第4話 追及

壊れかけた建造物。合成人間の気配。狂った様に点滅するコンピュータの画面。

廃れた工業都市は相変わらず薄暗く、冷たかった。

カツっと瓦礫の破片を踏み、先へ続く広い廊下を見てアルドは眉を顰める。


「一応来てみたはいいけど…こんな広い所を虱潰しに探すのも時間がかかるよな…。ジェイドは何か感じたりしないのか?」

「俺をなんだと思ってるんだ。探知機じゃ無いんだぞ」

「いや、そうなんだけどさ…」


(ジェイドがイスカより先に病室にいたのって、魔導書の魔力を感じたからだと思ってたけど…違ったのかな?)


「クロック」


セティーに呼ばれたクロックは、了解と言わんばかりにビッ、と青い光線を放つと、すぐ側のコンピュータに近づいた。黒いボディーを走る光に合わせてコンピュータの画面も動き始める。


「?何をしている」

「工業都市廃墟の端末、サーバーにアクセスされた形跡がないか探っている」

「解析完了。ここ1年の月ごとのアクセス記録です。我々が捜査に使用した以外は、特に異常は見られません」

「ということは、研究とやらもここで行っているわけではないな」


速やかに行われたデータ解析、そして工業都市廃墟の端末を容易に扱う彼らに対し、ジェイドは不審に思った。


「一般人に、こんなことが…」


そうこぼれた彼の言葉にレトロが反応する。ジェイドの方に目_にあたる部分_を向け、左右のパーツをクルクルと回し始める。


「こんなことができるのもトーゼン!なんたってボクたちはCOAだからね!その中でもトップトップ!」

「COA…!?」


自慢げに、胸を張るように言われた言葉に、流石のジェイドも面食らったようだ。いつもの険しい目つきも僅かに丸くなっている。


「騙したみたいになってすまない。今は公式な捜査をしているわけじゃない、俺の私情で動いてるだけだから、身分を明かすことで気を使って欲しくなかった」


真っ直ぐそう言うセティーを見て、ジェイドは浅くため息をついた。


「…通りで、こんなことがすぐできるはずだ」

「…なーんか反応薄くない?」

「これでも驚いてるんだがな」

「え〜?」


ジェイドが驚愕することに期待していたレトロは、がっくし、と左右のパーツを下に向け浮遊高度を落とした。


「ポンコツ、遊んでないで先に行きますよ」

「あ、遊んでないよう!」

「先に行くって言ってもどこに行くんだ?ここに研究者はいないんだろ?」

「ここにはいなくてもこの先にはいる。巨大なハードウェアとデータを利用できるエリアがな」

「この先…あ!旧KMS本社か!」


ガリアードの人格データを入手するために訪れた場所。当時はKMS社のセキュリティで通れなかったが、アルドたちはそのセキュリティ、”スーパーバリア”を突破してしまった。もしそのままなら、誰かがいる可能性は十分にあるだろう。

そんな事件の経緯を知らないジェイドは旧KMS社の存在、ましてやCOAやEGPDでもないアルドがそれを知っていることに疑問を抱いていた。


「何故お前がそんなことを知ってる」

「前に行ったことがあるんだ」


軽く言うアルドに向けられる赤い瞳。

『相変わらずいろんなところに首を突っ込んでいるんだな』という声が聞こえてくる呆れた視線に冷や汗を流しつつ、そっと目を背けた。


「よ〜し行くぞ〜逮捕逮捕だ〜!」


レトロの快活な掛け声のもと、旧KMS社に向かうホバーを目指し、工業都市廃墟深部へと足を進めた。

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