興奮した目は彼らにそう訴えかけている。
誰も動かない_否、動けない。
どうすれば、これ以上キアルを傷つけずに済む…?どうすれば男を倒せる?どうすれば__
息の詰まる空気に思考が鈍る。
男に隙ができれば、男の注意をオレ達から外せることができれば…!
「一瞬だ」
アルドたちにしか聞こえない小さな声。
前に目を向けたまま、ジェイドは続けた。
「一瞬だけ、時間をやる」
端的に放たれた言葉。
その意図を汲み取ることは容易いことだった。
「充分だ」
青い瞳が瞬く。口が弧を描く。地を踏む右足に力が込もる。
「おい、何を話してる」
微かに動いた彼らの口に男は眉を顰めた。
「お前は頭が悪いと言う話だ」
そう言い放ったジェイドの周りにフッと風が吹いた。白髪をすいたその風は、白い炎を帯びていた。
男の背後に大きな影が現れる。唸り声を上げる、銀色の狼。
「ば、化け物!?なんで…」
「俺のことを知っているなら、こうなることも頭に入れておくべきだったな」
「は____」
男が視線を戻した時にはもう遅かった。
赤く光る矛先が男の腕を切り裂く。手からナイフが落ちキアルが解放され、アルドが受け止めた。
「うぐっ…!」
闇雲に振られた剣筋を軽くいなし、柄で胴を打擲する。倒れた男の胸を足で踏み抑え、槍先を顔の側に突き刺した。
「これで終わりだな」
すかさず男の腕を締め上げ、ポケットから手枷を取り出し男の両手首に取り付けた。
「…クッッッッ、ソッッ………。」
男から戦意がなくなったのを感じると、地に刺さった槍を抜き、後方のコンピュータに突き壊した。
バチッと火花が飛び散り画面が暗転する。白銀の狼はいつの間にか消えていた。
ジェイドは意気阻喪とした男に近づき、見下ろした。
「魔導書はどこにやった」
「…知らねぇ。そこにないなら…”あの人”がもう持っていったんだろ。お前たちが来る前か、きた後か」
「”あの人”とは誰だ」
仰向けになった男は懐古するよう目を細めた。
「”あの人”は”あの人”だ。俺に全てを教えてくれた人、人間の可能性を教えてくれた。特異な人間は人間の手で作ることができる…って…だから俺も、そうしようと思ってたのに…!」
男は唇を噛み締め言葉を止める。
「…チッ」
これ以上何も聞き出せないと分かり、不機嫌に背を向け当たりを見回し始めた。付近に魔導書らしきものがないか探しているのだろう。
まだ子供なはずの小さな背中。
相手に怯えることなく堂々と立ち向かっていく勇気、そして力。学生でありながら既にその強さを手にしてしまった彼は、多くの困難を経験してきたのだろうとセティーは思った。
その力強い背中に、呼びかける。
「ありがとう」
赤い目がセティーを見やる。
「君のおかげで助かった」
ジェイドはその言葉に黙すると、しばらくして「…別に」とだけ言い、顔を背けた。
褒められることに慣れていないようなその反応に、セティーは小さく笑った。
「セティー!ごめん!ボクたちダウンして…」
レトロとクロックがセティーの元に寄る。先ほどコンピューターを破壊したためか、機能が復活したようだ。
「大丈夫だ、気にしなくていい」
「う〜ん…そうは言っても…。あ!じゃあ、ダウンしてた分これからもっと頑張るぞ!ね!クロック!」
「もちろんそのつもりです。セティー、あと数分でEGDPが到着する様です。連絡しておきました」
「わかった。ありがとう」
「いえ!」
「あー!クロックずるい!ボクにも何かやらせて〜!…できれば突撃以外で」
「突撃以外とはなんですか?」
「そ、そうだなあ、物とか、押せる」
「何ですかそれ、そんなのあなたじゃなくてもできます、それに_」
宙で行われる喧嘩ならぬ会話を黙って聞いていたジェイドがため息をつく。
「…ずいぶん賑やかだな」
「けど、悪くはないだろう?」
「さあ。俺にはわからん」
一方アルドは、抱き留めた少年を床へ座らせ拘束を解いていた。細い腕を傷つけないよう、手枷を剣で切り落とす。
「助けるの、遅くなっちゃってごめんな。もう大丈夫だから」
小さな身体を優しくさする。血液が首筋を伝う。切り傷はそこまで深くはない。道具袋から適当な布を引き抜き血を拭うと、キアルは俯いたまま震える唇を開いた。
「…お兄さんたちは、いい人なの?」
「え?」
「おれ、わかんないよ!あいつがお姉ちゃんの病気を治してくれるって言ってて、けど、心配になって着いて行ったら、そんなことはなくて、おれも、いろんな人も、あの人に怖いことされてて…されそうになって…!」
止めどなく溢れる大粒の涙と言葉。アルドは静かに聞いていた。
「お姉ちゃんを取られてから、大人はみんな嘘つきだって思った、みんな悪いやつだって思ってた、だけど、お兄さんも…あの金髪の人も、あいつを倒してくれて…。おれ、わかんないよ!誰がいい人で、誰が悪い人なのか…ねえ。あのお兄さんはいい人なの?」
顔を上げたキアルは答えをアルドに求める。赤く腫らした目、不安と疑念を浮かべた目。
”あのお兄さん”とはセティーのことだろう。
自分に歩み寄ってきた人間が大人だった。大人だったから信用できなかった。だけどその大人は自分を助けてくれた。今まで信じてきたことを目の前で否定され、彼は混乱している。
少年を刺激しないよう、アルドは丁寧に言葉を紡ぐ。
