プロローグ ②

 その博物館は市内の中心地にある駅から歩いて十分ほどの距離にある自然公園のちょうど中央にあった。何百年も前には城が建っていたそうだが、今では僅かに石垣を残す程度で、芝生と木々が植えられた緑豊かな公園となっていた。

 平日休日問わず、散歩や行楽に訪れる人の姿があり、博物館も定期的に催し物を開いていたため、この町で唯一自慢できるスポットであった。

 普段であれば、夜の十時も回れば、必然人の往来はなくなる…はずだった。

 閉館した博物館の周囲には赤色灯を点けたパトカーと警官たちが取り囲み、その周囲を何事かと通行人や近所の住民が物珍し気に見物していた。

 そんな緊迫した状態が突然破られる。


 ガシャーーンッッ!!


 突如、盛大な音を響かせ、博物館のガラス張りの扉が砕け散る。

 割れたガラス扉の内から黒い塊が飛び出した。それは夜闇に一瞬溶け込んだかと思うと、入口付近に陣取ったパトカーの上へと飛び移った。

 周囲にいた誰もが、この突然の状況に対応できず、ただ茫然とパトカーの上に降り立った存在を見つめていた。


 それは少女だった。

 黒髪を靡かせた、なんとも目のやり場に困る衣装に身を包んだ美しい少女がそこにいた。

 パトカーの上に降り立った少女は、ゆっくり辺りを見渡した後、誰にともなく優雅にお辞儀をした。


「――ごきげんよう、皆さん。とても良い夜ですね」

「「「っ?!」」」


 突然の少女の挨拶に、周囲にいた警官の誰一人、まともに返事を返すことができなかった。最初に我に返ったのは警官たちではなく、その周囲には群衆だった。

 偶然にも群衆の中の一人は震える手で事の一部始終をスマホのカメラに収めていた。

 人だかりの中で唯一、当人は目の前の驚くべき光景よりも、自身が撮影したこの動画に向けられるであろう再生数と反響に興奮していた。

「ははっ」

 男の口から歓喜と興奮の入り混じった声が漏れる。

 翌日、男の期待はそれ以上の反響をもって叶えられた。





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