「オレは…セティーはいいやつだと思うよ。君たちを救いたいって気持ちも、彼の正義も本物だと思う。けど、君は多分、オレの言葉だけじゃ納得できないはずだ」
キアルの瞳をじっと見る。彼の心に訴えるように。
「だから、君自身の目で見て考えるんだ。心で感じたそれが答えだよ」
「……」
小さな瞳がゆっくりと見開く。アルドの姿を映したその瞳からは涙は止まっていた。
二人の元にセティーたちが集まる。
倒れていた人たちの拘束は解かれ、それとは別の手枷で男は自由を封じられていた。
「キアル、無事でよかった」
「…」
しゃがみ込んだセティーは安堵したように微笑む。その表情を向けられ、キアルは眉を下げて視線を逸らした。
「…おれを捕まえるの?人のもの盗んだから」
「いや。盗まれた本人が、返してくれればそれでいいと言った。だから罪に問われることはない」
二人の視線を受け、恥ずかしそうにアルドははにかむ。
アルドの優しさを感じ、キアルの顔に優秀の影が差す。両手を握りしめ、声を振るわせた。
「…ごめんなさい。おれ、売ったお金で武器を買って、それであいつを倒そうと思ってて。けど、おれは、弱かった」
罪を犯してまで姉を救いたかった。けれどそれは叶わなかった。倒すどころか男に連れ去られ、立ち向かうどころか立ちすくむことしかできなかった。自分の無力さが悔しくてたまらなかった。歯を食いしばるも抑えきれない涙がまた、ぽたりと滴り落ちる。
「…一人で無理なら、今はそれでいいだろう」
ぽつり、とジェイドが言う。
声のする方へキアルの顔が持ち上がる。
「誰かを守るための行動は尊いものだが、自分の実力が伴わなければただ無謀なだけだ。だから__」
詰まらせた言葉の続きをアルドが紡ぐ。
「だから、誰かに頼ることも大事だってこと、だよな?」
「…いちいち俺を見るな」
ふいっと顔を逸らすジェイド。
彼も彼なりにキアルのことを考えているのだと思い、口にはしないものの、やっぱり優しいなとアルドは小さく笑った。
彼の言葉にセティーも続ける。
「頼れ、と命令するわけじゃないが…もし、俺の話を受け入れてくれるなら…君たちの安全は保証する」
真っ直ぐ向けられる目にたじろぎながらも、キアルは自分の言葉をしっかり持った。
「…おれは、まだ、わからない、信じられない。だから…。もっと、詳しく話を聞かせて欲しい。そして見せて欲しい。お兄さんの、計画を」
セティーに負けじと真っ直ぐな瞳を向ける。それを受け止めたセティーも力強く頷いた。
その時、ピピピという電子音が鳴った。どうやらジェイドの持つ端末から鳴っているようだ。
端末を操作すると空中に光が放たれ、イスカの姿が映った。
『やあ、事件は解決したようだね』
「イスカ!そっちは大丈夫か?」
『ああ、問題ないよ。重症者はゼロだった。そして、朗報だ。キアルくんのお姉さんが目を覚ましたよ』
イスカの姿が横へ消えると、少女の姿が映された。病室にいた少女_キアルの姉だ。
「お姉ちゃん!?本当に、生きてたんだ…」
『キアル、元気そうでよかった』
「お姉ちゃんは?」
『だいじょうぶ』
「そうか…よかった」
『早く病院に戻ってくるといい。待っているよ』
イスカと少女の姿が消え、光も端末に仕舞われた。
「よかったな、キアル」
「うん…。」
アルドはキアルの頭を撫でる。少年が笑ったことが心から嬉しかった。
__思えば今日はいろんなことがあった。
物を盗まれたと思ったらそれは氷山の一角で、大きな事件と凶悪な犯人が絡んでいて、人の命が危険にさらされていて…。それでも犯人は捕まえられた、少年や捕まっていた人たちも救い出せた。
部屋に武装したEGDPが入ってくる。彼らに説明をするため、セティーはその場を離れた。
「そういえば、研究の被害にあった人たちはジェイドと同じような力を使ってたけど、なんでなんだろう」
「…それは、あいつに入れ知恵をした”あの人”が、俺に関することしか話さなかったからだろうな。俺の力を模造するしかできなかった。だが、俺の属性とあいつに利用された人たちの属性は違った。違ったが故に、彼らは”適応できなかった”んだろう」
「なるほど…?」
分かったような分からないような。
適応できなかったからエルジオンの男は脳に異常を起こし、キアルの姉は暴走していた、ということは理解できたが。
「…言っておくが、魔物を作り出すことが俺の力ではないからな。この使い方はできれば、もう、したくはないな」
「分かってるよ」
(誰かを傷つけてしまうかもしれないものを自分の手で作り出すのは、あまり気分の良いものじゃないよな)
あの時の狼もそうだ。形は怪物そのものだが、その輪郭はぼやけ泡沫のようだった。自分で制御できるギリギリの段階で止めていたのだろう。
「さ、次は”あの人”って奴を探さなきゃだな。同じような被害が起こるかもしれない」
「無論、必ず見つけてやる」
そんな会話を交わす二人を、キアルは見つめていた。そして、EGDPにあの男を渡す、彼の背中に視線を移す。
人を助けようとしている、悪い人を捕まえようとしている。
そんな彼らを、少年は目を逸らさずに見る。
「ありがとう、お兄さんたち」
正義と焔と少年と あじは @azimioha
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